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んなわけねえだろ!





そんなの嘘に決まってる





「はあ、はあっ!」

ボーダー本部の廊下を諏訪が走り抜けていた。
道すがらすれ違った人々が何をそんなに急いでいるのかと声をかけることができないぐらいに。
それほどまでに諏訪の表情は何やら険しい顔をしていた。

(マジかよ、信じねえぞ!)

諏訪は脇目も振らずに走って走ってそこに辿り着く。
辿り着いた部屋には医務室と札が掛かっていた。

「アリス!!」

ノックもせずにガラリと乱暴に部屋に入ると風間と迅がいた。
諏訪が来るのが予想より早かったのか、2人は普段見せることのない気まずそうな表情を浮かべた。

「おい、お前ら。アリス、は?」

諏訪は肩で息をしながら2人に問うが、風間と迅はどうしたものかとただ目を合わせるだけだった。
すると医務室の中、カーテンの向こう側。ベッドが置いてあるほうからゴソゴソと何かが動く音がした。

「おい、アリス!起きてんのか?!」

「あ、ちょっと待って、諏訪さ…!」

諏訪は迅の止める声も聞かずにバサッとカーテンを開けた。
するとそこには山盛りになった布団が存在感を放っていた。

「…何だこれ?」

諏訪は思わず目を点にして風間と迅を振り返った。

「出てきてくれないんだよね、アリスちゃん。」

迅は困ったように頭をガシガシとかく。
その言葉からこの布団の中にアリスはいることはわかった。
そしてどうやらそんなに大した怪我をしていないことも。

「おい、アリス。顔見せろ。」

諏訪がそう言って布団を引き剥がそうとした。
だがなかなかどうしてアリスの内側から押さえる力が強すぎてビクともしない。
何度か試して諏訪は肩を落として諦めた。

「お前らどうしてこうなってるか知ってるか?」

諏訪もお手上げだというように布団から手を離した。

「いや、それが全くわからんのだ。」

「同じく。」

風間と迅もお手上げだという様子。
諏訪が振り返ってもう一度ベッドの上を見ても布団の山は全く動く気配がない。

「おーい。アリス。とりあえず顔出せよー。」

ツンツンと諏訪は今度は布団を突く。
布団の下のアリスが首を振っているのか、布団が気持ちゆらゆらと動く。
テコでも出てこないつもりらしい。

諏訪は大きくため息をついた。





そもそもどうしてこんなことになったのか。
それは遡ること30分前。
諏訪のところに柿崎から連絡が入った。
別に珍しくもなかったし、その時はちょうど手が離せなかったので連絡に出なかった。
留守電モードになって柿崎からの通信は一度は途絶えたが、間髪を入れずにすぐまたかかってきた。
しかも何度も。
これで相手が加古とかなら嫌がらせか何かかと思うが、相手は真面目な柿崎だ。
ただ事ではないかもしれないと作業の手を止め電話に出る。

『諏訪さん!よかった、やっと繋がった!!』

開口一番挨拶もなしに安堵する声をあげる柿崎。
やはりただ事ではなさそうだと諏訪はどうかしたかと手短に問う。
すると信じられない答えが返ってきた。

『アリスが他の女性職員と大喧嘩して!』

聞いた瞬間目が点になった。
諏訪には柿崎が何を言っているか、正直理解ができなかった。
誰が?誰と?何をしたって?

『とりあえず今は医務室に連れてきてます!ちょっと怪我もしてるみたいなので。』

諏訪はそこまで聞くとすぐに行く、とだけ答えて隊室を出て走り出した。
あまりに信じられないことだったのでドッキリか何かか、からかわれているのではないかとも思った。
だが連絡してきた柿崎の声は嘘には聞こえなかった。
むしろあれが演技なら今すぐ役者にでも転職を勧める。

そうして諏訪は全速力で医務室まで駆けてきたのだ。

「とりあえず治療は終わったから安心してよ、諏訪さん。怪我は額のところにちょっと擦り傷ができたぐらいらしいからさ。」

「そうか。ありがとな。」

諏訪と迅はとりあえず医務室の外へ出て話をしていた。
あんな状態のアリスの横で会話はできない。
諏訪達が外に出ている間は風間がアリスを見ていることになった。

(アリスが喧嘩とか…。)

未だに信じられない。
あり1匹踏み潰すのにも躊躇していたような泣き虫アリスが、まさか他の女性職員を相手取って喧嘩をするだなんて。
アリスの性格上アリスから売った喧嘩ではないと思うが、情報が何もない以上それはわからない。

「あ、柿崎。東さんも。」

「お疲れ様です。」

「お疲れー。」

諏訪と迅が廊下にいると柿崎と東が医務室へと向かって歩いてきた。
2人とも何とも言えない表情をしていた。

「アリス、何か喋ったか?」

「ぜーんぜん!」

柿崎の問いに迅は苦笑して答えた。
そんなことだろうと思ったと、柿崎はため息をついた。

「柿崎。早速で悪ぃんだけどその喧嘩?について教えてくれねえか?」

諏訪は柿崎に尋ねた。
風間からチラッと聞いたところによると喧嘩をしているのを最初に止めたのは柿崎と東だったらしいのだ。

「いや、俺と東さんもその場でずっと見ていたわけじゃないんですけど…。」

柿崎は廊下で夏の旅行以来久し振りに東にばったり会ったので他愛もない話をしていたらしい。
そこへアリスが複数の年上と思われる女性職員に連れられて人気がない廊下のほうへ曲がるのを目撃した。
東の話によるとその女性職員達は人事担当の職員だったようで、根付の部署で働いているアリスとは何の関係もないらしい。
何となく空気もよさそうではなかったので柿崎と東は2人で後を追った。
しかし途中で見失ってしまったという。
アリス達を探して周辺の廊下を歩いていると、ガラガラドッシャンとすごい音が廊下の奥から聞こえたらしい。
慌てて2人が駆けつけると、アリスとその年上の女性職員の1人が取っ組み合いの喧嘩をしていた。

『何すんのよ!!』

『今の絶対に許さないんだから!!』

辺りには自動販売機に備え付けのゴミ箱が散乱していたり、観葉植物が無残に倒れていたりしていた。
柿崎はアリスを後ろから羽交い締めにしてなんとか引き剥がし、東は相手の女性職員達を落ち着くようになだめた。
その時に怪我をしたのか、アリスの額から少し血が出ていたため柿崎はすぐにアリスを連れて医務室へ。
騒ぎを聞きつけてやってきた風間と迅にアリスの面倒を任せて、柿崎自身は喧嘩の状況説明に上に呼ばれてしまったのだ。

「全部見てないんでなんとも言えないんですけど、アリス、あの人達に何か言われたんじゃないですかね?」

柿崎は両腕を組んでため息をついた。
たしかに一部始終を見たわけではないので何とも言えない。
この喧嘩を上の人間がどう処理するか。
ただの喧嘩といえば喧嘩だが、騒ぎが広がってしまった以上、基地内の規律を守るために処罰されることも考えられる。

「まあ根付さんはアリスをかばうだろうが。大丈夫だろ、諏訪。そんなに心配そうな顔をするな。」

「…。」

諏訪はますます持って信じられなかった。
取っ組み合いの喧嘩?あのアリスが?
冗談にもほどがある。

(アリスから何か言ったのか?いや、アリスのほうが連れていかれてたみたいだからやっぱ向こうになんか言われたのか?でも取っ組み合いの喧嘩とか、何言われたらそんなに怒んだよ。)

諏訪は1人でもんもんと考えた。
だが柿崎達の言う通り現場を見てないのだ。わかるはずがない。

「あ、根付さん。蓮さんも。」

そこに次は根付と月見が連れ立ってやってきた。
根付は困った顔をしていた。

「どうだったんですか?」

柿崎は根付に問うた。
先ほどまで柿崎と東を状況説明に呼び出したのは根付と忍田だった。
騒ぎを起こしたアリスは根付の部署だし、相手の女性職員達は人事部で忍田が総括してみていたからだ。
根付の話によると相手の職員達も言いたくないのか口を閉ざしているらしい。
ただアリスがいきなり掴みかかってきた。それだけははっきりと証言しているのだ。

「桐島くんから何でもいいから聞かないとこのままでは彼女のほうに処分を出さざるをえないよ。」

アリスが何も言わないこの状況はまずい。
何か言いたくないことがあるにせよ、向こうの先にアリスが手を出したという発言に対してだけでも何かを言ってくれないと庇いようがない。
やっていてもやっていなくても、それだけでも教えてほしかった。

「私の部署では暴動寸前だよ。」

根付は頭を抱える。
アリスが処分されるかもしれないという噂があっという間に広がってしまい、そんなはずがないだろうと職員達が反発しているのだ。
実際根付だってアリスがそんなことをするはずがないと信じている。
だが立場上かわいがっているアリスを一方的に守ることはできないのだ。

「それはわかりましたけど何故月見が一緒なんです?」

東が月見をチラリと見て根付に言う。
根付は後ろに立っている月見を振り返って言った。

「いや、桐島くんに話を聞いてもらおうと思って。諏訪くんにだって話をしないんだろう?」

根付はそう言って諏訪を見た。
風間から根付にアリスが諏訪にも何も話さないことは連絡がいっていたらしい。
諏訪は返事をせずただ渋い顔をした。

「同性の友人である月見くんになら話してくれると思ってね。加古くんか橘高くんでもよかったんだが彼女達はウチの職員に混じって暴動を…いや、もうアレは扇動して先導しているよ。」

加古と橘高はどちらかというと喧嘩っ早い。
冷静でいてくれるならまだ頼んだがアレでは話を聞き出せてもその足で相手の女性職員のもとへ殴り込みに行きそうだ。

「月見くん、頼めるかね?」

「はい、やってみます。」

そう言って月見は端末を取り出した。
やりたくはないが言質を取らなければならない。
月見が1人部屋に入り話を聞き出し、その内容を端末に録音するのと同時にそれを通して根付が部屋の外で音声を聞くのだ。
根付もイヤホンを取り出したが、迅がそれを取り上げる。

「ちょっと根付さん、俺達も気になるんですから独り占めはなしにしましょ。」

「はあ、わかったよ。隣の部屋を使おう。」

一行は医務室の隣にある部屋に入り席に着く。
そしてそれを見て橘高は医務室に入っていった。





部屋に入ると月見はすぐに風間と目が合った。
風間はわかっているという風に頷くと何も言わずに部屋を出て行き諏訪達に合流した。
月見は先ほどまで風間が座っていた席に座る。

「アリス。」

月見がそう呼ぶとアリスが作り出している布団の山はピクリと動いた。
それからしばらく月見は何も言わなかった。
やがて外の様子が気になったのか、布団がほんの少しだけ持ち上がりアリスが外の様子を見ているのがわかった。
それを見て月見は言う。

「私しかいないわよ。医務の先生も留守。」

「…。」

すると布団の中でアリスがもぞもぞと動き出した。
中でどういう動きをすればそうなるのか、アリスは布団の中からいろいろな方向を見て部屋に誰もいないことを確認していた。
そして満足いくだけ確認したのかやがて動きは止まった。
それを見て月見は笑った。

「ね、誰もいないでしょ?」

月見は布団の上にそっと手を乗せた。

「ねえ、アリス?何があったか教えてくれない?皆心配してるわ。私も。」

「…あの人達、嫌い。」

月見の声にアリスはそう一言だけ言った。
隣の部屋では諏訪が大層驚いた顔をしていた。
あのアリスがこんなにはっきりと人のことを嫌いと言うだなんて。
昔自分をいじめてきた男子のことさえそんな風に言わなかったのに。

「あの人達、アリスが先に掴みかかってきたって言っていたわ。本当?」

「………本当。」

そして更にその返答に驚かされた。
これには根付も意外だったようでこのままではアリスのことを何かしら処分しなくてはならないと頭を抱えた。

「………怒った?蓮ちゃん。ぐす。」

布団の中で1人泣いているのか。
アリスの声は次第に涙声に変わっていった。
不安だったのだろう。
こんなにことを大きくして、自分が先に手を出したなんて皆が知ったらどう思うだろう?
現に今アリスは月見に幻滅されたのではないか心配しているように思えた。
そんなアリスに月見は続けた。

「そうね、アリスが一方的に手を出したなら怒らなくちゃね。…でもそうじゃないんでしょ?」

月見は信じていた。
アリスが先に手を出したのは事実かもしれない、でも真実はきっと別のところにあるはずだ。
それは隣の部屋で聞いている諏訪達も同じ気持ちだった。

「何があったの?あの人達に連れられていたって東さんと柿崎くんが言っていたわよ。」

「…。」

アリスは先ほどよりも少しだけ布団を開けた。
月見にはさっきよりもアリスの声がはっきりと聞こえた。

「…話があるって呼び止められたの。」

そこからアリスはポツリポツリと話し始めた。








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2019.03.10
諏訪さん連載25話目更新です。
ちょっとシリアスめなお話前編です。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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