ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


いつだっけかな。





前にもあったな、こんなこと





「はあ?アリスが見つからないぃ??」

諏訪が出かけて行ってから、つまりかくれんぼが始まってから3時間半が経過していた。
メイドを病院に送り届け、加古に言われた買い物を終えた諏訪が屋敷に戻るとリビングで全員が頭を抱えていた。

「全員で探したが見つからないんだ。」

さすがの東もお手上げのようで心配をしていた。
何せ3時間半もうんともすんとも言わないのだ。
考えにくいが隠れる時に何かあって動けなくなっているのかもしれない。

「ともかくもう一度探しましょう。諏訪さんもお願いします。」

来馬はアリスのことが心配で真っ青な顔をしている。
皆は2人1組になり屋敷の中を手分けして探すことになった。

「俺らは1階を探すぞ。」

「はい。」

諏訪は堤と組んで1階の部屋を回る。
その間に隠れてはいけない場所のことなどかくれんぼをやるにあたってのルールを確認した。

「まさかアリスちゃん、別荘の外に出たんじゃ…。」

「バカ言え、アリスはルールは破らねえよ。」

「そう、ですよね。」

堤はアリスが別荘にいない可能性を口走るがそれは諏訪に即否定された。
堤自身も言っててわかっている。
アリスはルールを破るような性格ではない。
加古ならまだありえるが、アリスが自分が提案したゲームでズルをするわけがない。
そんな性格ではないのだ。
だから隠れるならもちろんルールに則ったところだ。

「いねえな。」

「いないですね。」

諏訪は堤と食堂、キッチン、風呂場など順々に探して行った。
アリスがいなくなったとあってメイドさん達も仕事の手を止め探してくれているのに。
こんなに大人数で探しても見つからないなんて。

「どうですか?諏訪さん。アリスちゃんいましたか?」

「いや、いねえ。」

1階を探していた嵐山と来馬が合流した。
だがお互い未だにアリスを見つけられていない。

(アリス、どこに隠れてんだよ。)

さすがの諏訪もアリスが見つからないことに不安を覚えていた。
かくれんぼが始まって3時間半。
さらに諏訪が帰ってきてからもうすぐ1時間経とうとしている。
今は真夏だ。隠れている場所がどこかはわからないが早く見つけないとシャレにならない。

(あれ、前にもこんなことがあったような…。)

諏訪はふと今の状況に既視感を覚えた。
いつかどこかで同じような不安を抱えた記憶がある。
諏訪は必死に記憶の糸を辿った。

『アリス、見ーっけ。』

『洸ちゃあん!』

そしてある情景へとたどり着く。

「おい、来馬。お前が本貸してくれた部屋。」

「え? 父の書斎ですか?」

諏訪が出かける前まで読んでいた本は、この別荘にある来馬の父の書斎にある部屋の本だった。
来馬の父もよく本を読むそうで諏訪は来馬に本を見てみるかと聞かれてその部屋を訪れた。

「その部屋こっちだっけか?」

諏訪は昼間の記憶を頼りに書斎へ向かって歩き出した。
来馬達は急に足早になった諏訪をわけもわからないまま追いかける。
そして一行は書斎へと到着してその扉を開けた。

「諏訪さん、でもこの書斎はもう何回も探しましたよ?」

「ああ。」

諏訪は辺りをキョロキョロと見回す。
そして昼間に来た時との違和感を感じた。

「来馬、あれってよ・・・。」





アリスは暗闇の中で1人泣いていた。
かくれんぼを始めてからもうだいぶ時間が経った。
別荘の外に出かけないからとスマホを自室に置いてきたことを激しく後悔する。

(どうしよう。誰も来ない。)

光もない薄暗い空間で膝を抱えてどれくらい経ったかもわからない。
ぐすりと鼻をすすりながらアリスは子供の頃の出来事を思い出していた。
昔もこんな風にかくれんぼの最中に閉じ込められて誰にも見つけてもらえなかったことがあった気がする。
その時もこんな絶望を味わった。

このまま誰にも見つけてもらえなかったら?

暗い中で1人死んでいくのだろうか?

心細いこんな時はふとそんなことを考えてしまう。

(洸ちゃん、洸ちゃん。)

でもたしかあの時は。

(?)

すると頭上から物音がした。
何かを移動させるような擦れる音や、持ち運んでは物が床に置かれる振動。
アリスが音がする上を見上げると、ふいに暗闇から一筋の光が差し込んだ。
アリスはそれが眩しくて思わず目を細める。

「アリス、見ーっけ。」

そう言ってくれたのは間違いなく心の中で呼び続けていた諏訪だった。
目が慣れたアリスは諏訪の姿を見とめると目を見開く。

「洸ちゃん?」

「お前、またこんなところに隠れやがって。」

そう言って心底安心したような表情を浮かべて諏訪は手を差し伸べる。
アリスは夢でも見ているような気持ちでその諏訪の手を取った。
諏訪はそのままアリスを引っ張り上げると抱きあげてそのまま抱きしめた。

「あんま心配させんなよな。」

「洸ちゃあぁん!!」

抱きしめられて感じた諏訪の体温、耳に響く安心する声にやっとアリスは見つけてもらえたと実感したのか、諏訪の首に腕を回して抱きつくと大きな声で泣き出した。
諏訪はえんえんと泣くアリスの、まるで子供をあやすように背中をポンポンと叩いてやった。

「俺、皆に知らせてきます!」

嵐山はアリスが見つかったことに胸をなでおろし、アリスが見つかったことを報告しにリビングへと走っていった。
残された来馬と堤も安心したように諏訪とアリスに駆け寄った。

「アリスちゃん、見つかってよかったよ!」

「ごめんね、僕あんなところに地下室があるの知らなくて。」

堤も諏訪と同じようにアリスの背をさすり、来馬はものすごく申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
アリスは落ち着いてきたのか、くるりと顔を後ろに向けて先程まで自分が隠れていた小さな地下室を見た。
それは書斎に敷かれた真っ赤なカーペットに半分隠れており、普段ならそこに地下室があるだなんて気が付かないような場所だった。

「あれが積まれててわかんなかったんだ。来馬達を責めんなよ。」

諏訪に言われてもう少し首を動かすとうず高く積まれたダンボールの箱が山となっていた。
聞けばアリス達のこの2泊3日が終わった後に今度は来馬の父母が2人でこの別荘で避暑をする予定になっていたらしい。
それで父と母の荷物だけ先に送られてきたのが本日届き、とりあえずこの書斎に運びこんだとのこと。
そして運悪くその荷物の山はアリスを閉じ込めるような形でその場所に積まれてしまったらしい。
アリスが隠れていた小さな地下室は普段は使われていないため(来馬に至っては存在も知らなかった)メイドもそこにアリスが隠れているなんて思い当たらなかったようだ。

「来馬先輩、堤先輩、ごめんなさい。ご迷惑をおかけして。ぐす。」

アリスはまだ鼻を鳴らしながら来馬に謝った。
それに来馬と堤は顔を見合わす。
4時間以上もあんな暗いところに閉じ込められてさぞ心細かっただろうに、アリスは来馬達を責めるどころか謝った。

「いいんだよ、アリスちゃん。」

「俺達こそ見つけてあげられなくてごめんよ。」

堤と来馬がにっこりと笑ってそれぞれアリスの頭を撫でる。

「アリス、見つかったって?!」

そこへ飛び込んできたのは加古だった。
ものすごく慌てて走ってきたのか、その長い髪を振り乱して肩で息をしていた。
諏訪に抱かれるアリスを見ると、加古は目を潤ませて突撃した。

「アリスー!バカー!!心配したのよー!」

「ぐはっ!」

その突撃にどういうわけか諏訪が弾き飛ばされ、その場に倒れる。
加古はへたりとアリスを抱きしめたままその場に座り込みおいおい泣いていた。
諏訪は加古に文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、その泣いてる姿を見て怒るに怒れなかった。

「こらこら、加古。心配だったのはわかるがちょっと離してやれ。」

そう言って加古をアリスから引き剥がしたのは東だった。
東はアリスの前にしゃがみ込んで視線を合わせると額に手を置く。

「東先輩、ごめんなさい。」

「はは。お前が謝る必要はないだろう?んー、熱はなさそうだな。めまいとか吐き気はないか?」

「ないです。」

「脱水症状までは起こしてなさそうだな。でも念のために部屋で休め。おーい、諏訪ー。」

「へーい。」

諏訪は東に呼ばれて立ち上がるとアリスを抱き上げた。

「後で飲み物とか持っていくからとりあえずアリスは部屋で寝かせてろ。」

「了解っス。」

諏訪は返事をするとそのままアリスを抱いたまま部屋を出て行った。





「洸ちゃん、あの、ありがとう。」

「気にすんなよ。誰もお前を責めてなかっただろ?」

「うん。でも…。」

「いいから寝ろよ。」

ベッドに寝かされたアリスはなかなか眠ろうとしなかった。
いや、眠れなかったというのが正しいか。
諏訪や皆に悪いことしたなと思っているのだろう。
せっかく楽しい休日だったのに水を差してしまったと落ち込んでいるのだ。

「お前は別に悪くねえだろ。っていうか今回のは事故だ、事故。」

諏訪はそう言ってアリスの目を塞ぐようにその大きな手を乗せた。

「早く元気出せ。それが1番だ。」

「う…ん…。」

諏訪の手の暖かさが気持ちよかったのか、ほどなくしてアリスは寝息を立て始めた。
4時間半も緊張状態だったのだ。無理もない。
諏訪はアリスが寝たのを確認すると、出かける前に読んでいた本を手に取り続きを読み始めた。


コンコン


するとすぐに控えめなノックが聞こえた。
返事をするとアリスが起きたら困るので、諏訪は立ち上がって扉を開ける。
するとそこには盆を持った迅が立っていた。

「薬とかいろいろ持ってきたよー。ってアリスちゃん寝ちゃった?」

「ああ、悪ぃな。」

諏訪は迅を招き入れて盆を受け取りサイドテーブルに置いた。
その間に迅は先ほどまで諏訪が座っていた椅子に座りアリスの顔を覗き込んだ。
諏訪はベッドの反対側にあるもう一つの椅子に腰掛ける。

「それにしても諏訪さんよくわかったね、アリスちゃんの場所。」

「ん? あー、まあな。」

諏訪は両手を頭の後ろで組んで背もたれに体重を預ける。
天井では大きなプロペラが回っていた。

「前にもおんなじことがあってよー。」

「こんなこと何回も普通体験する?」

「言えてるな。」

迅の言葉に諏訪は笑った。
たしかにかくれんぼをしていて閉じ込められて何時間も見つからないなんてそうそうないだろう。
だが諏訪とアリス、2人にはあるのだ。

「ガキの頃よー、アリスのじいさんの家でかくれんぼしてたんだよ。そしたらアリスが見つかんなくてな。」

諏訪は迅が持ってきてくれた水をコップに注ぐ。
アリスに飲ませるために持ってきた水だったが本人は寝てるし飲んでもいいだろう。

「じいさんの家の書斎にもここと似たような地下室があってな。アリスがそこに隠れたんだがじいさんが知らないうちに荷物置いちまってよ。」

「ホントに今日と同じだね。」

「だな。アリスはかくれんぼうまくて昔からああいう誰も使ってないような場所を見つけるのがうまかったんだよなー。変な特技。」

「だから来馬さんも知らない場所が書斎にあるかもって思ったんだ。」

「そういうことだ。」

諏訪は迅にも水を注ぐとベッドの上を超えるようにコップを渡した。

「その時は?誰がアリスちゃんを見つけたの?」

「あ? あー、誰だったかな。」

諏訪はなんだか恥ずかしかったのか、当時アリスを見つけたのは間違いなく自分だということを覚えているのにあえてはぐらかした。
迅はそれがわかったのか、くすりと笑った。

「んだよ。」

「べっつにー!」

迅に笑われたのが引っかかったのか、諏訪は不機嫌な顔を見せたが迅は笑うだけだった。





その日の夕食はアリスが目覚めるのを待って全員で食べた。
2時間ほど眠ったらアリスもすっかり元気になり、恥ずかしそうに笑いながら皆に謝った。
そして諏訪の言った通り誰一人アリスを責めることなく、皆で楽しく食事をしたのだった。

そして夜はお待ちかね。

「さー、肝試しやるわよー!」

『おー!』

1日目の夜はBBQをしてそのあとは肝試しの予定だった。
あいにくアリスのかくれんぼ事件で食事が遅くなってしまったのでBBQは明日に延期。
でもアリスも元気になったし肝試しは絶対にやりたいと本人や加古、迅が言い張ったため実施されることになった。
アリスが心配だった諏訪だけが肝試しの中止を訴えたが11対1だ。勝てるはずがない。

「はーい、じゃあくじ引き引けー。」

肝試しのくじ作成の担当は東だ。
箱の中に入っているくじ引きを引いて同じ番号の人とペアを組む。12人なので2人1組で計6組できる。
ちなみに脅かす役は来馬の家のスタッフがしてくれる。

「じゃあ全員組めましたね。」

「よーし、順番通りじゃんじゃん行き「待て待て待て待て!!!」

加古が元気よく掛け声をかけようとした時、また諏訪が大きな声を出して止めに入った。
加古はうんざりした様子で諏訪に言う。

「もうまた諏訪さん?何ですかー?」

「この人数で、この方法で、何で俺がまたアリスと一緒なんだよ!!絶対仕組んだだろ、お前ら!!」

そう、諏訪はアリスとペアを組んで最後に出発する組のくじを引いたのだ。
しかし12人もいてくじ引きでくじを引くのにアリスとペアになるだなんて。
なくはないが明らかに何らかの意図を感じると諏訪は訴えた。
すると東が眉毛をハの字にして悲しそうな声を出した。

「諏訪、俺が作ったくじ引きを疑うのか?」

「うっ。」

くじ引きを作ったのは東だ。
ボーダーで最も信の厚いこの男に、ズルをしただろうと諏訪は言っているのだ。

「諏訪、作ったのは東さんだぞ。東さんを疑うのか?」

「そうだぞ、失礼なやつだな。」

「ぐっ。」

風間と木崎にも追い打ちをかけられ、諏訪は何も言えなくなった。

「洸ちゃん、私と行くの嫌?」

そうするといつものようにアリスが眉尻を下げて悲しそうな声で諏訪の服の裾を引く。
毎度毎度こうなることがわかっているのにどうしてこう諏訪は往生際が悪いのか。

「んなわけねえだろ!俺達が優勝に決まってる!」

「よかったぁ(優勝?)」

肝試しに優勝も何もないだろうに、最後にはよくわからないことを言う諏訪。
だがアリスは諏訪に嫌がられていなければそれでいいのでにっこりと笑顔を返すだけだった。










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2019.01.26
諏訪さん連載19話目更新です。
もう19話目か…いつになったらこの2人くっつくの…。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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