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「おはよー」

あくる朝、リビングに向かうとそこには跡部と小鞠がすでにいた。
小鞠は何もないように朝の挨拶を寄越してくる。
夜中、気まずい終わり方となっていたために、少しだけほっとする。

はい、とテーブルに出されたトーストとコーヒーをいただくことにする。
跡部と小鞠はもう食べたようだ。
口を動かしていると小鞠が話しかけてくる。

「亮くん、今日はどうするの?」
「どうするって?」
「片づけとか買い物とかあったら私手伝うよ」
「あー、じゃあ買い物に付き合ってもらおうかな」
「おっけー。ジローも起こす?」
「っえ、」

俺、ジローに嫌われてるんじゃなかったっけ?
いいのか?一緒に買い物なんか行ったら気まずくならねーか。
それだったらまだ跡部を連れてった方がましな気がするんだが…。
無意識にちらっと視線をやっていたのか跡部が答える。

「あーん、俺は無理だぜ?今日から仕事だ」
「仕事?日曜も出勤なのか」
「昨日はてめぇが越してくるっつうから休んだんだよ。本来なら仕事だ」
「景吾は社長子息だからね、普段忙しいけど仕事は融通効くんだって」
「おい小鞠、あんまり当てにすんじゃねぇ」
「ごめーん、わかってるって」

気軽な調子で交わされた内容にびっくりしながらコーヒーを飲み込む。
こんな豪華なマンションに住んでるんだから跡部にしろ、ジローにしろ、羽振りがいいのはわかっていたが、まさか社長子息だったとは。
…まてよ?…跡部…社長子息?

「お前、まさか跡部コーポレーションの!?」
「あぁ、そうだ」

日本有数の企業じゃねーか…。
想像以上に雲の上の存在すぎて目の前がちかちかとする。
部屋代はいらないだなんて言うから、詐欺かなんかと疑ってしまっていたが、そりゃあ跡部からしたら家賃なんて端金かもしれないが。
…いや、待て、跡部コーポ―レーションも嘘という可能性は?
小鞠とジローも共犯で、平民である俺を騙そうとしていないか!?
想像が壮大に広がり、ぐるぐると思考を続けようとしているのを小鞠の一声が止めた。

「ってことで、ジロー起こしてくるね」

小鞠が去っていった方向をぼんやり見つめる。
ってことで?なんだ?

「あーん、お前聞いてなかったのかよ」
「あ、ごめん」
「引っ越し直後で疲れが溜まってんのか?それとも寝つきがよくなかったのかよ」

たしかに昨日の夜はあまり寝れなかった。
だが、それは神経質な性格からくるものではなく、単に小鞠にどう接したら良いかわからなかったことからだ。
ぼーっとしていたから跡部は心配してくれたようだ。
意外に面倒見が良いらしい。
いいやつじゃねーかよ。

「心配かけて悪ぃな。大丈夫だ。ところでジローも一緒に買い物行くなんていいんだろうか」
「いいんじゃねーの。ぶつかったら喧嘩すりゃいいだけだ。お前もここに住むんだったら、遠慮なんてするもんじゃねーよ」

そう跡部が発した後で、眠そうなジローを引き連れて小鞠が戻ってきた。

「じゃあ、そろそろ行く時間だから出るわ。小鞠、帰りは遅くなるから食事の用意はなしでいい」
「わかった。気をつけて行ってきてね」

跡部はリップ音を鳴らして小鞠の頬にキスを落とす。
そして挑発的に俺を眺めてから出て行った。

前言撤回。
全然いいやつじゃねぇ。ムカつくヤローじゃねぇか。

「ふぁーーあ。ねみぃーー。なんで宍戸のためなんかに俺も一緒に買い物行かなきゃいけないわけ?まだ寝たいC」
「はいはい、朝ごはん食べて。そしたら機嫌も戻るでしょ」

跡部アウト
機嫌の悪いジローイン

俺の前途多難な1日は、まだ始まったばかりである。



20200818