ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


何でこんなにイライラしなきゃなんねえんだよ





結局俺も悪いのか





「はい、迅くんの負けー!」

「マジかよー!」

「…。」

浜辺で楽しげに遊んでいるアリス達を見て、諏訪は相変わらずビーチパラソルの下で不機嫌そうにしていた。
隣には東が頭に本を乗せて気持ちよさそうに眠っている。

「諏訪さん、怒ってます?」

「怒ってねえよ。」

諏訪はそう言って来馬が差し出したスイカにかぶりついた。
そんな様子の諏訪に来馬は苦笑する。

さっきから諏訪が妙に機嫌が悪いのはアリスが自分のところにちっとも来ずにずっと加古や迅と遊んでいるのがなんとなく気に入らないからだ。
普段は呼んでなくても洸ちゃん、洸ちゃんとくっついてくるくせに、諏訪のほうが来てほしい時は一向に寄ってこない。
それがなんとなく負けた感じがするのだ。

たしかに今諏訪とアリスの関係はただの幼馴染だし、一方的な諏訪の片思いだ。
ただでさえそれが虚しいのに、こんなんじゃ虚しさ倍増だ。

(諏訪さんはよっぽもアリスちゃんが好きなんだなあ。)

そんな諏訪を見て、それから来馬は浜辺で遊んでいるアリスを見た。

来馬も諏訪とアリスがどういう状態かは知っている。
というか、ボーダー正隊員で知らないほうが少ない。
そんな2人をおっとり来馬でさえなかなかくっつかないなあと思いながら見ているのだ。

「あ、諏訪さん。あれだったら向こうのほう散歩してきたらどうです?あそこの岩場結構貝とかいろいろ取れるんですよ。今夜のBBQに色を添えるってことで。」

「へえー、そうなのか。」

諏訪はそう言って来馬の指差すほうに視線を向けた。
大きめな岩がゴツゴツしている。
諏訪は前に夏の特番で芸能人がああいう岩場でウニやら何やらを取っていたことを思い出した。

「バケツとか熊手言えばありますよ。」

「ふーん、じゃあ行ってくるか。」

諏訪は気分転換にそれもよさそうだとようやく立ち上がる。
岩場まで行けばアリスが遊んでる姿を見て複雑な気持ちになることもないだろう。
諏訪は来馬のメイドさんにバケツなど一式を借りると岩場のほうへと歩いて行った。

(よしよし。)

来馬は諏訪の姿が見えなくなるとうんうんと頭を頷かせた。





「おー、これアサリか?こっちは?まあいっか、テキトーに取ってけば東さんがわけてくれんだろ。」

諏訪はそう言って1人砂を掘りまくっていた。
そういうと物寂しく感じるが、案外砂を掘ればいろいろと出てくるのが楽しいらしく、本人はそこまで寂しそうではなかった。

「なんかでっかいのとか取れたらアリス喜ぶかなー。」

と、アリスの顔を思い浮かべてしまう諏訪。
慌てて頭を振ってアリスの顔をかき消そうとする。
せっかく気にならないように離れた場所に来たのにこれでは意味がない。

(はー、俺何やってんだろ。)

諏訪はふと手を止める。
アリスと再会してから数ヶ月、同棲を始めてからも1ヶ月以上経った。
しかもまだ同じベッドで寝ている。
なのに何故何も進まないのだ。諏訪にはそれがわからなかった。

(俺がいけないのか?俺の押しが足りねえのか?)

そう言って今までのことを思い返せばそうでもないような気がするのだが。
アリスがあそこまで自分に気を許しているのが何故なのかがやはりわからない。
幼馴染といっても年頃の男と女だ。
何か起こってもいいはずだろうに。

「あれ、洸ちゃんだ!」

「!」

突然後ろから当の本人、アリスの声がしたので諏訪は驚いて肩を震わす。
振り返るとそこにはパーカーを羽織って麦わら帽子をかぶったアリスが立っていた。

「何してるの?洸ちゃんも貝がら探し??」

「あ、いや。」

先ほどまでアリスのことを考えていたので諏訪はうまく返事ができなかった。
だがアリスは御構い無しだ。
どんどんと近づいてきて諏訪の横に座り込むとバケツを覗き込む。

「わー、これハマグリ?」

「はあ?こんなに小さくねえだろ、ハマグリは。」

「あ、そっか。」

アリスは笑った。
その時諏訪はアリスも小さなバケツを持っていることに気がついた。

「お前こそそれ何持ってんだ?」

「あ、これ?」

アリスはバケツを傾けて中身を諏訪に見せる。
中には色味の綺麗な貝がらや巻貝が入っていた。

「来馬先輩がね、このへんで綺麗な貝がら取れるって教えてくれたの。蓮ちゃんにお土産にしたらどうかなって。」

「! そうかよ(来馬のやろうハメやがったな!!)」

諏訪にこの場所に来るように勧めたのは来馬。
アリスにこの場所に行くように勧めたのも来馬。
諏訪は来馬にいい具合にハメられたのだと理解した。

(あいつ、涼しい顔しやがって…。後で礼言おう。)

それでも2人きりにしてくれたのはありがたく、諏訪は先ほどまでのモヤモヤが自分の中で消えていることに気がついた。

「ほら、これとか綺麗でしょ?もうちょっと集めてブレスレットとかできないかな?」

アリスはそう言いながら自分の集めた貝がらを諏訪に見せた。
その笑顔を見ていると何もかもどうでもよくなる。
ああ、そうか。自分もなんだかんだとほだされてしまうから何も進まないのか。

諏訪は唐突にそう理解した。

「蓮ちゃん喜んでくれるかなあ?」

そう言って月見が喜んでくれる姿を想像しているのか、アリスは柔らかく嬉しそうに笑った。
その顔があまりにも綺麗なので諏訪は思わず頬を赤くして顔をそらす。

「? 洸ちゃん、どうしたの?」

「何でもねえよ。」

すると諏訪は岩陰で何かが動く気配を感じた。
まさかと思い諏訪は立ち上がって急いで岩陰を覗き込む。

「てめえら…。」

そこには加古や風間、迅がいたのだ。
どうやら少し前から覗き見されていたらしい。

「あー、諏訪さん、ボールこっちに飛んでこなかった?」

迅が誤魔化すようにヘラっと笑う。

「あるわけねえだろ!!」

諏訪がそう怒鳴ると、3人は蜘蛛の子を散らしたようにビーチの方へと逃げていった。
追いかけようとしたが、なんという逃げ足の速さか。

(クッソ、あいつら。絶対後で俺をからかう気だろ。特に風間。)

そう言ってイラついてため息をつき、諏訪が下を見たときだった。
諏訪は加古達がいた岩陰に綺麗に光る貝殻を見つけた。
淡いピンク色の二枚貝の片割れ。
諏訪が拾い上げるとそれは陽の光にキラキラと輝いていた。

「アリス、これやるわ。」

「なあに?」

アリスは諏訪が手を出すので、受け取るように両手を前に出す。
そしてポトリと置かれたその貝殻を見て喜びの声をあげた。

「うわぁ、綺麗!これくれるの? ありがとう、洸ちゃん!」

アリスは大切そうにその貝殻を胸に抱く。
それを見て諏訪は優しく笑った。

「どういたしまして。」





朝から遊んだ後は別荘から戻り皆で食堂で昼食を摂った。
そして午後は別荘の周りの森林で森林浴も兼ねて散策をする予定だった。

だが。

「あれ?雨降ってきた!!」

アリスの声に全員が一斉に窓の外に視線をやると、先ほどまでの青空はどこへ行ったのか、激しく打ち付けるような雨が降っていた。
天気予報では雨が降るなんて言っていなかった。
夏特有のゲリラ豪雨というやつだろう。
しばらくすればやむことを信じて、一行は別荘の中でカードゲームをしたり、本を読んだりとそれぞれの時間を過ごした。

「トイレトイレ。」

諏訪は来馬に借りた本を読んでいたが、用足しで部屋を出た。
すると廊下で何やら来馬とメイドの1人が話し込んでいるのを見つけた。
メイドのほうが来馬に頭を下げて謝っている様子で、それを来馬が諌めているように見えた。

「どうした? 何かあったのか?」

メイドの慌てようが気になり諏訪は来馬に声をかけた。

「あ、諏訪さん。それが…。」

話を聞くと、今話しているメイドさんの自宅から連絡があって母親が倒れて救急搬送をされたという連絡が入った。
幸い命に別状はないようだが、自分の母親が倒れて平静を保って働けるはずがない。
そこで事情を聞いた来馬はすぐに病院に行くようにと話をしていたところだ。

だがここからの移動手段がないという。
メイド達は朝来馬家の送迎のバスで揃って現地入りをして2泊3日、来馬達と共に泊まり込みで働く予定だった。
迎えのバスは明後日まで来ない。
残る移動手段は諏訪達がここまで乗ってきた車のみだ。

「だったら俺が乗せてってやるよ。病院どこかわかるか?」

諏訪が車のキーを取り出してそういうとメイドは慌てて言った。

「そんな!坊っちゃまのお友達にご迷惑をおかけするなんて!」

「いいんスよ。困った時はお互い様ですし、俺らばっか世話になるわけにもいかないんで。」

諏訪がニカッと人懐こく笑うとメイドのほうは安心したように肩をなでおろした。
悪いとは思うが、一刻も早く病院に行きたいだろう。
諏訪の申し出は彼女にとってはありがたかった。

「な?来馬、それでいいだろ?」

「諏訪さんがそう言ってくれるなら助かります。」

来馬もメイドの母親が心配なのか、同じようにホッとしたような表情を見せた。





「というわけで俺今から街の方へ出かけてくるから何かいるもんあったら連絡入れろー。」

『はーい。』

諏訪は皆にそう言い残すと、メイドと連れだって雨の中出かけていった。
病院までは片道1時間もしないだろうがこの雨だ。
混雑と買い物を考えると3時間、遅くて4時間は帰ってこないだろう。

「諏訪さんは出かけちゃったけど、そろそろみんなで何かゲームとかしたいわね。」

自由時間も少し取ったし、もともとは皆で森林散策の予定だったのだ。
折角なので何かやりたいと加古は呟くが、外はあいにくの雨だ。

「あ、はいはい!」

皆で何をするか考え込んでいたところ、アリスが何かを思いついたようで嬉々とした表情で手を挙げた。

「かくれんぼしません?」

「かくれんぼ?」

それは子供の頃誰しもやったことがあるであろう、懐かしい遊び。
子供じみたその提案は諏訪がいれば一蹴されただろうが、意外にも諏訪のいないこの場では満場一致で可決された。
子供の時以来。ひさしぶりにやるかくれんぼにむしろ腕がなる様子。

来馬は屋敷の地図を出してきて入ってはいけない場所を説明した。
個人の部屋、屋敷の外、それ以外メイドの邪魔になりそうな場所には入らない。
最後まで見つからなかった人には夕食にデザートプラス1品という商品もつくことになった。
加古は早速諏訪に商品のデザートを買ってくるように連絡を入れる。

「げっ、鬼かよ。」

「がんばろうな、柿崎!」

屋敷が広いことと人数が多いということで鬼は2人。
じゃんけんの結果柿崎と嵐山が鬼をすることになり、15分後に探しにいくことになった。

「全員見つけてやるぜ!」

鬼である柿崎達が全員を見つければ夕食のデザートは彼らのものだ。

「はい、じゃあ皆隠れてください!」

嵐山の掛け声で皆は散り散りに屋敷の中へと消えていった。

「どこに隠れようかなー?」

アリスはリビングから出て屋敷の1階をウロついていた。
そして1階にある書斎の扉をかちゃりと開けて覗き込む。
ここには何かいい隠れ場所がありそうだ。
アリスの本能がそう告げている。

「あ、ここ!」

アリスはいい隠れ場所を見つけた。
そしてしめしめと思い、その場所に隠れるのだった。










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2019.01.19
諏訪さん連載18話目更新です。
スナイパー勢は絶対にかくれんぼがお上手。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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