(ちょっと待って。あそこに飛び込む勇気はさすがにない。) 続々々 お散歩道にて 嵐山さんにデートに誘われた翌日。 学校で友達にソッコーで拉致されて、嵐山さんとの関係を洗いざらい白状させられた。 黙っていたことを怒られるかと思ったが、何も言わずに最後は頑張れと言ってくれた。 昨日も思ったが何て良い友達なんだろう! 正直ヤキ入れられたらどうしようかと思った。 ついでにお散歩デートに誘われたことを言うと、一人の友達が多分大変だよ、それ。と言った。 あたしはその時あまりちゃんと意味を理解しなかったけど、今それを体験させられて理解した。 待ち合わせは駅前の広場。 あたしは嵐山さんを待たせないように15分前には駅に到着、待ち合わせの駅前の広間に行くと人集りに遭遇した。 んん、まさか?と思ってそっと近づいて遠巻きに見ると、思ったとおりその中心には嵐山さんがいた。 (人多っ!囲まれ過ぎだよ、嵐山さんっ!!) 先日学校の正門のところであたしを待っていた時の比ではない。 と言うか嵐山さん来るの早い。 最近身近に感じすぎていてすっかり忘れていたが、嵐山さんは三門市ではそこらのアイドルよりも有名なのだ。 テレビもラジオも良く出ているし、雑誌で特集されることなんてのもある。 そんな有名人が駅前の広場でポツンと立っていたら、あたしでも話しかけてしまうだろう。 (あ、あの女の人達綺麗。) 嵐山さんにサインをせがむ大学生ぐらいの女の人達。 化粧もしてて、体もすらっとしてて羨ましい。 嵐山さんとは同い年か、少し上ぐらいかな? 写真も一緒に撮って、ファンサービスを徹底。 「あ。」 「!」 柱の物陰から様子を伺っていたあたしに気がついた嵐山さんは取り巻くファン達に両手を合わせた。 「ごめん、待ち合わせの子来たみたい!みんなまた今度!」 ファンの人達からえー、と始め声が上がったが、嵐山さんが申し訳なさそうに笑うと打って変わって、快く出かける彼を送り出していた。 何と言う嵐山スマイルの破壊力。 「アリスちゃん、早いな!」 「あ、嵐山さんこそ。」 目の前まで来た嵐山さんを何となく直視できず、後ろのファン達に視線を向けた。 「よかったんですか?あの人達。」 「ん?ああ、もと待ち合わせの子が来るまでって話だったし。大丈夫さ!」 そう言って嵐山さんは歩き出した。 「晴れて良かったね。絶好の散歩日和だ。」 そう言って歩き出す嵐山さんを、あたしは何だかもやもやしたまま歩き出した。 「今日はどこに行くんですか?」 バスに乗り込んで2人で並んで座る。 ここでも周りからの視線が痛い。 「自然公園。天気も良いし、絶対に気持ち良いよ。」 そう言って嵐山さんは鞄からパンフレットを取り出して広げた。 駅からシャトルバスが出てるので楽ということもあり、三門ではわりと有名なデートスポットだ。 「どうかした?」 「あ、いえ!」 有名デートスポットと言う響きに思わず酔いしれてしまった。 普段の朝もシェリー達がいるとは言え、2人きりのデートみたいな物だ。 それでもやっぱり犬の散歩という意識の方が高くあまり気にしていなかった。 でも。 「ねえねえ、あれ嵐山さんじゃない?ボーダー嵐山隊の!」 「一緒にいるの彼女かな〜?」 やっぱりそんな風に見えるだろうか。 私はそっと嵐山さんを盗み見る。 こういう人の目に慣れているのだろうか、全然周りが気になってない様子だった。 まあ嵐山さんの性格的にそんなのを気にするようにも見えないが。 あたしは嵐山さんの何に見えるだろう? さっきの人達の言うように彼女に見えるだろうか。 じゃあ嵐山さん自身はあたしをどう思ってるの? デートに誘ってくれるっていうのは少しぐらいは期待しても良いのかな。 「さ、着いたよ。」 そうこうしている内に目的地に到着し、さっきより更にもやもやしたまま嵐山さんの後に続いた。 「人多いですねー!」 「ああ、この時期でもいろいろ花も咲いてるらしいしね!」 入場券を買って、ゲートをくぐると結構人で混み合っていた。 正直自然公園舐めてた。 ドッグランもあるので、ペット連れの人も多い。 あたしと嵐山さんはとりあえず外円に沿って公園の中を一緒に見て回ることにした。 春先とは言えまだ寒い日が続いているが、確かにいろんな花が咲いていた。 回るだけでも楽しかったし、たくさん歩いたから体もポカポカと暖かい。 「ちょっと休憩しようか?」 「いいですね、何か食べますか?」 「俺、あそこのワゴンで何か買ってくるから待ってて。」 嵐山さんはあたしをベンチに座らせると人の立ち並ぶワゴンへ向かって行った。 何だかホントにデートだ。あたし、今デートしてるぞ。 夢みたいで実感がない。 並ぶ嵐山さんを見ていると、そんなあたしに気がついた嵐山さんがこちらに手を振る。 照れ臭かったがあたしも控えめに手を振りかえした。 そうして視線を公園に移して。 「?」 「アリスちゃん、その子は?」 「うわあぁん。ママー!」 嵐山さんを待っている間に泣いている子を見かけたので声をかけた。 「あ、えっと。迷子みたいで。」 そう、すると案の定迷子だったのだ。 嵐山さんには悪いなと思ったが、お母さんがいないと泣いてる子も放っておけず、思わずベンチまで連れて来てしまったのだ。 「嵐山さん?」 うわぁ、嵐山さん、びっくりしてる。 もしかして怒った?デート中に何してんだって感じなのかな? どうしよう。 返事のない嵐山さんに半ばビクビクしながら様子を見てると、嵐山さんは子供を挟んで反対側に座った。 「迷子になっちゃったのか、かわいそうに。これ食べたら一緒にお母さん探しに行こう?」 そう言って嵐山さんは先ほど買ってきたホットドッグを子供に差し出した。 そしてあたしにも。 「ね、アリスちゃん。」 そうやって笑う嵐山さんは最高に優しくて。 「はい!」 「本当にどうもありがとうございました。」 「いいえ、そんな。」 「お母さんに会えて良かったな!」 「うん、ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん!」 迷子の子に出会った辺りを少し探した後、迷子センターに向かった。 母親らしき人からの申し出はまだなく、センターの人が子供を預かってくれようとしたところ、子供はグズってあたしの体から離れなかった。 アナウンスもしてもらい、1時間ほどしたころ、母親が現れ子供を連れて帰って行った。 と、今ここである。 「嵐山さん、何かすみませんでした。」 「何が?」 「だってあの子の相手してたらこんな時間になっちゃって。」 時刻は夕方少し前、そろそろ帰る人も多くなって来るころだ。 子供を放ってはおけなかったが、折角のデートの時間を削ってしまったという申し訳なさもやっぱりある。 「そんなこと気にしてたのか?アリスちゃんは本当に優しいな。」 そうやって嵐山さんはあたしの頭に手を乗せポンポンと撫でてくれる。 「俺も同じ状況だったらこうしたさ。それに案外こういうことできる子って少ないんだぞ。もっと胸を張って。」 嵐山さん、優しいな。 怒らず、こうやって慰めてくれる。 ああ、好きです。好きなんですと言ったらあなたはどんな顔をしますか? 「俺達もそろそろ帰ろっか。帰りのバス混むらしいし!」 そう言って自然に手を引かれる。 伝わる温度が暖かい。 「また来ような。」 そう言っていつかのようにまた会える言葉をくれる嵐山さん。 今はまだそれだけで十分だ。 彼女にして欲しいと言うにはまだ勇気が出ない。 「はい、もちろん。」 こうやって笑うだけで精一杯だ。 Prev | Next ******************************* 2015.4.25 散歩道出張版ですね。 まだもう少しのんびり散歩が続きそうです。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |