過去拍手C









「五条くんってやっぱり大きいよね……」





隣に立っていた彼女が突然呟いた言葉と此方を見上げてくる視線にぱちぱち、と瞬きをした。感心したような目から察するにおそらく身長のことだろう。高専に入る少し前からぐんと伸び始め、卒業する頃には190センチをゆうに超えていたこの身長は正直割と、不便でもある。電車や新幹線に乗る時に天井をかすめないか心配になることもしばしばあるし、服のサイズや靴のサイズを見つけるのも中々困難だ。幸いそれなりに金はあるからオーダーメイドしている物もあるけれど、普通に日本で生活する上ではここまでの身長は必要ないとすら思える。






「まぁ、そうだね」
「今どのくらいあるの?」
「ん〜……もう何年も測ってないけど193とかその辺?」
「わ、私と30センチ以上も差あるんだ……」






しみじみしている彼女の言葉にじっと、自分より低い位置にある頭を見つめる。彼女は、小さい。まぁ僕と比べれば大抵の女の子は小さくなるけれど、かなり下に位置するそれは愛らしく、可愛らしいものだ。彼女は暫く頷いてから、ふと、神妙な面持ちで「キスとかしづらそうだね」とポツリ、と落とすように呟く。それに少なからず動揺したのは此方の方で、彼女の言う"しづらい"が一般論なのか、それとも自身との物なのか、しばし考え込んでしまった。大方彼女のことだから一般論が正解なんだろうけど、それでは少し面白くない。僕は軽く膝を曲げ、ぐい、っと体を丸めて彼女の顔を覗き込む。驚きに揺れる瞳と視線が交わって、する、と頬に手を当てた。





「……別に、このくらいなら出来ると思うけど?」





パクパク、と口を動かして、じわっと染まっていく赤い顔に口角を持ち上げた。本当はこのままキスでもなんでもしてやりたかったのをグッと堪えて、親指で撫でるだけに留めておいた僕はやっぱり偉いと思う。は、はい……なんて、へなへなした返事に分かってくれたならいいよと笑いかけた僕はこれでも"待て"が出来るイイコなんだから、いつかちゃんと許可を貰いたいものだ。







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(付き合ってるif)










暖かい布団に包まれながら目覚めた私はカーテンの隙間から注がれる光にきゅ、と目を細める。壁に掛けられた時計は6時を指していて随分早く起きてしまったなぁと小さく息を吐き出した。今日は休みだしもう少し寝ていても良かった、とまだ眠気でハッキリしていない思考の中、自分の体にキツく回された腕をそっと撫でた。元より薄い色素の髪は朝日に照らされて白銀に煌めき、整い切った顔立ちからはすぅ、すぅ、と心地良さそうな寝息が聞こえる。……珍しく、よく寝てる。



いつもの自信たっぷりな表情とは違う、何処かあどけなくて、口元を緩めてしまうような子供みたいな寝顔。五条くんのこういうところを見るのが私は結構すきだ。一緒に任務に出た時の仮眠は1時間もしないうちに終えちゃうし、それだけでも十分動ける燃費のいい五条くんの体はある種才能でもあるんだろうけど、ずっとそのまま生きるのはきっと大変だろうなと無駄に心配をしてしまうことがある。いくら反転術式を使って再生をしていても、それが全くのノーダメージとは限らないし、それならたまにでもいいからこうやって深く眠ってくれるのは、嬉しい。





「……ごじょうくん、」





自分から零れた声は柔らかくて、あまい。彼の名前を呼ぶのもこれで何回目なのか定かではないが、こうやって言葉にして、声にして五条くんを感じられるのも、私はすきだ。起こしちゃダメだと思いつつもどうしても呼びたくなってしまう彼の名前。ダメだと思いつつも触りたくなるきめ細かい肌。指の腹が彼の頬を撫でて、少し眉を寄せた五条くんは私の手に顔を押し付けるようにしてぐりぐり、と無意識に擦り寄ってくる。それがやっぱり可愛くて、なんだか愛おしくて、ふふ、と笑い声を落としながら労るように彼を優しく優しく撫でた。すこしでも五条くんが幸せな夢を見られるように、私はその手伝いをしたい。


少し身を捩ると肩口がオーバーサイズのTシャツから抜けそうになって、軽く引っ張ってそれを制御する。昨日は疲れのままに終わってからも満足に処理せず寝てしまったのだけれども、五条くんがなんとかしてくれたみたいだ。……にしても、彼の家には数着私の寝巻きを置いているはずなのに今着ているのが明らかに彼の物なのはどういうことなのだろうか。もう予備がなかったのか、それとも五条くんが、こう、きてほしかったのか……真偽はどうあれ、やっぱり彼の服は大きすぎる。





「……気に入った?」





びくん、と体が震えた。身に纏っているシャツの裾を引いたり少し揺らしたりと指先で遊んでいた私の耳にいつもより低くて少し掠れた声が囁かれる。驚いて顔を上げると、やさしく、きれいに微笑む五条くんが青い目を覗かせて私を見ていた。「……おはよう」と返した私に口角を緩めておはよう、と返した彼は自然な動作で私の額にキスを落とすと布団を捲って私が着ている自分の服をマジマジと眺めた。それからゆっくりと絞り出すみたいに、かわいい、とぼやいた声に私も同じく視線を服へと向ける。確かに赤地に白で英語が書かれたこのロゴマークは可愛いデザインかもしれないな、と納得して頷くと、一瞬五条くんは驚いたように目を開いてから、ぷっ、と吹き出して「服じゃなくてお前のことだよ」と私の頬へもう一度キスを落とした。
……そ、それは私が思ってたのと違う!





「……は、恥ずかしいから……」
「僕たち以外に居ないのに?」





可愛いはだめだと訴える私に、へんなの、と笑う彼は私の反応に気を良くしたのか、ちゅ、ちゅ、とキスの雨を降らすみたいに唇を落としていく。額に、鼻先に、頬に……そして首筋に。擽ったくて逃げようとする私の体をしっかりと捕まえて離す気がなさそうにしているけれど、それと同時に私もまた本気で離れたいとは思っていないのだが。そうして暫く彼の好きにさせていたけれど、不意に太腿に触れたひんやりとした冷たい感覚に思わず背中が震えて、じたじたと足を動かして抵抗する。五条くんはまた笑いながら、暴れないの、なんてキスして収めようしてきたけれど、このまま流されるのは良くない気がする。




「だ、だめ」
「何が、だめ?」
「色々だめなの……」




分かんないよ、と知らないふりする彼の手は何にも守られていない太腿からするり、とTシャツの中へと入り込み、私のおへそ近くをくるくると円を描くように触り始める。言いようもない恥ずかしさとくすぐったさで、ヤダヤダと頭を振る私に五条くんは喉の奥の方を鳴らすばかりで止めるつもりはないらしい。服の中でいきものみたいに動くそれがなんだかいやらしくて、ぐいっと目を逸らしたけれど、それはそれで五条くんと見つめ合うことになってしまって八方塞がりだ。私の顔をじっと見つめる彼は明らかに楽しんでいる。熱い視線に瞳だけを逸らしても、見られている、という感覚が居心地悪くて体をもぞもぞと無意識に動かしてしまい、それを自覚するのもやはり恥ずかしかった。




「ん〜……」
「ふふ、」
「やぁ……」
「なに?やだ?」




じゃあこれは?そういう尋ねる五条くんの声が少しいじわるそうだったのに気付く前に彼の手がおへそよりも掌二つ分くらい下の箇所にふわり、と充てがわれる。そして、する、する、と撫で回したり、指の腹でトントン、と振動させるように弄び始めた。あっ、と少し高い声が零れた私にもっともっと楽しそうな顔で「思い出しちゃう?」と聞いてくる彼はぜったい確信犯だ。昨日の夜だってそうだ、彼はいつも私を脱がした後、まず初めに今触れている下腹部あたりに手を置いて、それより先の行為を意識させるようにゆっくりと、熱い掌で撫でてくる。これがいつから始まったのかは覚えていないけれど、はじまりの儀式のような撫で方はいつの間にか私にも深く浸透してしまっていた。



朝日に照らされる中、条件反射みたいに膝同士を擦り合わせた私に五条くんはニヤニヤと満足そうだ。可愛い反応しちゃだめだよなんて言いつつも、それを止める気がない彼は矛盾している。ちょっとだけ反抗するみたいにジトリと見つめてみたけれど効果は薄いらしい。パブロフの犬をこんなことに使っちゃだめだよ、と叱る声にはいはい、と受け流す彼は私の言い分を飲み込むみたいに唇に噛み付いてキスをする。じんわり、とその瞳の奥に熱っぽいものを滲ませているように感じたのは私の気のせいだろうか。……いや、きっと、そうではない。ふわりと、それでいてハッキリと、彼の口から私の名前が呼ばれた。その顔が許可を待つような忠犬みたいで、それでいて彼の手は動かされたままで思考も境界も曖昧になってしまう。




「……いい?」





疑問系のようでいて、その言葉の意味は疑問系ではない。そして私もそれを理解した上でこくん、とひとつ頷いてしまうのだから私達の相性はなんだかんだ言っても悪くないのだろう。私はそう思う。ゆるされた彼は大きな体をのっそりと持ち上げて陽の光を遮るみたいに私に覆い被さった。その行為がまるで、俺だけを見ろ、とでも言いたげで、とっくに彼しか見えていない私はやっぱりもう、逃げられないんだろうなぁと悟った。









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