「夏油くん、誕生日のプレゼント何がいい?」





突然投げかけられた疑問に思わず数度瞬きをした。目の前に座る彼女はお互いで持ち合った菓子の奥で相変わらず真っ直ぐと私を見つめている。これは少々、私にとって意外な出来事だった。

もはや恒例となりつつある朝一番の密かなお茶会。その相手である同級生の捺ならば誕生日なんてサプライズ是が非でも、慌てながらも隠そうとするものだと思っていた。それがどうだ?他の二人よりも先に、そして素直にもうすぐ誕生日を迎える私に問いかけてきたのだ。




「……そう、だね。どうしよう、何がいいかな」
「……これだと、夏油くんが誰かへのプレゼントで悩んでるみたいだね」




くすり、と口角を持ち上げて楽しそうに笑う彼女は差し込む朝日に照らされて眩しいくらいに輝いて見えた。笑い事じゃないよ、と態とらしく眉を持ち上げれば捺はごめん、とこちらも含み笑いで返される。悟と話す時と比べて肩の力が抜けている彼女は自然体で話していてなんだか落ち着く雰囲気がある。硝子くらいドライな女の子も新鮮だけど、程よい反応を示してくれる捺の持つ空気感はとても心地いい。きっと僕だけでなく大抵の人間がそう感じるはずだ。




「消耗品とかで足りないものとかは?」
「あー……と、」




頭の中で自室を思い浮かべて彷徨いてみたけれど、日用品でこれといって少なくなっているものが中々思い当たらない。……いや、正確には幾つか思い当たるものがあるのだけれども、流石に女の子に、ましてはプレゼントとして買わせるような品物ではなかった。ゆっくりと首を横に振り、残念ながら、とジェスチャーで示せば「そっかあ」と落胆の息が零される。そうだね……と、机に転がしていたシャープペンを右手の親指と人差し指で摘み上げ、癖のようにクルクルと弾いた。昔練習したこともあって綺麗に元の位置へ戻ってくるソレを見た捺は無邪気に"すごい"と喜んでいる。私はそんな彼女の表情が好きだった。





「あ、」
「ん?」




はっ、と気付きを得た私に捺が顔を上げる。丸い目は野生動物というよりはペットショップで育てられた小動物みたいだ。……彼女から態々こうして申し出があった上でのプレゼント。ならば彼女と楽しめるものがいい、単純だけどそう思った。私は捺と過ごすこのひと時が気に入っている。目新しいお菓子を買ってきた時のワクワクと効果音が聞こえそうな顔も好きだ。そしてきっと彼女も少なくとも私との瞬間は嫌いではないだろう。であればもう答えは決まったようなものだ。




「お茶、」
「お茶?」
「まあお茶じゃなくてもいいんだけど……私達のお茶会で使ういい感じのドリンクが良いな」




次にパチパチと瞬いたのは彼女の方だった。もちろん構わないけれど、と、前置きしながらも「本当にそれでいいの?」と捺は眉を下げている。どうやらこのプレゼントの価値がイマイチわかっていないらしい。
こんなの悟に聞かれれば何をされるか分かったものではないけれど、私だって友人との日々を大切にしたいのだ。アイツの好きな人だかなんだか知らないが、それ以前に捺は大事な私の友達なのだから。




「私も捺のくれるドリンクに合う美味しいスイーツを仕入れておくからさ」
「……それ、夏油くんへのプレゼントになる?」




少し怪訝そうな顔をした彼女に喉の奥をクツクツと鳴らした。やっぱり捺は分かっていない。私が求めているのは"君との"お茶会で使うドリンクなんだ。それはつまり君の時間を求めているのと同意だと思うんだけれども……きっと気付かないんだろうな。




「紅茶とかコーヒー?それともジュースの方がいい?」
「んー……そうだね、紅茶にしようかな」
「紅茶ね、分かった。今度任務終わりに探しに行くよ」
「……これじゃ、ますます君の時間を貰ってしまうな」




思わず呟いた私の言葉に捺は、え?と軽く首を傾けた。けれどすぐに笑って、そんなの当たり前だよ、なんて口にする。そしてダメ押しのように「夏油くんとお茶するの、好きだから」と付け加えたのだ。……あぁ、やっぱり悟には怒られてしまうだろうな。でも、それでいいとも思えた。私も彼女も考えていることに大差は無いのだから。お互いを大事にし合える関係はきれいだし、好ましい。異性との関係でこんなにもフラットに付き合えた経験はそうそうなかったのだけれども、捺と私は何処か少し似通った箇所があるようだ。気兼ねなく「好きだ」と伝えられる関係は気疲れしないし、余計なことを考えなくて済む。





「どんな紅茶になるか楽しみだよ。私はクッキーでも買ってこようかな」
「クッキー!いいなぁ、早く食べたい」
「あと何度か寝るだけだよ、大丈夫」
「……夏油くん、お正月の歌みたいなこと言ってる」




中々鋭いツッコミに、ふは、と吹き出した私の前髪がまだ寒い風に吹かれて揺れた。一頻り笑ってから、ふ、と思い立ち「どうして本人に欲しいものを尋ねたのか」と尋ねてみると、捺は少し考えてから「夏油くんは物持ちも良さそうだから」と笑った。成る程、彼女はやはりよくわかっている。




「なら今本当に欲しいものをあげる方がいいかなって」
「確かに、理に適っているね」
「……まさかお茶会用のドリンクを頼まれるとは思わなかったけど」




夏油くんってそういうところ"も"あるよねと不満げな彼女にまた私は声を上げる。柔らかく穏やかな彼女のこういう一面を知ってるのはもしかしたら三人の中で私だけなのかもしれない、なんてね。





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