×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
「うちにきてほしいの」だなんて言われたから男として、ちょっとはそういうことも考えるだろう。
でも現実はそんな甘いものではなく、好きな女に婚約者がいるっつー話だった。しかも二人も。
意味がわからない。
誰かに話して笑い話として消化してやろう!と思い立って携帯の電話帳から同僚の幸村くんを見つける。発信ボタンを押して、飲みに行く約束を取り付けるんだ。
そう思うも、なぜだか指が動かない。

「くそっ。激ダサだぜ」

好きな女を諦めるってのは今の俺にはできないらしい。
幸村くんではなくて、気づけば小鞠に電話をかけていた。


***


小鞠に電話した俺は、4人で話し合う予定を取り付けた。
内容も内容だけに、外ではなく小鞠たちの家で話し合うことになった。
マンションを訪れると、前と同じく憎いほど煌びやかな外観に、穏やかじゃない俺の胸中がさらにささくれだった。


リビングに向かうとすでに3人は席についていた。
ジローって男は前と変わらず眠そうだったが、かろうじて起きていたし、跡部ってやつは前と変わらず傲岸不遜でなんとなくムカつく。そして小鞠はいつもと変わらず可愛かった。
惚れたら負けなんてよくいうもので、三下り半をつきつけることができないのは、俺がやっぱり小鞠のことが好きだからだ。

「いらっしゃい、亮くん」
「宍戸って呼び捨てでもいい?俺はジローでいいよ」

のんきに自己紹介を言ってのけるジローに、なんだか調子が崩される。
俺は強気で話し合いに臨みたいはずだったのに。

「あんたらのことが聞きたい」
「前はろくに話もせずに帰っちまったもんな」

小鞠が甲斐甲斐しく淹れてくれた紅茶に口をつけて心を落ちつかせる。ふーと息を吐いて、疑問点をぶつけてみる。

「どうやって3人で付き合ってる?約束事は?婚約者ってことは結婚するんだよな、いつするんだ?」

他にも色々聞きたいことはあるが、あまり聞きすぎても、と思い口を噤む。

「どうやってって、一緒に暮らしてるから3人でデートしたり、2人ずつデートしたり、どっちもあるな」
「エッチも2人でも3Pでもどっちもするよー。あ、宍戸がきたら4Pか、それも楽しそー」
「おいジロー下品だ」
「えー、ごめん」

形だけ謝っているもこれは悪いなんて微塵も思ってないだろうな。
SEXのことも気になっていたが、こうも赤裸々に予告なく話されると面食らってしまう。
若干くらっときているのをなんとか耐え、次の問いに対しての答えを促す。

「約束事かぁ、常識的なことだよね?嘘つかないとか」
「あーん、そうだな。お互いを尊重し合うとか」
「あ、これ言っときたかったんだC。人のエッチに異を唱えるな」
「お前は下の話ばっかりだな」
「重要だからね」

ほぼ初対面の相手にずけずけと、しかも小鞠のいる前でよく話せる、と思いながら小鞠をちらりと見やると、のほほんと紅茶を飲んでいる。
こんな男を選ぶくらいだから肝も据わっているのだろうか。
溜息をこらえて次を聞く。

「結婚は来年の予定だ。ここからが大事なんだが、サイタフ婚で小鞠は複数の夫を持つ。苗字をどうするかが問題だな」
「今のところ小鞠は跡部の性になる予定なんだC」
「話し合い次第で夫婦別姓や、あるいは芥川か宍戸になる可能性もあるが。ここが一番ややこしい点だな」

そうか。確かにそうだ。
俺は勝手に結婚したら奥さんは俺の性になるんだって思い込んでいた。
世の中の大半は結婚すれば女性は夫の性になっているし。
だが俺がサイタフ婚をしたらどうか。
小鞠を紹介するときに宍戸小鞠だと紹介できない。
急に胸がきゅうと締め付けられ、嫌悪感が湧いてくる。
やっぱり、

「やっぱり、俺には無理だ。サイタフ婚なんて」
「そんな急に決めなくてもいいんじゃねーの?」
「そうだよ、ゆっくり考えて?ね?」

跡部と小鞠は俺のことをフォローしてくれるが、ジローは真顔でひじ杖をついたままだ。

「無理なら辞めちゃえば?小鞠と付き合うのも結婚するのも強制じゃないんだし。正直俺は宍戸が来ない方がいいんだよ?小鞠との時間減っちゃうもんね」

そう言うとジローは小鞠を抱き寄せ、これ見よがしに頬にキスを落とす。

「こんなに可愛い小鞠を諦めるってんなら他の女を探せばいいだけだC。優柔不断な男は嫌われるよ。おいで、小鞠」
「っわっ、まだ話終わってないよ、ちょっと、ジロー!」

ジローは小鞠を引きずって奥の部屋へと消えていった。

「あーあ。ありゃお前の悪口小鞠に相当吹き込むな」
「なんか感じ悪いな、あいつ」
「ジローは大分イイ性格してるからな。敵にまわすと厄介だぜ」
「え、敵認定された?」
「いや、まだだが。お前の態度じゃ時間の問題だな。今すぐにとは言わないが、どうするかは自分で決めるしかない」
「…」

話し合いで何かが変わるかと思っていたが、もやもやとした心が晴れることはなく、何かを決めることもできなかった。

「部屋余ってるしな、泊まってくか?」
「…いや、帰る」

前のように即刻拒否できなかったのはどうしてだろう。
複数交際を認めてでも小鞠と離れたくないのか、はたまた…。
俺は自分の気持ちに区切りをつけるために、今日こそ真剣に向き合おうと心に決めて、マンションを出た。


20200816