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侑士は偉くてかしこいから、大学を卒業するときに要る単位も全部取って、卒業試験も、お医者さんになる試験にも、とてもいい成績で合格したんだって。
けどこんなにたくさん勉強したのに、このあと一人前のお医者さんになるために、まだ研修があるんだって。
人間って大変!侑士が勉強しすぎておハゲにならないか、わたしは心配しちゃう。

ふぁーあ、それにしても眠いなぁ。
出かけるにしてもこんなに朝早くからじゃなくていいのに。
もう1回寝ようかなぁ。

「もしもし?謙也?今から新幹線乗るから。え?別に迎えに来んでも大丈夫やで、って切れたわ。ほんませっかちやわ」

しばらく忙しくなるから最後に羽を伸ばすって、侑士は旅行に行く。
まず最初は大阪ってところだけど、そこはいつもみたいに車で行くには遠いから、新幹線っていうとても速い電車みたいな乗り物で向かうらしい。

そのためにわたしは早起きをさせられたから、とっても眠い!

「たまこー、もう新幹線乗ったから。もうちょっと狭いところで我慢してな。堪忍な」

電話を終えた侑士はそう謝ってくれるけど。
狭いし眠いしほんとに失礼しちゃうわ!
ぷんって怒ってわたしはバスケットの中で侑士に背を向けた。

丸くなってうとうとしていると、いつの間にか寝てしまっていたみたいで、気付けば侑士がごそごそ準備をしていた。

「たまこ起きた?もう新大阪着くで」

メスの人間のアナウンスが聞こえてきて、侑士が言っていた新大阪ってところに着くよって案内している。
大阪がどんなところか少しだけわくわくしてきた。

新幹線を降りて、改札を抜けて、しばらく行くと、こっちに手を振る人間のオスが見えた。

「侑士!久しぶりやなぁ」
「来んでも大丈夫って言うたのに」
「侑士が乗り換えミスったら困るっちゅー話や。暇やったしな。気にせんとはよ行こ」
「いくつやと思とるねん。まぁでも、お迎えおおきにな」

侑士が謙也と呼ぶオスとはなんだか仲良さそうで、わたしは誰なんだろう、と気になった。
駐車場まで行くと、謙也が車のトランクを開けて侑士の大きなキャリーを詰めこんだ。
謙也が運転席に、侑士が助手席に座ったところでエンジンがかかる。

わたし、車あんまり好きじゃないのよね。
ねぇ侑士、出してくれない?
カリカリとバスケットの網を軽く引っ掻く。

「謙也、この子バスケットから出してもええ?」
「ええけど、大丈夫なん?」
「大人しくてええ子やから大丈夫やで。ほら、たまこ、おいで」

そうしてバスケットの扉が開かれた。
ありがと、侑士!
そう答えてわたしは膝の上にぴょんっと飛び乗った。
カゴからではなくて、何も障害物がない状態で謙也の顔をじっくりと見てみる。
…侑士の方がかっこいいね!

「俺のことじーって見た後、にゃあって言うたな。顔気に入ったんか?」
「どうやろな。たまこ俺の従兄弟の謙也やで」
「よろしくな」

貴方もかっこいいけど、やっぱり侑士の顔の方が好きだよ。ごめんね。
謙也にそう言っていると、いよいよ車は動き出した。

謙也のお家は侑士の家と違って一戸建てで、中から出てきたおじさんとおばさんに侑士は挨拶をしていた。
あとから知ったけど、侑士のお父さんの弟なんだって。
客間にキャリーを置くと、侑士は2階の謙也の部屋にわたしを連れて戻った。

「お、侑士準備できたか?せっかくやし新世界にでも行こか」
「難波やなくて?」
「どっちでもええけど、ほな昼難波でたこ焼き食べて、夜は新世界で串カツでも食べる?そんな遠ないしな」
「ええやん、そうしよ」

どこかに行く話で盛り上がっている様子を見ていたけど、わたしは連れてってもらえるのかな。
ねぇ、連れてってくれる?
すると2人は少し忘れていたかのような顔をして。

「たまこは謙也の家でお留守番しといてな」
「母さんねこ好きやから、構ってくれるし大丈夫やわ」

え!お留守番なの!?
びっくりしたまま謙也に抱っこされて、わたしたちは1階に降りて行った。
キッチンに連れられると、さっき侑士が挨拶したおばさんがいた。

「あら、どっか出かけるん?」
「おお、大阪観光してくるわ。母さん、この子見といてもろてええ?」
「たまこっていいます。お願いしてもええですか?」
「めっちゃ可愛いねこやなぁ!たまこちゃん、はじめまして。もちろん見とくし、侑士くん大阪楽しんでいきー」
「すんません、ありがとうございます」
「全然ええってー。うちのことは気にせず、ゆっくりしてきぃなー」

わたしは謙也からおばさんにパスされ、向かいの侑士を見上げた。
おばさんの手は安定していてあったかい。けど、侑士がよかったのに。
侑士のばか。恨めしく見ていると。

「ごめんな、たまこ、帰ってきたらかまったるから」

と侑士は言い、頭をぽんぽんと撫でてからそのまま2人で出て行ってしまった。
むぅ。楽しみにしてたのに。大阪まで来てなんなのよぅ。
2人が出て行った扉をにらみつけていると、おばさんがくるりとわたしの身体を反転させる。

「たまこちゃん、ほんま可愛いなぁ、おばさんと遊ぼか」

いつのまにか右手には侑士にいつも遊んでもらう猫じゃらしがある!
遊ぶ!
わたしは侑士への恨みをしばらくの間忘れて、おばさんと楽しい時間を過ごした。


20200518