ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


譲るつもりはねえ





絶対ぇ、誰にも渡さねえ





小旅行2日目。
ギラギラとした太陽の照りつける中、諏訪達一行はクルーザーに乗り海の上にいた。
今日は主に東を癒す旅である。

「いやー、海でゆっくり釣りとか最高だなあ。」

「よかったっすね。」

東と諏訪は並んで座り海に釣り糸を垂らしていた。
クルーザーで釣りとはシュールだが本人が楽しそうなので良しとしておこう。
ちなみにアリスや加古達は来馬が手配してくれたダイバーに連れられてダイビングに潜っている。
諏訪も一緒に行きたい気持ちもあったが、昨日もなんだかんだでずっと一緒にいた。
加古や橘高がなんだかんだアリスと一緒にいられないのもかわいそうだろう。
たまには女友達、同い年の友人達と楽しんでほしいのだ。
(昨日はアリスが側に来ないことを拗ねていたくせに。)

「諏訪。」

「何ですか?」

不意に東が諏訪を呼んだ。
その間も釣り糸から目を離さない。
諏訪も視線を変えずに返事をした。

「お前結局アリスとはどうなってるんだ?」

「ぶふぁ!!」

諏訪は思いもよらない質問が飛んできて思わず飲んでいたミネラルウォーターを盛大に吐き出してしまった。
その後もしばらく咳き込んでしまう。

「お前大げさだな。」

「いや、あんたが急に変なこと聞くからだろ!」

諏訪はようやく落ち着いて胸をどんどん叩きながら叫んだ。
その顔はむせたからなのか、アリスのことを言われたからなのか、少し赤い。

「アリスは人気あるから知らないぞー?」

東がニヤニヤしながらそう言うと諏訪は目が点になった。

「は?人気??」

「お前知らないのか?」

その諏訪の反応が意外だったのか、今度は東がキョトンとした顔をした。

「同じ大学行ってるのに知らないのか?次のミスコンとか出てほしいとかいろいろ言われてるじゃないか。」

「はあ?!」

諏訪は大学ではアリスと一緒にいることは少なかった。
それはそもそも何の偶然かアリスと授業時間帯が被っていないという理由が大きかった。
それでも昼食を一緒に摂ったり、一緒に帰ったりしていた。

だが同棲するようになってから諏訪は意図的に大学でアリスに近寄らなくなった。
先ほど上でも述べたが家でも学校でも四六時中一緒にいると加古や橘高がうるさく、月見の視線が痛い。
それに自分のような見た目ヤンキーの先輩と一緒にいると他の一般大学生がアリスに話しかけにくいだろう。
周りとの繋がりがいつまで経ってもボーダー関係者だけというのも困る。
そういう様々な思いから諏訪はあまり大学ではアリスと行動をしていなかったのだ。

「お前一緒に住み始めてからアリスの護衛してなかったもんなー。」

「ご、護衛って何スか。護衛って。」

「それも知らないのか?お前達一部で『文学少女と番犬くん』ってなんか漫画のタイトルみたいに呼ばれてたぞ。」

「何スか、それ…。」

諏訪は手を顔にやり盛大にため息をついた。
なんだか自分が知らないところでいろいろと言われたい放題しているようだ。
たしかにアリスが入学したての頃、言い寄ってくる男ども手当たり次第に噛みついていた記憶はある。
そう考えると先ほど東が言っていたあだ名のようなものは合っている。

「そういえば嵐山とよく一緒にいるから嵐山と付き合ってるんじゃないかって噂もあったな。」

「はっ?!マジっスか?!」

「マジマジ。あ、でも嵐山に当たるなよー?本人は知らないだろうから。」

「わ、わかってますよ。」

諏訪はちらりと嵐山のほうを見た。
嵐山は柿崎と迅と一緒にアリス達同様ダイビングを楽しんでいた。

嵐山は好青年だ。
ボーダーの広報部隊を勤め上げてそれでいてA級5位をキープしている。
嫌味のないその性格に、その上顔がいいときたものだ。
諏訪に勝ち目はない。

「諏訪。顔、顔に出てる。」

「出してないです。」

「いや、出てるって。」

東は諏訪のしかめっ面を見て苦笑する。
今東が言った事は嘘ではないが、少しいじめすぎたかと反省する。
諏訪はわかっていないのだ。
周りがどういう反応をしても、どんなことを言っても、アリスの中の1番が誰であるかは明白なのに。

「ま、これを機にまた番犬くんに戻るのを勧めるぞ。」

「どーも。」

諏訪がそう返事をした時、ちょうど自分の目の前に垂れ下がった糸がくんくん、と引っ張られた。
諏訪はゆっくり慌てずにリールを巻く。
すると糸の先には巨大な魚が餌にかぶりついていた。

「おー!諏訪大物じゃないか!」

「やったぜ!」

先ほどの東の話でモヤモヤはするが、魚が釣れたのはとりあえず嬉しい。しかも大物の様子だ。

「わっ!洸ちゃん、お魚釣れたんだ!」

そう言って駆けてきたのは海から上がってきたアリスだった。
諏訪は今しがた釣ったばかりの魚を見せてドヤッとした顔を見せる。
アリスはそんな諏訪を手放しに褒め称えた。

「すごーい、洸ちゃん!かっこいいー!」

「だろ?」

そうやって2人で笑い合う諏訪とアリスを見て東は肩を落とす。
やはり周りがどういう反応をしても、どんなことを言っても、アリスの中の1番が誰であるかは明白だ。
アリスも大概だが、諏訪もかなりの鈍感だと東は思ったのだった。





クルーザーの上で昼食を摂り、その後また少しダイビングや釣りを楽しんだ後一行は別荘に戻ってきた。
時間は夕方の4時ごろになっていた。
そして夕食までの時間は各自の自由時間となったのだった。

「BBQ楽しみだなー!」

「そうだな。」

諏訪とアリスは部屋のテラスにあるリゾートを思わせるような椅子に並んで座っていた。
諏訪は足を伸ばして昨日来馬に借りた本の続きを読んでいる。
アリスはというと、そんな諏訪にときたま話しかけはするが何をするでもなくテラスから見える海を見ていた。

「洸ちゃん、お茶淹れようか?」

「ああ、そうだな。もらうわ。」

諏訪は本から視線もあげずに返事をした。
それにアリスはにっこりと笑うと部屋に戻って冷たい烏龍茶を淹れてくれた。
本に没頭する諏訪の邪魔をしないようにグラスをサイドテーブルに置くとアリスは再び部屋の中に戻った。

しばらく諏訪は本を読みふけっていた。
そしてアリスが淹れてくれた烏龍茶のグラスに手を伸ばして口にやる。
すると口内に冷たいお茶が流れ込むことはなく、代わりにからりと氷が擦れ合う音がした。

「空か。おーい、アリス。お茶ってまだあるかー?」

諏訪は首だけで振り返って部屋の中に声をかける。
だがアリスからの返事はなかった。
もしかしたら加古と橘高の部屋に遊びに行っただろうか。
だとすればきっとアリスは諏訪に声をかけただろう。
いや、だが諏訪の読書を邪魔しないようにと黙ってで行ったのかもしれない。
それほどまでに自分は没頭していただろうかと、諏訪は立ち上がって首をひねった。
長い間座っていたので体を伸ばすと、凝り固まっていた筋肉がいい具合に伸びて悲鳴をあげる。
諏訪は自分でお茶があるか確かめるためにグラスを持って部屋に入った。

「…なんだ、いるじゃねえか。」

諏訪は部屋に入るなり背を向けてベッドの上で丸くなっているアリスを見て苦笑した。
タオルケットも何もかぶらずに眠っているようだ。
諏訪はアリスを起こさないように静かに近づいた。
するとベッドの上に数枚の写真が散乱しているのが目に入った。
諏訪はアリスの眠っているベッドに静かに腰掛け、アリスの後ろから覗き込むような形でそれを見た。
それは今日ダイビングで撮った写真のようだった。
そういえば水中カメラで写真をたくさん撮ってもらったのだとアリスが言っていたのを諏訪は思い出す。

(加古と…こっちは橘高。)

諏訪は重なっている写真をどけて下に敷かれていた写真を見た。

(柿崎に、迅。風間…コイツ何ちゃっかり肩抱いてんだよ!それから…。)

諏訪は1番下になっていた写真を見て、そして心がもやっとなる感覚がした。

(嵐山と、か。)

諏訪はふと東が言っていたことを思い出してしまった。

『嵐山と付き合ってるんじゃないかって噂もあったな。』

諏訪は反射的にアリスと嵐山のツーショット写真を裏向けてしまった。
嵐山が悪いわけではない。
むしろ嵐山だって諏訪とアリスの関係を知っているし、なんなら応援してくれている。
それなのに噂があるからと言ってこんな風に嫉妬してしまうのはなんというか、カッコ悪い。

「アリス。」

諏訪は小さくアリスの名を呼んだ。
昼間の疲れが出たのかぐっすり眠って起きる気配がない。
どんなに自分がアプローチしても天然なのかわざとなのかのらりくらりとかわされている気がする。
こんなに胸がぐらつくほど好きなのにどうして伝わらないのか。
好きだという気持ちが足りないから伝わらない?
これ以上どうすればいいというのだ。

「アリス。」

そう呟いて諏訪は今度はアリスの頬にかかる髪の毛を払ってやった。

「ん。」

すると今度はアリスが身じろぎ、諏訪に背を向けた体勢からくるりと寝返りを打ち諏訪に向き合った。
その時にアリスは1枚の写真を握っていた。

(誰の写真だ?)

諏訪はピッとアリスの手からその写真を取り上げる。
それは今日船上で撮影した諏訪との写真だった。

「っ。」

諏訪は顔が熱くなるのを感じた。
まさか自分の写真を握りしめて寝ているだなんて思いもよらなかったのだ。

(やべ。)

そしてそれが自分でも思っている以上に嬉しかったのか、心臓がドッドっと音を立てて早くなっているのを感じた。
好きだという気持ちが足りないから伝わらない?
そんなはずはない。こんな些細なことでこんなにも嬉しく思ってしまうほど、あとからあとから思いが溢れてくるのに。

『あ、あの私アリス。桐島 アリスだけど、覚えてないかな?』

(アリス。)

『洸ちゃんにね、カッコイイところ見せたかったの。』

(アリス。)

『洸ちゃんが、いると思ったから。』

(アリス。)

『それってすごくいい考えだね、洸ちゃん。』

(アリス。)

諏訪はアリスの頬に手を添えた。

『アリスは人気あるから知らないぞー?』

そして東の言葉がまた頭をよぎる。

(冗談じゃねえ。)

諏訪はアリスのこめかみにそっと1つキスを落とした。
長かったのか、短かったのか。
諏訪自身それはわからなかった。
だが時が止まっているような、そんな感覚を覚えた。

「絶対ぇ、誰にも渡さねえからな。」

諏訪はそう言ってまたアリスの頬を撫でるのだった。










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2019.02.03
諏訪さん連載20話目更新です。
20話目!?こんなに長くなるとは思っていなかったのだが・・・(笑)
20話も連載しているのに話が進んで…ない…?


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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