ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


おまえってやつは本当に





ありがとうはこっちのセリフだ





そこからアリスはポツリポツリと話し始めた。

今日の昼休憩、アリスが廊下を歩いていると突然問題の女性職員達に声をかけられた。
何やら大事な話があるから時間が欲しい。
何の話かはわからないが、自分なんかにわざわざ声をかけるぐらいだ。
よほどの話があるのだろう。
東達曰く、アリスが連れられて歩いている時点で何だか雰囲気は良くなかったようだが、アリス自身はそんなこと何も感じなかったようだ。
鈍感なのがこんなところにまで影響するとは。

ともかくアリスは休憩中で特に用事がなかった。
だから何も考えずに彼女らについて人気のない休憩スペースまでついていったのだ。

「桐島さんって嵐山くんと付き合ってるの?」

「へ?」

そこで待っていたのは思いがけない問いかけだった。
アリスはわけがわからず首を傾げた。

「え?私が?ですか?」

「そうよ。」

そこでようやくアリスは目の前の女性職員らが何となく怒っていることを感じ取った。
アリスは彼女らが何を怒っているかはわからなかったが、とりあえず質問にはきちんと答えた。

「付き合っていませんよ。」

「そう。」

そして彼女達はアリスにとんでもない要求をしてきた。

「だったら嵐山くんと親しげにするのやめてくれない?」

「嵐山くんは皆の嵐山くんなの。桐島さんのものじゃないんだけど?」

「??」

アリスはますます首をひねった。
嵐山とは付き合っていない、ただの友達だ。
だがだったらどうして親しげにするのをやめないといけないのか。
それに皆の嵐山って何だ。
アリスにはそれが到底理解できなかった。
何故目の前の女性職員達はそんなことを言うのか。

「嵐山くんは嵐山くんで皆の嵐山くんじゃないと思いますけど。」

「何言ってるの、あなた!」

「ふざけないでよ!」

アリスは正論を言ったつもりだった。
だが彼女達は引き下がるどころか怒り出したのだ。

「だいたい何なの?!ちょっと仲が良いからって嵐山くんにベタベタして!この間なんて旅行にまで行ってたらしいじゃないの!」

鈍感なアリスでもさすがにここまで言われれば理解できた。
この女性職員達は嵐山の熱烈なファンで、その嵐山と友達である自分のことが気に入らないのだ。
だいたいベタベタしていないし、アリスに自覚はないがベタベタしているという意味ではどう考えても嵐山ではなく諏訪のほうが上だということはボーダーの職員なら大体知っていることだ。
旅行だって2人で行ったわけではない。
他にもたくさんの友達と行ったのだ。
ますます持って彼女達の言い分は理解できない。

「嵐山くんはそういうこと言う人好きじゃないと思いますけど。」

「なんなの、桐島さん!さっきから!」

「それは私のセリフですよ、先輩。私と嵐山くんは友達で、その友達である関係を先輩達にやめろなんて言われるのよくわからないです。」

「っ!!」

アリスは困ったような顔をして言った。

女性職員達はアリスのことを少しナメていたようだ。
アリスは普段からふわふわしていて天然で。
だから少し強く言えば従うとでも思っていたのだろう。

だがそんなことは全然ないのだ。
アリスはたしかにふわふわしていて天然で。
一見人の言うことなら何でも聞きそうな、そんな雰囲気はある。
しかしあまり知られていないが、筋が通っていないことは嫌いだし、自分が納得できないことは普通に反論する。
頑固といってもいいだろう。

女性職員達はアテが外れたのか、これ以上言っても考えを変えなさそうなアリスに吐き捨てるように言った。

「だいたい嵐山くんも嵐山くんよ。こんな平気で二股かけるような女のどこがいいわけ。」

「二股?」

アリスにとってはまたもや無縁で身に覚えのない話だ。
アリスは更に困ったような顔をして理解できないと言った表情を見せた。

「桐島さん、諏訪隊長にもベタベタしてるでしょ?あ、三股、四股だっけ?他にも風間隊長や東隊長とか。誰でも節操なしにベタベタしてヤダヤダ。」

「諏訪隊長もかわいそうよねー、こんな子が幼馴染だなんて。まあでも見た目ヤンキーで頭悪そうだし。ヤレれば誰でもいいって思ってるんじゃない?」

「!」

そこでアリスは初めて表情を強張らせた。
それが女性職員達にはやってやったと思ったのだろう。

踏んではいけない地雷を踏んでしまったとも知らずに。

「まあでも桐島さんみたいな天然ちゃんには諏訪隊長みたいな馬鹿っぽい人がお似合いかもね!」

「そうそう。弱いくせに隊長やってB級中位ウロウロしちゃって。そろそろ引退すればいいのに。」

「ヤンキーみたいな見た目なのに本なんか読んじゃって。それに面倒見がいいとか作ってんでしょ、どうせ。」


パシン!!


続けられる心ない言葉、罵声にアリスはいつの間にか手を出していた。

「取り消してください。」

頬を叩かれた女性職員は一瞬呆気にとられたが、打たれたと理解すると逆上しアリスを突き飛ばした。

「何すんのよ!!」

突き飛ばされたアリスは自動販売機に背を打ち付け、そのまま倒れた。
その時備え付けのゴミ箱が派手な音を立てて倒れ中身が散乱する。
柿崎と東が聞いた大きな音はこれだ。

「今の絶対に許さないんだから!!」

そう言ってアリスはその職員に掴みかかった。
そしてそれを柿崎と東が止めて今に至る。





「そんなことがあったの。」

一部始終を話してくれたアリスの声は涙声で震えていた。
今聞いた話が全て事実だとすると、相手の女性職員の常識や品位が疑われるし、言われた側のアリスの悔しさやその場にいなかった諏訪たちも気分を害するだろう。
月見は子供をあやすようにポンポンと一定のリズムで布団の上からアリスをトントンと叩いた。

「ってか、俺嫌われすぎじゃね?」

諏訪はさすがの言われように口の端をひきつらせる。
それを風間が肩に手を置き慰める。
なんとなく風間は怒っているようにも感じた。

風間だけではない。
隣の部屋で話を聞いていた面々ほ内心がムカムカしていた。
加古や橘高のように殴り込みに行くぞと素直に気持ちを表すことができるのが羨ましいと感じるぐらいに。

「あの人達絶対許さない。嵐山くんのことも風間先輩のことも東先輩のことも馬鹿にして信じられない。それに…。」

そこでようやくアリスは起き上がった。
布団を頭からかぶるように羽織っていて表情は月見からは見えない。
隣の部屋にいる諏訪達だって当たり前だがアリスの顔は見えない。
だが全員アリスがどんな表情を浮かべているかは容易に想像できた。

「洸ちゃんのこと悪く言われたの、悔しい。」

アリスは膝の上で両の手を握りしめた。
その手の甲にぼたぼたと涙が落ちてくる。

「洸ちゃんの、こと、何も知らないくせに、何も知らないくせに。」

アリスはそう言って嗚咽を漏らして泣き出した。
月見はアリスの顔を見ないように、布団の上からアリスを抱きしめた。

「わかってるわ、アリス。わかってる。」

そのまま抱きしめて、月見も目に涙が浮かんだ。
本当に、アリスはどれだけ悔しかっただろうか。
こんな風に声を殺して泣けるほど生易しいものではなかったはずなのに。
ホントは大声で悔しい、悔しいと泣きたいはずなのに。

「洸ちゃん、ごめん。ごめんなさい。」

アリスはここにはいない諏訪に突然謝罪の言葉を並べた。
アリスは今回諏訪がこんな風に言われたことが自分のせいだと思ったのだ。
自分が諏訪と一緒にいなければこんな不当な侮辱を受けることはなかっただろうに。
アリスはそれが申し訳なくて、申し訳なくて。
だから諏訪のことでさえも拒んだのだ。

「っ。」

諏訪は立ち上がると部屋を出て行き、そのまま隣の医務室の扉を勢いよく開けた。
諏訪の位置からもアリスが震えたのがよくわかった。

「アリス、私もう行くわ。今アリスの側にいるべき人が来たみたいだから。」

「あ、待って。蓮ちゃ…。」

アリスは入ってきたのが諏訪だとなんとなくわかった。
だが今こんな顔で会いたくないし、会わせる顔がない。
アリスが慌てて月見を引き止めようと手を伸ばしたが、月見はそれを制した。

「大丈夫よ。諏訪さん怒っていないわ。」

そう言ってにっこり月見はアリスに笑いかけるとそのまま諏訪に一礼して部屋を出て行った。
諏訪はそんな月見に黙って相槌を打つと医務室の扉を閉め、邪魔が入らないように鍵をかけた。
月見はそれにクスリと笑った。
そんなに用心しなくてもさすがに風間や迅だって邪魔はしないだろうに。

月見はそのまま隣の部屋へと行く。

「さ、お邪魔虫は退散しましょう?根付さん、さっきの音源と合わせてもう一度確認しましょう。」

「そうだね。あそこに設置している監視カメラはダミーだったかね?」

「あ、俺鬼怒田さんに確認してくる。」

「東くん、柿崎くん。もう一度ちょっときてくれるかね?」

「もちろんです。」

「当たり前です!」

そうして隣の部屋からは誰もいなくなった。





「アリス。」

諏訪はアリスの名前を呼んだ。
だが案の定返事はない。
諏訪はそのままベッドのほうへ歩いて行き、アリスのベットに腰掛けた。
アリスは相変わらず布団を頭からかぶっているため表情は見えない。

「あ、あの、洸ちゃん。」

だがしばらく沈黙が続いた後、ようやくアリスが諏訪のことを呼んだ。
涙声で震えていて、諏訪はどうしようもなく胸が締め付けられた。
諏訪は黙って唯一見えているアリスの手を取り握った。

「わかってんよ、アリス。無理すんな。」

そう言った諏訪の声は優しくて、優しくて。
でも少し泣きそうな声にも聞こえた。

「見られたくねえなら見ねえよ。」

そう言って諏訪はアリスの手を引いて自分のほうへ引き寄せると布団ごとアリスのことを抱きしめた。

「頑張ったな、アリス。」

「っ!!」

アリスは諏訪にしがみつきそのまま大声で泣き出した。

今日、初めて会った人間に、諏訪のことを侮辱された。
悔しくて、悲しくて、泣きたくて。
アリスの中をいろいろな感情が渦巻いてどうしようもなかった。

(洸ちゃん、洸ちゃん。)

諏訪のことを何も知らないくせに。
この優しい声も、大きな手も、温かい心も何も、何も知らないくせに。
いろんな感情を洗い流してくれる。
こんなにも優しい人なのに。

「ありがとう…。」

アリスはそう言うと諏訪が見たことがないくらい大きな声でしばらく泣いていた。

(アリス。)

諏訪はアリスのことは自分がいつも守っているつもりだった。
だが今日諏訪は自分の中で泣くアリスに心を救われた。
自分のために怒ってくれるこの小さな幼馴染を諏訪は一層愛しく感じた瞬間だった。

(礼を言うのはこっちだぜ。)

諏訪は布団越しにアリスをキツく抱きしめるのだった。








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2019.03.20
諏訪さん連載26話目更新です。
また期間空いてすみませんっ!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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