人数多すぎだろ、これ ライバルなのかなんなのか 「じゃあみんなで早速作ってみようー!」 『おー!』 夏休み最後の日。 場所はボーダー玉狛支部。 その不思議なイベントは開催された。 「人数多っ…。」 それを部屋の片隅で木崎と見守っていたのは諏訪だった。 「ブレスレット作る人はこっちー、ストラップの人はこっちでーす!」 テーブルに広げられるハンドメイドの材料とそれを囲むメンバーを見て諏訪はため息をついた。 「お前は作らないのか?諏訪。」 「馬鹿言うなよ。俺にあんな細かいことできるわけねえだろ。」 「そうだな。」 「そう言われるとムカつくな。」 今日はアリスを先生としてハンドメイド教室が行われていた。 集まったのは橘高、月見、迅、嵐山、柿崎というアリスの同い年の面子に加えて、場所を提供した玉狛支部に所属する小南と烏丸も参加。 そして何故かちゃっかり風間も参加している。 事の発端は夏休みに行った来馬の別荘を利用した旅行。 その時アリスは一緒に来られなかった月見へのお土産にと拾った貝殻でブレスレットを作ったのが始まりだった。 それを見た月見や橘高が興味を持ち、今度みんなで作ろうという、普通なら口約束で終わりそうな計画が今まさに実行されている状況だ。 場所はだいぶ迷ったが、本部基地だと大人数でこういった私事ができる場所も少ない。 騒いだりすると迷惑かもしれないという事で、結局迅の勧めで玉狛支部で行うことになったのだ。 基本的にオープンな玉狛支部はこういう時に便利である。 「まずはメインにする色を決めてねー!」 楽しそうにみんなに教えるアリス。 そういえば小さな時から細かいことが好きだったなと諏訪は思い出していた。 「諏訪、お前暇ならこっち手伝え。じゃがいもの皮むいてくれ。」 「今日の飯当ててやろうか。カツカレーだろ?」 「風間がいるからな。」 「ほらな。」 参加をしない木崎と諏訪は夕飯作りの担当だ。 みんなでハンドメイド品を作った後はせっかくだし夕飯も食べていけという流れになったのだ。 木崎は風間がいるときは大体カレーを作る。 それは諏訪も知っていた。 「お前がアリスと暮らし始めてからあまり集まらなくなったしな。」 「悪かったよ。」 アリスと再会する前は諏訪は木崎と風間とよく飲んでいた。 それは店であったり、誰かの家であったり。 その度に料理の鉄人・木崎はカレーを作ることが多かった。 諏訪の家でもよく集まっていたが、諏訪がアリスと一緒に住むようになってからは集まりも減った。 「お前達、うまくやってるのか?」 「それちょっと嫌味入ってるだろ、レイジ。」 木崎の言葉に諏訪は少しムッとする。 一緒の暮らしについては喧嘩などなく全く問題はないが、男女の関係という意味では全くうまくいっていない。 というよりうまくいくも何も、未だ諏訪とアリスは幼馴染のままだ。 「愚問だったな。ビールも用意してやるから機嫌を直せ。」 「…2本な。」 そうして諏訪はもくもくとじゃがいもの皮をむき始めるのだった。 「羽矢、結構綺麗にできてるわね。」 「蓮こそ、その色イイ感じじゃん。」 カレーのできる芳しい香りをかぎながら、ハンドメイド班も着々と物が完成に近づいていた。 「嵐山くん、上手にできてるねー。」 「ホントか、アリス!よーし、もう1個作るぞー!」 嵐山は妹と弟にそれぞれブレスレットを作るそうで張り切っている。 その隣では細かい作業に苦戦している柿崎がいた。 柿崎は柿崎で作れたら自分の隊員達にプレゼントしようと思っているが思うように進んでいないようだった。 「小南ちゃんととりまるくんも上手上手。」 アリスはみんなが作っているのを見て回る。 「風間先輩、できました?」 「あと少しだな。」 風間は今日飛び入り参加だったが、案外真面目に取り組んでいる。 その様子を隣で陽太郎がまじまじと見ているのがなんとも見ていて微笑ましい。 「迅くん、どーお?」 先程から手が止まっている様子の迅の隣にアリスは腰掛ける。 すると迅はふふんと得意げな顔をして手の中からシャラリとブレスレットを落とし揺らした。 「わあ、さすが!実力派エリート!」 「まあねー!」 ゆらゆらと迅がそれを揺らす度、淡いピンク色が光に照らされてキラキラと光った。 あまりに綺麗にできており、しかも色合いからして女性向けなかんじがしたそれを見てアリスは言った。 「誰かにプレゼント?すごく綺麗にできてる。」 「うん、プレゼント。君に。」 迅はそう言うとアリスの腕を取りそっとそのブレスレットをつけてあげた。 迅の思った通りそのブレスレットはサイズも色もアリスにピッタリだった。 「えっ?!これ、私にくれるの?」 「うん、日頃のお礼。」 「そんな。なんか悪いなあ。」 「悪くないよ。アリスちゃん、俺一生懸命作ったよ?」 そう言って迅はアリスからのある一言を待っていた。 「ありがとう、迅くん!嬉しい、大事にするよ!」 アリスがお礼を言って笑うと迅も満足したのかにっこり笑った。 (迅、お前…。) それを嵐山が心配そうに見ていたことに迅は気がつかなかった。 「木崎先輩のカレーすごくおいしかったねえ!」 「余ったのくれるのはいいけど鍋ごとって…。」 家に帰り着いてカレーの入った小鍋を冷蔵庫にしまうアリス。 木崎が余ったカレーを持たせてくれたのだ。 「あの車しばらくカレーくせえだろうな。」 「だね。」 帰りは木崎が玉狛の車で家まで送ってくれた。 その間アリスはカレーの小鍋を抱えていたわけだが、密閉されているわけではないので当然車の中はカレーの香りでいっぱいだった。 諏訪達はしばらく乗ることはないだろうからそれでもいいが、日常的に使う林藤などはよかったのだろうか。 まあ今更そんなことを言ってもどうすることもできないが。 「今日楽しかったなー!」 そう言ってドサっとソファに腰を下ろすアリス。 今日の集まりはよっぽど楽しかったのだろう。 「明日から学校だね!」 「それな。」 諏訪はうんざりしたように頷きながらアリスの隣に座った。 いつもなら終わっていない課題やレポートがあると泣きながら風間に電話するところだが、今年はアリスにしっかり管理されていたので全部終わっている。 いいことなのか、悪いことなのかわからないが、今晩安眠できることを考えるといいことなのだろう。 「あ、洸ちゃん!これ作ったよ、ストラップ!」 アリスはそう言ってカバンから今日作ったストラップを取り出した。 先日月見にあげていたもの同様よくできていた。 諏訪は嬉しそうに受け取ると早速端末に取り付ける。 「サンキューな、アリス。」 「ううん、喜んでくれて嬉しいよ!」 と、アリスが笑ったときにちらりと腕に光るものを諏訪は見た。 「お前、それどうしたんだ?」 「あ、これ?」 それは今日迅がアリスに送った手作りのブレスレットだった。 「これね、今日迅くんがくれたんだ!上手にできてるよね。さすがは実力派エリートだよ、迅くんは。」 そう言いながらアリスはそれを外して見せてくれた。 諏訪はそれを見てもやっとする。 (迅…。) 諏訪が見ていないところでそんなことがあったとは。 諏訪はそのよくできたブレスレットを見て思った。 (あいつ…。) 諏訪はその先を考えなかった。 考えたって教えてもらえるわけがないのだ。 相手はあの迅 悠一だ。 聞き出すことなんてできるはずがない。 「洸ちゃん?」 「ああ、わりぃ。よかったな、すげえよくできてるじゃん。」 「そうだよね!」 諏訪がそれを褒めるとアリスは嬉しそうに笑ってそのブレスレットを腕につけ直した。 アリスがこのプレゼントをどう受け止めているのか、諏訪にはわからなかった。 どうせ『日頃お世話になってるから』とかなんとか言われて渡されたのだろう。 そうでなければこんなに平然とつけていられるはずがない。 (鈍感ってマジで怖えわ。) 諏訪の中に少しもやもやは残ったが本人が気にしていないなら何も言わないに越したことはない。 迅もそう思っているような、諏訪にはそんな気がした。 「あー、俺も作ればよかったかなー。」 などと諏訪がため息をつけば。 「材料余ってるよ?」 とアリスは笑う。 「堤と日佐人にでも作ってやるか!」 「じゃあ私はオサノちゃんの作る!」 そうしてハンドメイド教室続編が諏訪宅で静かに始まるのだった。 Prev | Next ******************************* 2019.03.30 諏訪さん連載27話目更新です。 この連載での迅の立ち位置が、書いていて自分でもよくわからない(笑) ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |