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夏休みも後半戦





ああ、幸せな1日だ





「ありがとう、アリス。大事にするわ。」

「うん!」

ボーダー本部基地のラウンジで昼食を摂っているのはアリス、月見、橘高の3人。
それはアリス達が来馬の別荘に行ってきてから数日経った日のことだった。
ビーチで拾った貝殻を月見のお土産にしてはどうだと来馬に提案されたアリス。
アリスはその通りに貝殻を拾い集め、そしてその貝殻を使って作ったアクセサリーを一緒に行けなかった月見に渡していたのだ。

「いいなー、蓮。」

それを見た橘高が少し拗ねたように見せるが、自分はアリス達とその旅行に行ってきたのだ。
月見から言わせるとそちらのほうが羨ましい。

「羽矢は一緒に行ってきたでしょ?我慢しなさい。」

「はーい。」

そう言って橘高はニシシと笑った。
たしかにアリスが月見に渡したお土産はうらやましいが、月見の言う通り自分は当の本人と旅行を楽しんできたのだ。文句は言えない。

「それにしてもアリス、手先が器用なのね。」

「そうそう、それすごくよくできてるわよね。」

「えぇ?そうかなぁ、えへへへ。」

月見と橘高はアリスが作った貝殻のブレスレットをあらためてマジマジと見る。
それはまるでお店で売っているようなできのブレスレットで、海で拾った貝殻で自分で作ったなんて言われても信じられないようなものだった。

「今度私にも作り方教えてくれる?」

「あ、私も!」

「いいよ!」

と、そこへやってきたのは同い年の男3人。

「アリスちゃん達楽しそうだね、何の話?」

「あ、これもしかしてアリスがこの間海で拾ったっていう貝殻で作ったのか?」

「ホントか?!アリスって手先器用なんだな!」

上から迅、柿崎、嵐山だ。
この3人とアリス達3人は皆大学1年生(迅は大学には行っていないが。)
同い年なだけになんだかんだと一緒にいる時間が長いのだ。

「へえ、俺にも作ってよ。」

「ごめん、迅くん。貝殻全部蓮ちゃんのに使っちゃったよ。」

「ちぇー。」

そう言いながら迅はアリスの隣に座る。
その対面に嵐山が座り、その嵐山の隣に柿崎が座る。

「月見、見せてくれないか?」

「はい、どうぞ。嵐山くん。」

「橘高はどうせ、私にもちょうだいとか言ってたんだろ。」

「失礼ね、柿崎くん!でも正解!」

6人が楽しそうにしているのを諏訪は遠巻きに見ていた。
アリスが諏訪に気を遣っているとは思ったことはないが、やはりああして同い年の友達と笑い合っているのを見ると年の差を感じる。
あそこで笑うアリスは諏訪の知っているアリスではなかった。

「アリスが楽しそうで何よりだな、洸ちゃん。」

「風間、次その呼び方したらぶっ飛ばすぞ。」

「ほう、A級3位の俺をどうぶっ飛ばすんだ?」

「ぐっ!」

「今のは諏訪が悪いな。」

「そだね。」

「うるせえ、レイジ!雷蔵!」

しかしそれは諏訪にも言えることだった。
同い年というのはそれだけでなんだか居心地がいいものなのだ。





「それでね、今度蓮ちゃんと羽矢ちゃんと何か作って交換することにしたんだあ。」

「そりゃよかったな。」

その日の夕食時。
アリスは今日昼間月見達と話したことを諏訪に報告していた。

「嵐山くんもね、作ってみたいって。弟と妹にあげるんだってはりきってた!」

「あー、あいつ好きそうだな。」

楽しそうに笑うアリス。
あの旅行から帰ってきてから一層同い年の仲間と仲良くなっているような気がする。
諏訪はそれが嬉しいが、やはり嵐山の名前が出るたびにビクッとする。

『嵐山と付き合ってるんじゃないかって噂もあったな。』

先日の旅行の時に東に言われたことが何となく頭の中を散らつくのだ。
そんなこと本人達はカケラも知らないだろうが。

「洸ちゃんにも作ってあげようか?」

「俺ぇ?俺はいいって。ジャラジャラつけてるとヤンキー度が上がっちまうだろ。ただでさえヤンキーだのなんだの言われんのによ。」

アリスの言葉に諏訪はぶんぶんと手を振る。
心の中でタバコと金髪やめればいいのにとアリスは思ったがそれは内緒だ。

「あ、だったらよ。ブレスとかじゃなくてストラップにしてくれよ。端末につけっから。ボーダーの支給品形同じだからたまに間違っちまうんだよな。」

「ストラップかー、いいね!わかった!」

代わりのものを提示しなければ絶対に作るとアリスは食い下がってきそうだ。
そんなことはお見通しの諏訪は無難な品をお願いしてそれを回避する。

「あ、そうだ。俺もお前に渡すもんあるんだった。」

「渡すもの?」

諏訪はテーブルの脇に置いていた自分のカバンの中をごそごそと手探りでかき回し、小さな小箱を取り出すとアリスの前に差し出した。

「ほらよ、アリス。」

アリスは差し出された小箱にチラッと視線を向ける。
するとそれはかわいらしくラッピングをされたプレゼントの様相をしていた。
アリスはおとなしくそれを受け取り小首を傾げる。

「何これ?」

「こないだの旅行の土産。」

こないだの旅行とは冒頭でも上がっていた旅行のことだ。
来馬の別荘で2泊3日過ごした小旅行。
諏訪はとある事情で来馬家のメイドを車で街まで送っていった。
そしてその帰り道に海の近くのお土産屋でアリスに買っていたのだ。

「ホントは帰ったらすぐやるつもりだったのによ。お前のかくれんぼ事件あってそれどころじゃなかったからな。」

「うっ。」

「なんだかんだ渡すタイミングなくしてカバンの中に入れっぱなしだったわ。開けてみろよ。」

アリスは言われるがままにその小箱のラッピングを丁寧に開封する。

「わあ、かわいい!!」

中に入っていたのはかわいらしい写真立てだった。

「こ、これもらっていいの?!」

「ああ、やるよ。」

海辺の街のお土産屋で買っただけあって、爽やかな青色が基調になっていて海を思わせる。
薄ピンクの貝殻などがあしらわれていてとても控えめで、でもとても好感の持てるかわいさのある写真立てだった。

「ありがとう、洸ちゃん!」

そう言ってアリスは諏訪のもとまでやってかるとその腕に飛びついた。
腕に飛びついてくるアリスに諏訪が照れたように顔を背ける。

「どういたしまして。」

アリスはそのあと急に立ち上がると部屋へ走って行って何やら小さな冊子を取ってきた。
それは先日の旅行の写真をプリントしたものを仮でまとめているミニアルバムだった。
きちんとしたアルバムは後日買ってきちんと整理するとのこと。
諏訪はそのアリスの細かいこだわりに感嘆するしかなかった。

「ねえねえ、どの写真がいいかなー?」

「適当なの入れとけよ。」

「もうちゃんと考えてよ!」

アリスは諏訪に見せながら1枚1枚ページをめくっていく。
だが諏訪からしたらどの写真でもいいだろうと思う。
ここが男女の気持ちの違いでよく喧嘩になるところだろう。

「みんなで撮ったのとかがいいんじゃねーの?」

一応また無難なことを言ってみる諏訪。
だがアリスはうーんと何か悩んでいるようだった。

「うーん、それもいいんだけど、やっぱり…。」

そう言ってアリスはパラパラとページをめくる。
そしてとある1枚の写真を取り出した。

「これかな!」

それは2日目の船上での写真だった。
諏訪が大物を釣り上げた記念に2人で撮った写真。

「洸ちゃんにもらった写真立てだからやっぱり洸ちゃんとの写真入れときたい!」

「そうかよ。」

諏訪は少し頬を赤くしてまたアリスから顔をそらす。
こういう嬉しいことを素でやってくるのがアリスのタチの悪いところだ。
付き合っていたならば引き寄せて抱きしめたいが、そうもいかないのが今の諏訪とアリスの関係だった。

(クッソ、かわいいこと言いやがって!)

諏訪はアリスの頭をぐりぐりと撫でることしかできなかった。

「わあ!な、何?洸ちゃん!髪の毛ぐしゃぐしゃになるってばあ!」

「うるせえ!この後風呂はいるんだろ!」

「そういう問題じゃないってばあ!」

アリスは必死に諏訪の手を払いのける。
だがその手が退けられた時はすでに遅く、アリスの柔らかな髪の毛は鳥の巣のようになってしまっていた。

「ぶっは、おまっ、髪の毛っ!」

「洸ちゃんのせいでしょー!」

こうしてまた諏訪とアリスの幸せな1日が幕を閉じるのだった。










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2019.03.02
諏訪さん連載21話目更新です。
約1ヶ月も更新が空いていまいました、すみません;
そして旅行編がまだ続くと楽しみにしていた方、いらっしゃいましたらすみません;;


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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