ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


「また女子会だあ?」





俺、馬鹿なのか?





「うん、そうだよ!」

秋も深まる10月中旬。
アリスは突然諏訪の隊室にやってきて今日は帰りが遅くなると告げた。
残業かと思って諏訪が待っていようかと問うてみれば、それは見当違いな気遣いだったようだ。
またも開催される女子会に、諏訪はイニシャルKの年下ガールズチームの隊長を思い浮かべて口の端を引きつらせた

「また加古達とか?」

ため息交じりでそう聞くと、思っていたような返事ではなかった。

「今日はね、蓮ちゃんと!」

「あ?月見だけなのか?」

「うん!」

本日の女子会(と言っても参加は月見とアリスの2人だけ)は実に小規模で唐突に決まったことだったらしい。
月見が映画の試写会が当たって一緒に行く相手を探していたところ、都合よく目の前をアリスが歩いていたとのことだ。
試写会は4人まで行けるらしいのでもちろん加古と橘高も誘いたかったが、2人の隊はちょうど防衛任務で予定が合わなかったとのこと。
そこで結局女子会というよりはデートになってしまったのだ。

それを聞いて諏訪はホッとする。
加古達には悪いが、月見だけならアリスにいらぬことを吹き込まないだろう。

「迎えに行ってやるから時間わかったら後で連絡してこいよ。」

「うん、ありがとう! あ、晩御飯ね、昨日の残り物でよかったら冷蔵庫に入れてあるから温めて食べてね。」

「お、昨日のアレまだ残ってたのか。結構うまかったよな。」

「私の料理はいつでもおいしいもんね!」

「はいはい、ありがとな。」

そう言って諏訪はアリスの頭をポンポンと撫でる。
アリスはそれに満足したのか笑った。

そんな光景を後ろから見ていたのは堤をはじめとする諏訪隊の面々。

(((何であれで…。)))

この後何が続くかは言わずともおわかりいただけるだろう。





(で、何でこうなるんだよ!)

諏訪はアリスと一緒に映画館に来ていた。
手には月見から渡された映画の試写会の招待券。

「洸ちゃん、早く行こう!」

「ああ。」

アリスに手を引かれ、諏訪は渋々映画館へと足を踏み入れた。

アリスの話ではこの映画の試写会に来るのは月見とアリスだった。
だが急に任務が入ったから代わりに行ってくれないかと月見が突然諏訪の隊室にやってきた。

『アリス、すごく楽しみにしてたんです。代わりに行ってもらえませんか?』

そんな風に言われたら諏訪に断る理由はない。
今日見るこの映画はラブロマンスらしく、なんとも自分に合っていないことは承知の上でだったが諏訪は月見の申し出をおとなしく引き受けた。

諏訪はアリスの後を追いながら月見からもらった招待状を見る。
タイトルは『幼馴染の憂鬱』。
原作は小説でタイトル通り幼馴染である男女の恋模様を描いた映画のようだ。
アリスがポップコーンを買っている間諏訪は受付でもらったパンフレットを見る。
この主人公の男女、見れば見るほど自分とアリスの関係に似ている。
必死に振り向いてもらおうとする青年と、まったくそれに気がつかない鈍感少女。
似ているなんてものではない。
これはまるで諏訪とアリスそのものだ。

(…月見、まさか内容知ってて俺に来させたんじゃ…。)

ここまで来ると月見が本当に任務で来れなくなったのか疑ってしまう。

「洸ちゃん、どうしたの?」

アリスは席に座ってポップコーンをパクついている。
アリスはこの映画の内容を知っているのだろうか?
知っていたとしたらどう思っただろう。

「何でもねえよ。」

諏訪は考えるのをやめた。
この映画がどんな結末か知らないが、ここまで自分達に境遇が似ているのだ。
もしかしたらこの映画を見ることでアリスが自分を意識するようになるかもしれない。

諏訪はそんな風に少し期待しながら椅子に座りなおした。





「洸ちゃん、映画おもしろかったね!」

「そう、だな。」

アリスの言う通り、映画はおもしろかった。
アリスはご機嫌で映画館を出た。
そしてその横を諏訪が通り過ぎる。

「さっきからどうしてずっと泣いてるの?」

「うるせえ、泣いてねえ!」

ズズッと鼻をすする諏訪をアリスは後ろから覗き込んだ。
泣いていないと本人は言うが、諏訪本人の目にはどう見たって涙がたまっていた。

(くっそー、あいつ。最後くっつきやがって、馬鹿野郎。)

あいつ、というのは映画の主人公の青年だ。
彼は鈍感な幼馴染に何度も何度もアタックしてついに思いに気づいてもらいめでたくハッピーエンドとあいなった。
だが、諏訪が気に入らないのはそこではない。

(俺のほうが全然苦労してるじゃねえか!何でお前らだけくっついちまうんだよ、馬鹿野郎!!)

そう、たしかに映画の主人公の青年は幼馴染の少女の想像を絶する鈍感さに振り回され、苦労をしていた。
それでも諏訪からしたらそれは生易しく、アリスのほうがはるかに鈍感で、自分のほうがはるかに苦労していたのだ。
案の定、アリスの態度はちっとも変わらない。
諏訪はそれが悔しくて、だから泣いているのだ。

「変な洸ちゃん。」

そしてアリスは首をかしげるしかしなかった。


ブブ ブブ


するとその時諏訪とアリスの端末がそれぞれ震えた。

「あ、蓮ちゃんからだー!」

アリスには月見から『映画どうだった?』と一言メッセージがきていた。
アリスはご機嫌でそれに返事をする。

「おも、しろか、ったよ!っと。送信!」

するとすぐに月見から返事が来たようだった。
一方諏訪の端末にも同じく月見からのメッセージが入っていた。

『参考になりましたか?』

それはやはり映画が始まる前に諏訪が思った通りだった。
月見は始めからアリスと2人で映画に行くつもりなんてなかったのだ。
この映画の内容があまりにも諏訪とアリスに似ているから2人に見せたかったのだ。
だが初めから招待券を譲ると言ってもアリスや諏訪は素直に受け取らなかっただろう。
だから土壇場で諏訪に託すようにしたのだ。

「…。」

諏訪は月見に弾丸のごとく返事を返した。

『気遣いありがとうな。でも何の参考にもなんなかったわ!むしろ虚しくなったっつーの!!( ´;ω;` )アリスの返事見ただろ!ただ単に面白かったわ!!!』

諏訪は大人気ないとわかっていながら月見にちょっと八つ当たりのこもったメッセージを送った。
すると今度は何故か加古からメッセージが届く。

『ドンマイでーす★⌒(●ゝω・)ノ』

なんとなくそんな気はしていたが、やはりこの件には加古も絡んでいたようだ。

『てめぇ、マジに覚えとけ(#・∀・)!!!!!!』

諏訪は加古に八つ当たりのメッセージを送ると端末を乱暴にポケットに押し込んだ。
それを見てアリスはまた首を傾げた。

「どうしたの?洸ちゃん。」

「なんでもねえよ。」

「お腹空かない?何か食べて帰る?」

「お前の食べたいもの。」

「ハンバーグ!」

「諏訪、了解。」

不機嫌なように見えて、アリスにきちんと返事を返す諏訪。
アリスは何故諏訪が怒っているかはわからないが、返事はしてくれるのでそれでよしとした。




「あー、サッパリした。」

家に帰ると夜も大分遅かった。
アリスは帰ってすぐに風呂に入り、そして次に諏訪が入る。
そうして今諏訪が風呂からあがったところだった。
まだ湿った髪をタオルでガシガシと拭きながら脱衣所から出てくると、リビングにはもうアリスの姿はなかった。

(もう寝たか。)

諏訪がそう思いながら寝室を覗くと、案の定ベッドの隅で丸くなっているアリスがいた。
アリスが先に寝てしまうのはいつものことだ。
どうも夜更かしが苦手なアリスは、お腹がいっぱいで風呂に入るとすぐに眠くなってしまうらしい。
この辺の回路は子供のままなのだ。

そんなアリスを見ながら諏訪は頭が乾くまでベッドにもたれかかって本を読んだりするのが日課だった。
ドライヤーで乾かす?この風呂から出て熱いというのに諏訪がそんなことをするはずがない(アリスが起きてる時は怒られるからやる。)

(どれどれ…。)

だが諏訪は今日は本を取り出さずに端末を手に取った。
検索窓に『幼馴染の憂鬱 感想』と打ち込んで検索する。
まだ本公開をしていない映画なので、あまり感想の書き込みなどはないだろうがしている人間はしているだろう。
予想通り感想のスレッドが立っていたので諏訪はそれに目を通して眉間にシワを寄せた。

『面白かったけど、あんな鈍感な女いる?www』

『主人公頑張ってたな。くっついてよかった。』

『いや、女のほうマジで鈍感すぎるだろ、ウケるwww』

などなど。
大半がヒロインの鈍感さがありえないというものばかりだった。
諏訪は端末を握る手に思わず力が入った。

『てめえらは現実をわかってねえ!あれ以上に鈍感な女は実際問題いんだよ!!!!』

と書き込めたならどんなにこの気持ちが晴れるだろうか。
いや、おそらく大勢の反撃にあって逆にヘコむことになるだけだろう。
諏訪は振り返って眠るアリスを見る。

「この鈍感娘が…。」

諏訪はため息をついて今日もらってきたパンフレットを見た。
そして最後に幸せにくっついた2人を見てまた大きなため息をつく。
どうすればこの主人公のように超鈍感な幼馴染に振り向いてもらえるのだ。
諏訪はこの映画のクライマックスを思い出す。

(大体なあ、好きって言うの遅すぎなんだよな、この主人公。言わねえとわかんないんだから普通最初に言うだろ、さい、しょ…に…。)

諏訪はそう思いながら頭の中で言葉が尻すぼみになっていってしまった。
待てよ、と思い頭を抱える。

(俺、アリスに好きって言ったことなくね?)

途端に諏訪の顔は青ざめる。
何度思い返してもアリスに『好き』という言葉を発した記憶はない。
距離が近すぎて諏訪自身も気がついていなかったのだ。
平気で名前を呼んで、平気で頭を撫でて、平気で抱きしめて。
それなのに『好き』だとは一言も言ったことがないのだ。

(俺…マジか…。)

諏訪はあまりの絶望につい手を床についてしまう。
だがすぐに頭の中でイイワケを始めた。

(いや、でも、よ。一緒に住むとか一緒に寝るとかいくら近しい間柄でも普通なくね?普通好意あるって思うよな?)

たしかに相手が普通の女の子ならよかっただろう。
だが相手は頭に超が10個ほどつく鈍感娘だ。
普通の内容は通用しない。
『好き』と言ったところで『私もー!』などと流される可能性だってあるのだ。

(はあー。俺、マジかよ。俺のせいじゃねえか。)

関係が進展しないことを嘆いていたが、何のことはない。
本当の本当に自分だって悪いのだ。
ほだされてしまって現状でいいかとなってしまうことも進まない原因だが、思いはやはり言わないと始まらないし、伝わらない。

(…。)

諏訪はまたアリスのほうを振り返って顔を覗き込む。

「アリス。す…。」

れいの言葉を言おうとしたが途中で止めてしまう諏訪。
ばっと元の体勢に戻って口元を押さえる。

(今更言えるかよっ!!!)

諏訪は顔が熱いことに気がついた。
それは風呂の余韻ではないだろう。

(今更…言えるかよ…。)

諏訪は熱いままの顔を冷まそうと部屋を出るのだった。










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2019.05.14
諏訪さん連載29話目更新です。
久しぶりの更新です、おまたせしてすみません、、
もうちょっと続きそうです。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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