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俺じゃなくたってこんなのヘコむぞ。





隠し事は好きじゃねえ





「冬島さん、東先輩、堤先輩。ありがとうございました!」

その日、諏訪が廊下を歩いているとアリスが冬島隊の隊室から出てくるところを目撃した。

「なーに、また来いよ。」

「アリス、だいぶうまくなってきたからな。」

「バイト頑張って。」

「はーい!」

隊室の外に出たアリスは扉から覗く冬島、東、堤に頭をさげるとあたりをキョロキョロして足早にその場を離れていったのだ。
そんな現場を目撃してしまった諏訪はというと…。

(今の何だ?)

何故か見てはいけないものを見てしまったような気持ちに陥り、声をかけるどころか慌てて廊下の曲がり角に隠れてしまったのだ。

(何でアリスが冬島のおっさんのところに?っていうかいつの間に知り合いに?)

諏訪の頭の中は混乱でクエスチョンマークだらけだった。

諏訪が知る限りアリスは冬島とは知り合いではなかった。
年もそれなりに上だし接点はないはず。

それに気になるのは部屋の中のメンツだ。
冬島は自称モテない男だが男は男だ。
というかさっき部屋から顔を覗かしたのは全部男だ。
そんな中にアリスが1人でいたのかと思うと不安で仕方がない。

(いや、でも中に真木がいたのかも…。)

と自分を落ち着かせようとしていたところに当真がやってきて隊室に入っていった。
扉がまだ開いた状態で呑気に会話をしている当真達の話を聞く。

「あれ?アリスちゃんは?
えー?!もう帰っちゃった?!まあこんな男の園じゃアリスちゃんも帰りたくなるかー…。」

そこまで言ったところで隊室の扉が閉じた。
その言葉から中には冬島隊のオペレーター真木もおらず、男だらけの部屋にアリスが1人いたことが証明されてしまった。

(俺に内緒で何やってんだ、あいつら。)

冬島や当真だけなら不安しかないが、東や自隊の堤も一緒だったのだ。
万が一なんてことはないだろう。

ないだろうが、いい気分はしない。

「じゃあ俺もそろそろ隊室に戻ります。諏訪さんもそろそろ来るでしょうし。あまり留守にするとあの人変にするどいですから。」

「おー。じゃーなー。」

「気をつけろよー。」

とそこへ堤が出てきた。
諏訪が来る前に隊室に行きたい様子の堤は明らかに諏訪に隠し事をしている風だった。
それもなんとなく諏訪は気に入らない。
そりゃ誰だって内緒にしときたいことはあるだろう。
だがアリスのことに関しては別だ。
別に彼氏でもなんでもないが、アリスが自分の知らないところで他の男と秘密を持っているのは気に入らない。
それがたとえ頼れる、信頼できる隊員であってもだ。

(アリスちゃん、だいぶ上手になってきたしこれならそろそろ…。)

堤がそんなことを考えながら廊下の曲がり角に差し掛かった時だった。
突然曲がり角の向こうから腕が伸びてきて胸ぐらを掴まれた。
もちろん伸びてきたのは諏訪の腕だ。

「つ〜つ〜み〜!」

「げっ、諏訪さん?!」

堤にとって今ここで諏訪に会うのは都合が悪かった。
しかもこの怒った様子。
先ほどアリスが出て行くところから見ていたに違いないと堤はすぐに思った。
諏訪はそのまま堤の胸ぐらを引っ張る。

「堤、お前。仮にも隊長の俺にげっ?!はないだろ。」

「い、いや〜諏訪さん、お疲れ様です。今から隊室行くところですか?俺もなんですよ。」

堤はダメ元で何事もなかったかのように言ってみるが、それはやはりというか今の諏訪には通用しなかった。
諏訪はさらに堤を引き寄せ顔を近づける。

「おい、堤。洗いざらい話せばなかったことにしてやるぞ?」

そうやって凄んでくる諏訪は、もともとのヤンキー容姿も相まってすごい迫力だった。
同じ隊で年も近い堤でなければ震え上がっていたところだろう。
堤は諏訪が本気で怒っていることがわかっていた。

だがこれだけは言うわけにはいかない。

「いくら諏訪さんの頼みでもこればっかりは言えません!」

言えばどんなに楽になっただろう。
あの冬島隊の隊室でいったい何をしていたのか。
何をそんなに頑なに隠しているのか。
だがそれは自分を信頼して頭をさげてくれたアリスを裏切ることになる。
それにこれは諏訪のためにも言えないことだった。

「…そうかよ。」

すると意外にも諏訪はすんなりと堤を掴む腕を離した。
それは堤にも意外だったようで、てっきりもっと詰められるかと思っていた。
諏訪は堤に背を向けると歩き出す。

「あ、あの諏訪さん?」

「何だよ。」

堤は恐る恐る諏訪を呼び止める。
すると諏訪は振り返らなかったが足だけは止めてくれた。
怒っていないのかと少しホッとしながら堤は言った。

「あの、すみません。」

何だかここまで潔く引かれると逆に堤を罪悪感が襲う。

「…つに。」

諏訪は小さく何か言った。
だが堤には聞き取れない。

「え、何て言いました?」

「べっつに気にしてねえって言ったんだよ!知らねえし!!」

そう言って諏訪はあっという間にその場から走り去ってしまった。
残された堤はと言うと…。

(めちゃくちゃ拗ねてるじゃないですかー!)

うわーんとまるで声が聞こえそうな、そんな雰囲気で走り去った諏訪に頭を抱えた堤は、とりあえず踵を返して冬島隊の隊室に戻ったのだった。





それから数日諏訪は淡々と任務や訓練をこなしはしたがどこか上の空だった。
堤や東が声をかけるとまだ怒ってるらしく、つーんと顔を背ける。
まるで子供のそれに東も珍しくため息をつく。
だが東も堤と同じで秘密を喋るわけにはいかない。
諏訪は誰からも機嫌を取られることなくそのままさらに数日が続いた。

(けっ、何だよ。アリスまで。)

諏訪はその日の帰り道、1人でトボトボと家路に着いた。

いくら何かを秘密にされてるとは言え、諏訪もさすがに大人気ないなとは思っている。
しかしアリス本人に何か隠しているかと聞くのはどうしてもできなかった。
もしかしたらとんでもない返事が返ってきたらと思うと怖くて聞けないのだ。
意気地がないもんだと諏訪は自嘲する。

だが今日は意を決してアリスを問いただそうと諏訪は決心した。
決心してアリスを迎えに行ったのだが…。

『あ、ごめん、洸ちゃん。今日先に帰っててくれないかな?』

アリスはそうやって足早に去って行ってしまったのだ。
二の句も継げなかった諏訪を慰めたのは根付が肩に置いてくれた手だけだった。

(アリスまで何だよ。)

諏訪はもう1度ため息をつき、ふと頭をあげた。
そしてその光景を目にした諏訪は数日前と同じように脇道に慌てて隠れた。

(何で太刀川とアリス?)

そこには楽しそうに笑いながら歩く太刀川とアリスの姿があった。
諏訪はなんだか嫌な感じに心臓が早くなっていた。
まるで恋人の浮気現場を見ているような。
いやただの幼馴染なのだ。
その感覚はお門違いなものであったが、諏訪にとっては大事なアリスがよりにもよって太刀川とデートしているところを目撃してしまったのだ。
そのショックは幾ばくか計り知れない。

(待て待て待て、俺。太刀川だぞ、太刀川。)

そう自分に言い聞かせて諏訪はそっと影から顔を覗かせた。
やはり太刀川とアリスがやけに親しげに話しており、しかもいつの間にか太刀川はアリスの肩まで抱いている。

(太刀川、明日絶対ぇぶっとばすっ!!)

諏訪が静かに太刀川に殺意を送っていたその時だった。
諏訪にとどめを刺すような出来事がそのまま続いたのだ。

(何でそこで出水まで出てくんだよ!!)

アリスと太刀川のほうへ手を振りながら駆け寄る太刀川隊の出水。
あの2人にもまた冬島同様接点はないはずだ。
いつのまに出水と知り合いになったのだ。
諏訪はそのまま顔を半分覗かせてその光景を見ていた。
道行く人から見れば完全に不審者だが、諏訪は今そんなことを気にするどころではない。

声まではさすがに聞こえないが、出水が何かをアリスに話し、それを聞いたアリスがパッと表情を変えた。
そして出水はアリスの手を引いてもと来た道を駆け戻り、太刀川がそれを追いかけていった。
諏訪はもうなんだかいろいろとショックで、そのままトボトボと今度こそ家路につくのだった。










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2019.03.02
諏訪さん連載23話目更新です。
アリスの隠し事前編ですね。
後編はしっかり書き上げていますので近日更新します!


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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