高圧的な誘い文句



この時期になると上級生達は皆、どこか浮き足立ち覚束なくなる。値踏みするような視線を向ける女子生徒や緊張でどうにかなりそうな男子生徒。元々付き合いがある男女であればいつも以上に腕を組み、体を触れ合わせ、露骨にイチャ付き始める者も多い。……そんな中、仏頂面を浮かべるグリフィンドール生徒が1人。広間のテーブルに堂々と肘をつき、長い足をはみ出させながら座っていた。






「あれはどういう状況?」
「捺を誘えない自分に苛立ってるって所かな」
「なるほどね」






それを遠巻きに見つめながら青年の苛立ちを考察するのは緑色のローブをキッチリ身に纏う"夏油傑"と最早レイブンクローと見分ける事が困難なぐらい青を身につけていない"家入硝子"だ。そんな2人の話し声にジトリ、と厳しい視線を向け「聞こえてんだよ」と悪態を吐いた白髪の美しい青年は、学年トップクラスの成績を保ち、何度も表彰を受ける程の天才"五条悟"だ。寮も性格もバラバラな3人は入学当初から他の生徒や教師の話題に度々上がる、所謂問題児だったが、それぞれが類稀な才能を持ち得る事もあり、彼らを止められる人物は中々存在しない。生活指導の夜蛾でさえ匙を投げつつあるのだ、きっともうダンブルドアぐらいしか暴走は止められないだろう。尤もそのダンブルドアもまた自由教育を地で掲げるような人物。彼らの素行を知りつつも灸を据えない辺り、ホグワーツではそれなりに彼らも生徒として認められている事になる。





そして、そんな彼らにはもう1人、大切な友人が存在する。赤でも青でも緑でもない、もうひとつの色を携えた彼女……もとい、ハッフルパフに所属している"閑夜捺"という女性だ。人当たりがよく素直で勤勉な彼女はハッフルパフだけに留まらず、さまざまな寮生から人気の学生だ。家入の所属するレイブンクローには叡智に優れつつも変わり者が多いとされているが、そんな生徒からも彼女は評判が良く、更にはあのスリザリンにすらも表立っては言わないが、彼女に気がある人物がいる、そんな噂が後を立たない。






「早く誘わないと先を越されるよ、悟」
「……っせーな」
「本当メンドーだよね、捺に同情するわ」






肩を落として露骨に息を吐き出した家入に五条は盛大に舌打ちをする。いつもならこの時期の五条は上級生の女子生徒に絡まれて適当に躱していたが、今年に限っては違うらしい。が、どちらにしても彼の面倒さや見ていて腹立たしくなる感情は大して変わらないな、と夏油は苦笑いした。以前のプロムでは休み時間のたびに女性に囲まれていた五条だったが、今回は初日に彼を誘いに来た同じグリフィンドールの女子生徒を盛大に睨んで「あ?」と一言で威圧した件もあり、人っ子1人寄り付かない。その様子に今年はモテないな、と夏油が揶揄ってみても何でもない顔をして"こっちのほうが楽でいい"と答えるあたり、やっぱり五条という人物は男子生徒からは基本的に良い顔はされないのが透けて見える。


夏油も家入も初めはもちろん面白がっていた。あの五条が一人の女子生徒に掻き乱される姿が面白くない筈がない。しかし、流石にここまで来ると見ている方も代わり映えがなくつまらないと感じているのも事実。いっそのこと早く誘えよ、とすら思っている。……そんな二人の前に突然、救世主が現れた。






「っごめん、遅くなった……!」






そう。それは彼の想い人にして二人の友人である捺本人だった。少し乱れた毛先を押さえつけながら家入の隣に腰掛けた彼女はどうやら走ってきたらしい。随分慌てているね、と眉を持ち上げた彼に捺は何故か少し頬を赤らめると「ちょっとね、」と含みの込められた返事をする。その反応に顔を見合わせた夏油と家入はアイコンタクトだけでお互いの考え全てを読み取った。





「水臭いじゃん、教えてよ」
「そうだよ。捺が遅れてくるなんて珍しいしね」
「そんな大した事じゃ……!プロムに誘われただけで、」
「ハァッ!?」





騒ついた広間に響いた大声。びくりと肩を震わせた捺に半ば掴みかかりそうな勢いで「どういうことだよ!?」と詰め寄った男に家入と夏油はテーブルの下で拳を合わせた。この時期の遅刻なんて大方"ソウイウコト"だと予想していたのが見事に的中したらしい。捺は五条の勢いに目を見開いてオロオロと腕を振っていたが、ここで怖がらせてはまずいと夏油が彼を引き剥がす。その間に家入がどんな相手?と尋ねると捺は戸惑いつつも恥ずかしそうな小さな声で「ハッフルパフの同い年の子」と答える。チェリーパイみたいに赤くなった頬は誰が見ても愛らしく、微笑ましいものだったが、恋に燃える面倒な男にとっては十分すぎるスパイスになったらしい。夏油から逃れようと暴れていたのが、ピタリ、と止まり、今はただ彼女の言葉に耳を傾けている。






「ふぅん、で?オッケーしたの?」
「その、あんまり話したことない人だったからまだちゃんと返事してなくて……」
「だってさ、悟」
「…………」





夏油は黙り込んだ男の体を解放する。暫くその場に立ち尽くしていた白銀の青年は強い決意を込めた瞳を持ち上げると、堂々と捺の隣に腰掛ける。机に乗った皿やカップケーキが揺らぐのにも気にせず、真っ赤なグリフィンドールとは正反対の落ち着いた青い目を彼女に向けた。そして、一言。この一週間ずっと言えなかった"それ"を口にした。







「……俺の、パートナーになれよ」
「…………え?」







随分命令的な口調だこと。悪態を吐いた家入の声はきっと届いていない。あれだけ渋った挙句、たくさんの生徒がいるホールで誘うなんて悟もやるじゃないか。夏油はそう言いながら楽しそうに笑った。








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