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もうすぐ人間が20歳になったお祝いをする日、成人式って言うのがあるんだって。
おめでたい日のはずなのに、最近侑士はあんまり嬉しくなさそう。
心配になって、どうしたの?って足に擦り寄る。
そうすると侑士はお話してくれることが多いんだよ。

「たまこ、心配してくれてるん?最近元気ないもんなぁ、ごめんなぁ」

わたしをそのまま抱っこしながら侑士はソファーに掛ける。
背中をくいくいと掻かれて気持ちいい。
侑士が触ってくれるならどこでも気持ちいいけどね。

侑士の目はハンガーに掛かってある綺麗にアイロンがけされた紺色のスーツを見つめている。
成人式のために新調したスーツで、帰ってきてから試着していた侑士の姿はねこのわたしから見てもとってもかっこよかった。人間のメスなら惚れちゃうんじゃないかな。
とってもかっこいいご主人様が自慢で、わたしはスーツ姿をまた見れるのがこっそり楽しみなのだけど。
なんで元気ないのかなぁ。

そうこうしているうちに、晴れの日当日がやってきた。
侑士は細身のスーツを着こなして、わたしに行ってきます、と言って出て行った。
今日の帰りはきっと遅いに違いない。
手持ち無沙汰なわたしは布団に潜り込んだ。

寝たり起きたり食べたり寝たりしながら1日待っていると、がちゃりと音が聞こえてきた。
侑士だ!慌てて布団から飛び出る。

部屋に入ってきた侑士の顔はいつもより赤くなっていて、ちょっと臭い気がする。
こんなの初めて。なんの臭い?

「ただいま〜〜かわいいたまこちゃん〜」

わたしを抱き上げてちゅっとしようとする。
いつもなら嬉しいけど、なんか臭いからイヤ!
顔をぷいっと背ける。

「あら、ちゅーイヤなん?やっぱ酒臭いんかなぁ」

わたしを降ろして洗面台へと向かう。ゴロゴロゴロとうがいの音が聞こえてきた。
戻ってきた侑士はまだちょっと臭いけど、我慢できるくらい。
けど今度はスーツが臭い。煙の臭いがする!
イヤな臭いをさせたまま、わたしをそのまま抱きしめるけど、逃げないで腕の中でじっとしといてあげた。

だってなんだかいつもと違うような気がしたから。

どうしたの?

侑士は何も言わず黙ったまましばらくじっとそうしていたけど、ぽつりぽつりと話し出した。

「俺な、中高ん時なんも考えずにテニスばっかりしとってん。めっちゃ楽しくて、そらぁ夢中やったわ。今は医者になるって夢に向かって頑張っとるけど。俺はもう大人になるんやな、前みたいに子どもでおれんのやなって思うとさー」

そのまま途中で話を止めると、また黙ってしまった。
侑士?大丈夫?ねぇねぇ。
顔をぱしぱしと叩くと、困った目をしながら侑士は顔を上げた。

「もうこら、痛いやろ」

ちっとも痛くなさそうに言って、少し笑った。

「テニス、好きやってん。酒も煙草も、大したことなかったし。別に大人なりたないな。ほんで前みたいに、テニスやりたいなぁ」

お休みの日に、侑士はラケットとボールを持って行ってテニスをやっていることがある。
サークルっていうのに入ってるんだって。
今侑士が話してるテニスと、お休みの日のテニスは違うものなのかな。
同じテニスなのにね。

「戻ることは、できひんねんな」

侑士の目は何かを思い出して懐かしむような、寂しそうな、そんな目をしていると思った。

朝には糊が効いてぱりっとしていたスーツも、今はくちゃくちゃ。
かっこいい自慢のご主人様は少しへしょげていて、そして臭い。
けどそんなの全部気にしないで、ぎゅっとしがみつく。
侑士が辛いときは一緒にいてあげるよ。
大丈夫だよ。
わたしのもふもふの身体に顔を埋める侑士にそう言ってあげた。



20200515