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俺は今幸せだった。
ちょっとわがままなところやぽやっとして抜けているところもあるけど、可愛い小鞠のことを好きになれて、人生がより楽しくなった。

人を好きになって恋愛にうつつを抜かすだとか女子みてぇって自分でも思うけど、恋ってものはこんなに嬉しくなったり楽しくなったりするもんなんだと初めて実感した。
そして、この娘こそ人生の伴侶で自分の結婚相手なんだとフィーリングを確信した。

小鞠との出会いは何の変哲もない合コンだった。
小鞠には一目惚れで、まるで童貞のように話せば緊張したし、小鞠の笑顔に胸をときめかせていた。

何回かのデートを重ねて、手ごたえも正直感じている。
今日、俺はいよいよ告白しようと決心していた。
小洒落たレストランで夜ごはんを食べてから、夜の海を見ながら小鞠に向き合う。

「小鞠、俺と将来を見据えてお付き合いしてください!」

潔くストレートに告白をして腰を深く曲げる。ドキドキと緊張して心臓がうるさい。
小鞠は今までのデートでもすごく楽しそうにしてくれていたから、いけるんじゃないかって淡い期待はあった。

だが、告白の返事を待つ時間というものはこんなにも緊張するものなのか。
小鞠の返事にようやく顔を上げる。

「亮くん、告白ありがとう。すごく嬉しい…。私も亮くんのこと、好きです」
「ほんとかっ!ならっ!」
「けど!ちゃんと付き合うなら、知っておいてほしいことがあるの」
「知ってほしい、こと?」
「…うん」

小鞠の声で好きと言われたときは、天にも昇るほど嬉しかった。恋が成就した瞬間だと思った。
だけどそのあとすぐに言われた不穏な言葉に眉が寄る。
小鞠の表情も、今までには見たことのない少し困った顔だった。

「うちにきてほしいの」


***


俺の車に乗り込むと、小鞠の道案内で家まで連れられる。
この辺だという小鞠の声に、俺は適当なパーキングに車を止めた。
こっち、と指さされたのは煌びやかな高層マンションで、立地的にもかなり家賃の高いエリアになる。
こんないいとこに住んでんのか。とびっくりしているところ、すぐにより驚かされることになった。

「最上階かよ」

エレベーターに乗り込んで小鞠が押したボタンは一番上にあるボタンだった。

身に着けているものは確かに洗練されているものだけど、デートしているときの金銭感覚だったり世間常識は俺とそう変わらないと思っていたのに。お嬢様なのか!?脳内でぐちゃぐちゃ考えていると、小鞠が鍵を開けて入って、と促してきた。

玄関や廊下ですら清掃が行き届いていてピカピカして広くて綺麗だ。そろそろと小鞠の後をついて廊下を進む。

リビングへと繋がっているらしいドアを小鞠が開けると、そこには男が立っていた。

「…え?誰?」

お兄さんか何か?

「小鞠、そいつが話していた男かよ」
「うん」

理解が追い付かずにぽかんと呆けている俺に、ちょいちょいと小鞠がこ招きする。

「紹介するね。こちら私の第一フィアンセ」
「俺様が第一フィアンセの跡部景吾だ」
「第一、フィアンセ??」

ますます理解ができなくなってくる。
フィアンセ?婚約者?
婚約者がいながらも俺とデートして、遊んで、好きだと言ってたのか?なんの冗談だよ。沸々と裏切られたような怒りと悲しみが小鞠に対して沸いてくる。

「小鞠!お前俺のこと好きって言ってたじゃねぇかよ!なのに、なんでっ」
「うるさいC、何騒いでんの?起きちゃったじゃん」

第三者の声に後ろを振り返ると、金髪の男が頭をがしがしと掻きながら近づいてきた。眠そうな目に違わず大きな欠伸もついでに零していた。

「…は?あんたも誰だよ」
「俺?俺は第二フィアンセの芥川慈朗。よろしくー。この子、前小鞠が好きって話してた子?男らしくていいじゃん」
「そうなの!宍戸亮くんだよ。男らしくて、かっこいいでしょ」
「俺らとタイプが違っていいんじゃねーの、あーん?」

俺を差し置いて三人で話が進んでいることに納得がいかない。

「ちょっと待てよ!」

一斉に三人の顔がこちらを向く。

「一体どういうことか説明してくれよ!」
「あーん、お前、サイタフ婚知らねーの?」
「さいたふ、婚?」
「そう、一妻多夫婚、略してサイタフ婚。知らなE?」

一妻多夫婚。
女性の出生率が下がったことと、家庭における経済貧困層を少なくするために始まったという政策。

名前くらいは聞いたことはあるが、メジャーではないために実際にサイタフ婚なんてしている奴聞いたことがない。法律で認められているために合意の上であれば多重交際も浮気ではないというが。一般的ではないから俺は全然理解できない。

「サイタフ婚、名前くらいは知ってるけど、なんでわざわざ…」
「だって、俺も跡部も小鞠が好きなんだC、浮気でもないからEじゃん!」

三人が三人とも、常識を話すような何の懸念も違和感もないような顔をしている。

「私、亮くんのこと好きだから、出来れば付き合いたいな」

上目遣いで好きだと告げる小鞠にぐらっとくるが、やっぱり…

「こんなのおかしいって!普通に考えて、みんなで付き合うとかありえねーだろ!」
「あんまりないもんね。けど私は亮くんのことが好きだし、景吾もジローも好きなの。好きな気持ちは平等で一緒だよ」

…小鞠が言っていることが理解できない。

「私の気持ちは伝えたから。今日じゃなくてもいいから、また返事聞かせて?」

サイタフ婚なんて知るか!付き合わねーよ!って、その場で言えればよかったのに。言えなかった。
だって、俺は小鞠が好きだから。人生の伴侶だ、と思ったから。

「とりあえず、一回帰って考える」

そう言って俺は背中を向ける。

「部屋余ってるし、泊まってってもいーぜ?」

誰が泊まるか!
背中に投げつけられた言葉を無視して、俺は家に帰った。



20200607