過去拍手 | ナノ




ファミレスで出されたチョコレートパフェに、目を輝かせる#name2#。そして俺のケーキセットに付いてきたコーヒーの砂糖を遠慮なく奪い、あろうことか上から振りかけた。

何にって、パフェに。

ご機嫌でスプーンを構えてやがる。
なんだよ今の。チョコソースの上に振りかけられた白いものは砂糖だぞ。見てるだけで胸焼けするわ。

「御幸君、ケーキ食べないの?」
「…胸焼けが治まったらな」
「胸焼けしてんの?大変だね」

いや、原因お前だから。
でも幸せそうにパフェを食べる姿を見ていると怒る気もなくしてしまう。彼女のこの笑顔さえ見れればそれで良い。そう思ってしまうくらい、俺は彼女に惚れ込んでしまっていて、我ながら重症だとは思った。

「で、相談って?」
「実は、好きなやつがいてさ。その相談に乗ってほしいんだよ」
「ホントに!?うわー、そんな相談緊張するんだけど」

パフェに夢中だったはずが今度は俺の話にがっつり食いついてきた。そんなに目を輝かせて、少女マンガを一巻から読み始めた純さんみたいな目ぇしやがって。そして「私で良かったら何でも相談にのるよ」だなんて、嬉しくも悲しくもなる言葉を笑顔で言う。

きっと#name1#は、俺が自分を好きって事なんて微塵も考えていないんだろう。俺の事は、<渡辺を通して知り合った気の合う男友達>くらいにしか思っていないんだ。だからこそここまで仲良くなれたのだとも思うのだけど、いざそれを自覚すると俺だって少しは悲しくなるわけで。今日はもっとアピールしてみようかと悩んでしまう。

例えば、#name1#が髪型を変えた時に「似合っている」と褒めても、友達と出かけて友達だけナンパされたと落ち込んででいる時に「お前だってそれなりに可愛いから気にするな」と言っても、「有難う、御幸君は優しいね」としか言わなかった。「お前が彼女なら俺もきっと幸せなんだろうな」と腹を括って言ってみれば「相変わらず優しい冗談だねぇ、御幸君は」とへらへら笑っていやがった。
挙句、思い切って「俺、#name1#が好きだわ」と告白すれば、「私も御幸君好きだよ。私らナイス親友だね」なんて親指を立てて良い笑顔をした。その指へし折ってやりたいと思った。
まぁ、兎も角俺が褒めたりすると、全部冗談を言って茶化しているのだと思われているんだろう。自分でも最初は少し遠回りな言い方だとは思っていたけど、ここまで無関心と言うか鈍感で気付かないとは思わなかった。

こんなにも上手くいかないのなら恋愛よりも、我儘だったり意地っ張り投手の女房役の方が俄然楽かもしれない。丹波さんと素敵な先輩後輩関係を気付く方がまだ簡単だ。
一体どうすれば彼女は俺を気にしてくれるのだろう。いっそストレートに好きと言ってしまおうか。いやいや、好きって言って気付いてもらえなかったんだから、どうしようもないんじゃね?

#name1#を目の前にしてこれまでの事を思い出し、どう話そうか悩んでいると、ふいに頬を摘ままれた。

「おーい、みーゆき君」
「へ?」
「いやいや、『へ?』じゃなくてさ。やだな御幸君。その子の事考えて私の話聞いてなかったでしょ」
「あー…わりぃ」
「いーよ。青春ですなぁ」

むふふとパフェを頬張りながら笑う#name1#。ちくしょう、腹立つけど何も言い返せない。

「そんで、好きな子の相談ってどんな事?話しかけたいとか?」
「いや、よく話すんだけど、さ」

今話してるし。

「二人で出かけたいとか?」
「んー、それも別に」

今二人で会えてるし。

「ふーん…となると、身近で仲良い子か。誰だろ」

いい加減気付けよ。
うちの一年投手コンビも天然だったり馬鹿だったりするけれど、こいつはその上を行くんじゃないか。沢村を遥かに超えたアホかもしれない。
ぶつぶつと同学年の女子の名前を呟いて首を捻る姿に、少しだけイラッとした。

「なんかさぁ、ぜんっぜん気付かないんだよなー、そいつ」
「何に?」
「俺のアピール?」
「そうなんだ。アピール足りないんじゃない?」

おいおい、これ以上俺にどうしろっつーんだよ。何処に投げてもヒットしない。まっすぐ投げればまさかのファール。もう手持ちがないんですけど。

「どんなアピールしてるの?」
「ごめん、それは言えない。でも結構ストレートに言ってるつもりなんだよな」
「…ふ〜ん」
「どうしたら気付いてもらえるのかと思って、女子の意見が欲しかったんだよ」

底に残ったフレークとチョコソースを器用にスプーンで掬って口に運ぶ。その唇にどきっとしてしまい、思わず視線を逸らした。
少し無言が続いて、間を埋めるようにコーヒーを口にした。砂糖の入っていないコーヒーは苦くて、直ぐにケーキを放り込む。

「御幸君さ、逃げてない?」
「逃げる?」
「その子にどんなアピールしてるか分かんないけど、気付かないって事はさ、全然伝わってないって事でしょ?御幸君は逃げ道を作って気持ちを伝えきれていないんじゃないかな」

テーブルの向こうで真っ直ぐ俺を見る#name1#。思い当たる節があって、またもや視線を逸らしてしまった。

「と、私は考えたんだけど。違ったらごめんね」
「多分、当たってマス」
「そっか。なら、もっと素直になってみたら?きっと御幸君なら上手くいくよ。頑張れ、御幸君」

目の前で微笑む。やっぱり俺はこいつが好きだと改めて思った。

「じゃあ、頑張ってみるわ」
「うん」
「俺、#name1#が好きだ」
「うん?私も御幸君が好きだよ」

へらっと笑う。だから、そうじゃねぇんだよ。

今まではそれで諦めていたけど、もうやめだ。


「俺はそれ以上にお前が好き。友達とかの好きじゃねぇんだよ」
「え、」
「女子として好き」
「う、うん」
「手繋いだり、キスとかしたいって言う好き」
「……」
「……そ…その、そーゆー事、です」
「…は、はい」

真っ赤になった#name1#の顔を見たら、つい数秒前の勢いが嘘みたいに恥ずかしさが込上げてきた。何だコレ。
夏場の避難場所『クーラーの効いたファミレス』で、クーラー効いてないんですけど。何か熱いんですけど。何だコレ。

周りの話し声やウェイトレスを呼ぶボタン音が、やたらと大きく聞こえる。どうしよう。

「あの、」
「な、何?」

悩んでいると、彼女が口を開いた。

「知らなかった。その…私なんかで良かったら、付き合おうか?……なんて」
「…あ、はい。宜しくお願いします?」



なんだそりゃ。数秒の間があって、俺たちは同時に笑い出した。




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