過去拍手E

北極星番外編12 アニメ23話じゅじゅさんぽネタ









「……伏黒くん、何だか疲れてない?大変な任務だった?」
「……心配掛けてすみません、大丈夫です。任務"は"上手くいきました」






明らかに機嫌が悪そうな伏黒くんを真ん中にして一年生3人が後部座席に乗り込み、最後に五条くんが助手席へと腰掛けた。……けれど、最後の彼がまた問題で、私はマジマジとその姿を見つめてしまう。水色と白の中間あたりで染められた爽やかなシャツとベルトが巻かれたスラックス。それに2人で任務に出る時によく付けているサングラスを掛ける今の彼はなんというか、こう、違和感がある。そもそも朝送り出した時はいつも通り黒くてアイマスクもしていたような気がするのだけど……どういうことだろうか……?





「あ、見惚れた?」
「いやそういう訳じゃないんだけど……」
「それはそれで結構僕傷付くんだけど」





つん、と唇を尖らせる彼はやっぱり五条くんだけど、今まで長く彼と過ごしていてもあまり見掛けたことのない服装にはどうしても目が向いてしまうというか……何だか不思議な感じがする。キラキラの瞳と髪が余計に今の爽やかさを助長していてもはや白飛びするくらいに眩しい。首を傾げる私の後ろに座っていた野薔薇ちゃんが「伏黒が逆ナンされてると思ったのに」と面白くなさそうにぼやいていて、渦中の彼はそれにまた眉を顰めて反論する。その内容を聞く限り伏黒くんは道に迷っていた人に声を掛けられただけだったらしいけれど、その話を聞いてふと、私は昔のことを思い出した。そういえばあの日もこんな暑い日だったような気がする。隣の五条くんも私の反応を見て何を考えているのか悟ったらしく、懐かしいよね、と小さく笑っていた。




「夏油が逆ナンされてるんだけど笑える」
「傑が逆ナン!?!?」
「え、夏油くんが?」




私達の中でよく道を聞かれていたのは夏油くんで、次いで私。硝子は不良少女っぽいし、五条くんは大抵そういう時はめんどくさいって雰囲気を隠そうともしないから話し掛け辛かったんだと思う。初めは夏油くんも囃し立てられるのに居心地悪そうにしていたけれど、あまりに毎回のことなので最終的にはBGM担当なんです、なんて相手の方に話していたっけ。彼が順応してしまってからは2人とも面白くなくなったのか滅多にしなくなったんだけど、今の子達もやっぱり楽しんじゃうものなんだなぁ。





「若いって感じだね」
「そうそう、若さ故って事だよ」
「……アンタが一番ノリノリでしたよね」





伏黒くんに睨まれる五条くんは両手を上げて無罪を主張しているけれど、直ぐに真面目な生徒の彼は私の方に"何とかしてくれ"と言いたそうな視線を投げかけてくる。効くかどうかは別として一応、五条くん?と諭すように声を掛けたけれどなぁに?なんて笑う彼には痛くも痒くもなさそうだ。ごめんね、伏黒くん……と心の中で謝りつつも「生徒にちょっかいかけないの」と形だけでも注意すると、僕のこと信じないんだ、とかブーイングを飛ばしてくるので五条くんはやっぱり難しい。




「ワタシを捨てて恵に着くって訳!?」
「何でオネエ口調なの?そんなつもりはないけど……」
「ワタシのこと可愛いともカッコいいとも言わないし……!」
「それはだって、いつもの事でしょ?」
「…………え?」
「へ?」




この後運転中暫くもう一回言ってくれと彼にせがまれ続けたのも、後ろの3人の視線が痛かったのも、きっと言うまでもない。












北極星番外編13










「五条さん、五条さんはどうして彼女だったんですか?」
「……はあ?」







何言ってんの伊地知、とでも言いたそうな呆れ帰ったような声。普段生徒の前で笑う時とは180度違うその態度に若干心が折れそうになる。でも、どうしても一度聞いてみたかったことでもあった。五条さんは何かと忙しい人だ、こんな風に車に乗せる機会も実はそう多くない、と言うか年々減ってきている。それは地方でも呪霊が活発化している証拠であり、それを止められる人が現状連絡が取れる、という意味で彼ぐらいしかいない現状にあることを示している。これは補助監督としては実に苦しい決断でもあった。……極論、全て彼に投げてしまえばいいのかもしれない。だけど、そんなワンマン体制では未来はないし、なにより、五条さんが可哀想だ。可哀想、という表現が適切なのかはわからないけれど、少なくとも最近の彼は特に長期の任務を嫌がる傾向にあった。そしてその理由こそがまごう事なき、彼女なのだ。





「どうしてって、馴れ初めってこと?友人挨拶やりたいの?伊地知」
「いやそういう事では……って、友人挨拶!?」





結婚するんですか!?と思わず声を上げた私に五条さんはうるさ、と口曲げてから将来ね、と付け加えた。な、何だ、てっきりもうそんな関係なのかと思った……ほっと息を吐き出す私に後ろの席の五条さんが何なのその反応、と不満そうにしているのが分かったけれど慌てて首を振って誤魔化す。もしそうならめでたいなぁと思って……と紡いだ言葉はあまりに嘘くさい自覚があった。が、





「え〜?マジ?ありがと、ご祝儀楽しみにしてるよ」
「……は、はぁ……」





ちらり、と覗いたミラー越しの彼は先程とは打って変わって機嫌が良さそうにも見える。案外喜んでる……?と思わず後ろが気になってしまう私はその気持ちを制しながら兎に角安全運転を心掛ける。もし万が一事故を起こしても最悪五条さんは助かるだろうけど、私が死にかねないし流石にそれは避けたい。……やがて送り先へと辿り着いた私が着きました、と声を掛けると彼は大きな体を折り畳みながらゆっくりと車の中から抜け出していく。が、途中でひょこりと顔だけを車内にもう一度突っ込んできた彼は伊地知、と私の名前を呼んだ。





「ま、最初の質問に応えると、」
「あ……は、はい!」
「"彼女"じゃないとダメだったからだよ伊地知」





じゃあね、ご苦労サマ。それだけ言ってからひらりと腕を振って駅の方へと消えていく彼を思わずポカンと見送った.まさか、彼からこんな返事が聞けると思っていなかったのだ。自分の先輩にあたる、気のいい先輩である彼女を瞬間的に思い出して彼が大切にしているという事実に何だか嬉しくなった。それはまぁ見ていれば分かるけれど、こんな風に私に伝えてくれるくらいには彼は彼女を愛しているらしい。凄いなぁ、とどちらにも憧れを抱きつつ、私はグッとアクセルを踏み込む。ここまで人を愛せるのはある種才能でもある気がする。だからこそ、彼は強いのか、と思い当たるのはきっとあながち間違いではないのだろう、守るべきがある人間は、強い.それはきっと真理のようなものだ。彼を強く、人間にするまじないは彼女自身なのだろう。もっとも本人にその自覚は薄いらしいが。


ふ、と笑みをこぼした私はゆっくりとまた高専に向けて車を進めていく。どうかあの2人がずっと一緒にいられるように、そう願いながら。












北極星番外編14 本誌ネタ注意色々捏造!











「……ふぅん、まぁ顔と体は及第点ってとこか」
「……え?」






よく晴れた太陽のもと。自動販売機で買ったボトルを持って帰ろうとした私の前に突然光を遮るように立った男性の吐き出した言葉に目を丸くした。柔らかな日差しがギラギラと眩しいくらいの金髪に反射すると突然刺すような勢いある光の筋へと変化する。見慣れない人だけれど……京都の高専の人だろうか?あの、とひとまず挨拶しようとした私にきゅ、と目を細めた仕草は夏油くんの瞳と少し似ているけれど、そこに込められている僅かな嘲笑にも似た感情がなんだか居心地悪かった。漠然とした、特に根拠のない嫌な雰囲気。彼は、あまりよくない人なのかもしれない、と思った時にはもう、金色は間近へと迫っていた。







「"ウチ"のパクリみたいな術式やけどまぁ、ギリプラス?まぁええわ、キミ結構タイプやし……俺とヤッたらどんな術式の子が出来るんやろうなぁ」







ぞわり、と背中に異様な感覚が走る。彼に触れられた肩が途端に気持ち悪く感じた。この人は何を、言っているんだろう。パクリ?ヤる?衝撃的な単語に全く理解が追いつかない。あなたは、と震えた私の声に狐みたいな顔をしてクツクツと笑った彼は酷く態とらしく"今気付いた"ようなリアクションで話し始める。






「あぁ、堪忍。名乗るん遅くなってしもうたな……"禪院直哉"って言えば分かる?」
「貴方の前に友人を出してはいけないということがよく分かりましたよ」






禪院、という響きに私が目を開くより先によく知った声が頭上から響いた。触れられていた彼の手を払い除けた私の知っている糸目の彼……夏油くんは厳しい顔をして禪院直哉さんを射抜いている。それでも落とされた声は柔らかく、決して喧嘩腰には感じないのが逆に器用というか、何というか。先ほどまで緊張で固まっていた体も夏油くんの姿を見た瞬間一気に全て解れたのが分かった。やっと詰まっていた息を吐き出した私に彼は「遅くなってごめんね」と宥め、塗り替えるように禪院さんが触れていた部分にぽん、と手を置いてくれた。





「……夏油くん、やっけ?今俺がこの子と話してるんやけど、恋敵ってヤツ?怖いわぁ」
「…………それ、本当の恋敵に言わない方がいいですよ」





最早夏油くんはどこか呆れているような気もする。彼は私の手を取って硝子達のところに行こう、と東京校の控え室の方へと足を進めた。背後からは禪院さんの「勝ってからそっちお邪魔させてもらうわ」なんて声が聞こえる。思わず力が篭ってしまった私に夏油くんは大丈夫、気にしないでね、と落ち着かせようと声を掛け続けてくれた。それに安堵して次第に安定してきた心拍にそっと胸を撫で下ろす。あんな人も、いるんだな、と世の中の現実を知るほどに、私の友人達のあまりの優しさに何だか涙が出そうだった。そんな中途半端な状態で入ってきた私に珍しくギョッとしていたのは硝子で、逆に全くの無言を貫いたのが五条くんだった。上手く話せない私に代わって夏油くんは簡潔に私の身に起こった出来事を2人に伝え、そして「どうする?」と2人に疑問を投げかけた。硝子がゆっくりと五条くんを振り返る。その視線を受けてふらりと立ち上がった彼はサングラスを乱暴に外し、私の前に先程の彼のように障子から入る光を自らで堰き止めるみたいに立ち止まる。でも、彼の美しい白髪はその光すらも透き通らせて、目が痛くなるくらいに弾くことは無かった。







「……お前が、これ掛けてる間に終わってる」






ぶっきらぼうな口ぶりとは裏腹に丁寧に私の頭に少しも光を受け入れない真っ黒なグラスを乗せた五条くんはたった一言、それだけを言ってから堂々と歩き出す。そこには一点の曇りもない、真っ直ぐで、静かに揺らめく青が浮かぶばかりだった。そんな五条くんに続くようにグッと背伸びした硝子と足首を振る夏油くんが並び、私もまた3人の後ろに控える。……やっぱりみんな、いい友達だ。私がそれを再確認したこの年の交流会はものの3分と経たずに終了のアナウンスが入り、禪院直哉さんが骨を何本も折る重症で硝子にも"治せず"翌日の個人戦にすら出られなかったのは言うまでもない。










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