アイツは霞草だ。決して華やかさがある訳でもなければ、主張が大きい訳でもない。他のもっと鮮やかな花と一緒に包まれて密かな白を散らす霞草は捺によく似ていると思う。枝分かれした小振りな花弁の慎ましさや、触れ難くなるような純潔。漠然と感じる俺の想いが具現化したように思える。任務の時ですら自ら引き立て役になるその姿は正直気に入らないが、そこが美徳だと言う奴もいるし、それもまぁ悪いことではない、とは思う。でも、それで死に急ぐ馬鹿みたいな真似はさせたくない。別に捺がどんな花だって構いはしないが、他の花に埋もれ、紛れてしまうような中で、微かに。でも、確かにそこに居ると知覚した時から俺はアイツを探してしまう。どんな大輪の中に有ろうとも必ずアイツを抜き取って、どうせなら、似たような色の俺の横で、俺と混ざればいい。







彼女は菫に似ている。道端や草陰でひっそりと紫色の花を付けるそれが、控えめで奥ゆかしい姿が彼女らしいと思った。調べて分かったけれど、花言葉も何となく彼女を思わせる気がしている。あんまり言うと悟が怒りそうだけれども、捺が一人で佇む姿や、教室に一番に座っている姿は純粋に綺麗だ、と感じた。大抵二番目に登校する私を見つけると穏やか笑みを零して小さく手を振る姿を思い出す程に尚更そう見えた。大抵の人間が華やぐ桜に見惚れて頭上を見上げる時期に、菫は足元で確かに咲いている。立ち止まって蹲み込んでやっと分かるその美しさは、分かりやすい美では無いのかもしれないけれど、私はそういう所も嫌いではないかな。見つけた人に淡い幸せを届けてくれる、知った人に安らかな心地を与えてくれる、彼女はそんな花に見えるんだ。






強いて言えばあの子は鈴蘭かもしれない。色々と悪くないのに俯きがちに咲くところとか、なんか似てない?木陰に隠れるみたいによく現れるらしいけど、割と捺っぽいと思う。小さくて可愛い花なのに暗いところに咲くなんて、誰かに見つかるのから逃げているみたいだ。確かに変な奴に捕まれば染められてしまいそうな白くて綺麗な見た目をしてるけど、実は寒さに強いだとか、毒があるから動物に食べさせないようにとか、妙に頑固そうなとこがあの子らしい。大切な人に贈ることが多い花らしいけど、気持ちは分かる。私もそう簡単に誰かに紹介しようとは思えないし、まあそんな事したらアイツが面倒臭いのは目に見えてるからしないんだけどさ。でも、そんな誰からにも好かれる雰囲気があるのにそこを自覚してないあたりがアホで可愛いかもね。







今の僕にとって捺は花というよりは土かもしれない。いや、変な意味じゃなくて本当に。そりゃ花はいいよ?綺麗だし見ていても癒されるしそういう意味じゃピッタリ。でも、花である限り開花時期が決まっていたり、勿論枯れてしまう事もある。それは当然、だって花なんだから。でもそれじゃ納得出来ない。僕にとって何よりも変え難い大切な人で、いつ見ても可愛くて、どうしようもなく胸が苦しくなるお前を、終わりのある何かに喩えたいとは思わない。芽吹の春でも、照りつける夏でも、恵みの秋でも、凍える冬でも、どんな時にでも僕のそばにいて欲しい。僕が花だとして、僕を支え、包み、そして、ただの人間に還してくれる捺は……きっと、僕の根幹を作る土壌なんだと思う。僕はそう、信じたい。






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「見えない臓器の名前は」
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