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- ナノ -
ダンボールが積み上げられた部屋の真ん中でぼーっとしてしまう。
どこから手をつけようか。

俺は結局小鞠たちのマンションに住むことにした。
小鞠のことが諦めきれなかったからだ。
だったら今までの家で一人暮らしを続けながら小鞠と付き合えばいいんじゃないかって?
それは俺も考えた。
だが跡部からのありがたい提案で家賃はいらないというし、複数交際が自分に向いていないのであればそれは早く自覚して、小鞠を諦める覚悟を持たなければいけない。
そんなわけで衝撃のカミングアウトからわずか一週間後、引越しを行ったわけである。
急な申し出にも関わらず退去を許してくれた大家さんには頭が上がらない。

目紛しく起こったことを考えていると動きが止まっていたようで、コンコンというノックの音にはっとさせられる。

「手伝うか?」

ノックの音の後、顔を出したのは跡部だった。

「あー、じゃあ頼もうかな」

申し出を受け入れて跡部にも片付けを手伝ってもらう。

誰かがいるとサボるなと言われているような気がして、さっきよりも断然ペースが速くなる。
手近な所にあったダンボールを開けて、棚やタンスに仕舞い込んでいく。
そして跡部に指示をする。
この男に指示するのは少しばかり気分が良い。
というか、自発的に手伝ってくれるのはなんだか意外だった。

「なぁ」
「あーん?」
「なんで手伝ってくれるんだ?恋敵みたいなもんだろう?」
「小鞠の好きな奴だろう。敵ではねーよ。あと、ジローが寝てるからな」
「?」
「奴はまぁ大体寝てるが、こういう片付けだったりの担当は本当はジローなんだよ。だがまだお前に気を許してないからな、俺様が手伝ってやることにしたんだ」

その言い方だと、跡部は敵ではないし、気も許しているということになるんだろうか。

「ふーん。だが俺はお前らのこと、まだ完璧に受け入れたわけじゃねーからな」
「とりあえず住んでみるんだろ。小鞠のこと好きならまぁいいんじゃねーの。それでいいんだったらサイタフ婚すりゃいいし、無理だったら別れるまでだ。シンプルだろ?」

そうだ。それを見極めるためにここに住むと決めたんだから。
跡部やジローごと受け入れられるか、それとも拒否反応が出るか。やってみなくちゃわからない。

二人でやれば作業効率もスピードも上がり、気づけばダンボールの山も終わりが見えていた。
あとは俺一人でもすぐだろう。
同じことを思ったのか、跡部は立ち上がる。

「んじゃま、俺は小鞠のこと手伝ってくるわ。キリのいい所でリビングに来な。もうすぐお昼だ」

小鞠は今昼ごはんを準備しているらしい。
小鞠の手料理は楽しみだ。だが、初めての手料理が二人っきりでなく、余計な二人がついてくることになんだかムカついてしまう。
こんなに手伝ってくれた跡部には敵対心が薄れていっている気がするが、それでも邪魔に思ってしまう。

最後のダンボールを片付けると、俺はよしっと気合を入れてリビングに向かった。
前向きに受け入れられるように、気持ちの切り替えだ。

大きなダイニングテーブルには跡部だけが席についており、小鞠はスープをよそっている。

「ジローってやつは?」
「え?あー、ジローはまだ部屋で寝てると思うなぁ。私、呼んでくる!」

ぱたぱたとスリッパがフローリングを蹴る音をさせながら小鞠が部屋から出ていく。

「前から気になってたんだけどよ、ジローって寝過ぎじゃねーの」
「あー、興味が向かねぇときは基本的に寝てばかりだな。機嫌悪くなるからあんまり突っこむなよ」

俺の問いに跡部が答えたが、寝てばかりで機嫌も悪くなるって、最悪じゃねーか。
顔はベビーフェイスで悪くはないが、なんで小鞠はそんな男を選んだんだよ。

「お待たせー、ジロー起きたよ」
「思ってたより早かったじゃねーの」
「んあ、お腹空いたからね」

ふわぁと大きな欠伸をもう一つ噛み殺すと、ジローの視線がこちらを向いた。

「あれー、優柔不断くんじゃん。また来たのー?小鞠のこと迷っちゃうくらいなんだから、大した気持ちじゃないよね。ここ来る意味あった?」
「うるせーな!気持ちの整理くらいゆっくりさせろよ。こんな、サイタフ婚だなんて思わないだろ。イレギュラーっつか、反則だぞ」
「イレギュラー?反則?そーいう法律だから仕方なくね?小鞠、こっちからこの宍戸くん断っちゃえば?」
「ジロー、亮くんと喧嘩しないで。私の好きな人なんだから」
「ちぇ」

ジローは小鞠に咎められると黙って席につき、食事を取り始めた。

「ごめんね亮くん、ジローも普段はこんなに喧嘩っぱやくないんだよ」
「俺は小鞠を思って意見を言ったまでだC」

ぼそっと愚痴るジローに思わず青筋が浮かぶが、堪える。大人になるんだ、俺。

「うるせーよ、てめーら。どっちもどっちだ。黙って小鞠の飯を食いやがれ」

跡部の言う通りだ。
楽しい雰囲気で食事は取るべきだ。
だけどせっかくの小鞠の初手料理は、味を堪能することもできず、俺の胃袋へと収まっていった。



20200816