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昼食を取ってからは、部屋の整理をしたりジローと小競り合いをしたりしていると、気づけば時間が過ぎていっていた。

晩ご飯も食べ終わり、夜も更けた頃。
俺は今この状況に、心臓がばくばくと過剰労働に励んでいることを切に感じている。

「小鞠、こんなの、いい、のか?」
「なにが?」
「俺たち、厳密にはまだ付き合ってない、だろ?」
「けど、一緒に住んでるんだから、そんなの暗黙の了解みたいなものじゃない?」
「いやならねーだろ。ルームシェアしてる同居人だって勝手にベッドの中に潜り込まねーだろ」

小鞠が、俺と一つ同じベッドで寝ている状況にまだ理解が追いついていない。

確かに、気持ち的にはすでに相思相愛かもしれない。
だが俺は身の振り方をまだ迷っている段階だし。そんな状況で小鞠に手を出すなんてできるわけないだろーが。

好きな女がせっかく隣にいるという据え膳を見ないフリして、俺は紳士的であろうと努める。
さっさと眠りにつけ、寝るんだ。
交際前の男女が添い寝するなんてすでにふしだらな状況に陥ってしまっているが、手を出してしまうのはもっとやばい。
無になれ。意識を空っぽにするのだ。
そしたらこんな邪念もどっかに行くだろ。
そう思って小鞠に背を向けて目を瞑っていると、柔らかな温度を背中に感じられた。
ぴとっと触れているのは小鞠の掌だ。寝巻き越しにもしっかり感じることができる。
自分から発されたごくりと唾を飲む音が耳に届く。

…冗談じゃない。
ただでさえ我慢しているというのに。

「小鞠、手を離してくれ」
「亮くん、私のこと好きなんじゃないの?」
「っ好き、だけど、大切にしたいから。それに、するならちゃんと付き合ってからにしたい」

なんだかんだ跡部やジローがいるから小鞠と二人でゆっくりと話せていない。
いい機会だから小鞠と腹を割って話そう。
くるりと身体を反転させる。

「大切にするって、なに?」

小鞠が俺の目を見つめ上げてくる。
それは力を持っていて、逃れることができない。

「私は私のことを大切にしてるよ。亮くんのこと好きだから、触れたいって思うのは普通でしょ?亮くんは違うの?」
「俺だって好きだから、小鞠に触れたい」
「それに付き合ってからじゃないとしちゃいけない理由はなに?」
「それは…」
「それは?」

俺が小鞠にまがりなりにもプロポーズをしたからだ。
ただ適当に遊ぶために、ノリで告白をしたわけじゃない。
俺の言動は、誠意として出る。
ここで手を出して、やっぱり結婚は辞めます、なんて言い出したら、ただのクズな男になってしまう。
もちろん身体から始まる恋だの交際だのは世の中にはごまんとあるだろうし、それが必ずしも間違っているとも思わない。
だけど、俺は誠意を通したいんだ。

そんなことを考えているが言葉に詰まってしまう。

「答えてくれないってことは私に魅力がないってこと?」
「違う」
「じゃあ、亮くんのことを好きと言いつつ景吾やジローに抱かれてる私のことがいや?」
「っ、違う」

即答できなかった。
俺が小鞠を抱いたとして、跡部やジローに抱かれてるときの小鞠はどんなだろう、と想像してしまわない自信はない。
けど、俺は嘘でも違うと即答しなければいけなかった。

「そうだよね。嫌だよね…。それがきっと普通なんだ」

小鞠はぽつりと言うと、ベッドから抜け出た。

「亮くんに私の気持ちを押し付けてごめん。ほんと、ゆっくり考えてくれていいからね」

最後におやすみと言い残して小鞠は部屋を出て行った。

なんて話すのが正解だった?
跡部やジローに抱かれていたって、そのままの小鞠を受け入れるよ、と未消化の気持ちのまま上っ面だけ整えれば良かったのか?

まだ温もりの残るベッドの中で正解を考えていると、気づけば意識を放して寝ついていた。


20200817