「そういえば、もうすぐ交流会か」






不意に夏油くんが呟いた言葉にそういえば、と自覚する。教室に掛けてあるカレンダーは9月を示しておりそんな季節だったなと思い起こされた。高専にも姉妹校があるらしく、伝統として行われている年に一度の交流会……という名のやりたい放題バトルなんだけれども。

一番奥の方で興味なさげにふぅん、と言った五条くんは椅子の背もたれに思い切り体を預けるとどうせ勝つでしょ、とつまらなさそうにぼやく。聞く人によっては傲慢とも思えるその物言いは、発している人物が五条悟というだけで納得してしまうからなんとも驚きだ。実際、去年の交流会でも五条くんがかなり向こうを圧倒していたし、もっともっと強くなっている今ではどんな勝負になるか分からない。最強、と自負する彼にとって交流会は通過点にすらならないのだろう。






「もうちょっとこう、ぐわっと燃える条件とかあれば悪くないんだけどなァ」
「例えば?」
「優勝商品とか、人質制度とか……」
「一つ目はともかく……もう一つは物騒だな」






そう?と首を傾げた五条くんは提案した人質制度について掘り下げるように話始める。要約するとどちらからも1人、人質となる生徒を差し出して一定時間毎にペナルティが発生する……というものらしい。確かに少し去年とは嗜好が違って面白くもあるけれどその為には誰かが人質になる必要がある。それは他の2人も考えたみたいで誰がその枠に?と当然の疑問が発生した。勿論、と意気揚々とした調子で立ち上がった五条くんは口を開くと、







「「硝子でしょ」」
「「捺だな」」







挙げられた自身の名前にえ?と思わず間の抜けた声が出た。珍しく意見が一致した五条くんもまた、あ?と不可解そうに眉を顰める。私自身少なくとも硝子よりは戦闘要員だと思っていたのだけれども……夏油くんと硝子本人にとってはそうではなかったのだろうかと思うとなんだか少し落ち込んだ。





「オイ、何でそうなるんだよ。まだ戦える捺を残す方が……」
「だってこれはアンタのやる気の為だろ?」
「京都の高専の酒場ってヤツ、捺のこと気になってるらしいぞ、悟」
「……は?」





ぐっ、と突然重くなった五条くんの声に思わず肩が揺れる。それに臆することなく笑顔のままの夏油くんは「30分ごとに何でも言うことを聞いてもらえるなんてどうだ?」なんて言い始める。なにそれ!?と私が抗議の声を挙げるのをまあまぁとなんだか楽しそうに硝子が制して、じゃあ決まりねと笑い、酷く機嫌悪そうに私を見た五条くんは思い切り舌打ちをすると乱暴に椅子に座り直した。こういう時の五条くんは滅法苦手でどうにも肩身が狭い。ただ楽しそうに笑う夏油くんと硝子へ恨めしそうな目を向けたが、2人には痛くも痒くもない様子だった。あぁ、気が重い……






こうして、何がなんだか分からないうちに人質にされた私は本当に京都校の提出した人質さんと入れ替えになった。先生達も軽く許可しちゃうのはどうかと思う。


受け渡し担当の五条くんは「10分で終わらせる」と盛大に相手を煽って行ったので残された私はものすごく居心地が悪かったが、本当に宣言どおり10分かからずに全員を仕留め、私を迎えにきた五条くんは一切の怪我なんてなくて「行くぞ」の一言と共に私の手首を掴んだ。



足早な彼に慌てて続く途中で「何もなかったか」と、一度だけ問われた言葉になんのことだろう、と思いつつも取り敢えず肯定するとそれ以外彼は何も言わなかった。硝子達の元に戻ると彼らも殆ど怪我らしい怪我は無くて、ドン引きした顔の硝子と来年からは人質制度禁止な、と呆れ返った夏油くんにぽん、と肩を叩かれたが、その理由を聞くことは出来なかった






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