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何回か角を曲がって走り続けると、いた!
あの子の後ろ姿が見えた。

「待ってってば!」

あの子は前に野良猫が集まっていた空き地にいた。
今日は野良猫たちは誰もいないみたいで、ヒマラヤンだけが陽当たりの良い場所で寝転がっている。

「こんにちは!」

わたしは近づいて挨拶をする。

「きみはだぁれ?」
「わたしはたまこ、あなた、ここに住んでるの?」
「違うよ、ぼくは遊びにきただけ。ここで日向ぼっこするの気持ちいいんだよ」
「ほんと?じゃあわたしも一緒にいてもいい?」
「空き地はぼくのものじゃないから。もちろんどうぞ」

ヒマラヤンはそう言って少しスペースを空けてくれた。
隣にころんとわたしも寝転んだ。
あぁ、気持ちいい。お外のお日様ってこんなにあったかいんだ。
だんだんと瞼が重くなってきて、いつの間にやら2匹揃って寝こけていた。

ぱっと目を覚ますと西日はもうほとんど沈みかけていた。

「大変!そろそろ帰らないと!」

ちゃんと迷わずに帰れるかなぁ。

「ぼくも。また探しに来られちゃう。あ、」

何かを見つけたのか、ヒマラヤンは空き地の入り口に駆けて行った。

「カルピン!どこ行ってたの」

ごめん、とヒマラヤンねこ、カルピンが帽子を被った青年に謝る。
あなたの名前カルピンって言うのね。
あれ、名前言ってなかったっけ?
うん、初めて聞いたよ。

「カルピン、何話してるの、友達のねこ?おいで?」

優しそうな声だし、カルピンのご主人だし、とちょっと迷いながらもわたしは近づく。
脇の下から持ち上げられて、お尻を支えられながら抱っこされる。
この人、抱っこ上手!
大人しくじっとしていると、首輪のタグを見られていた。

「ふぅん。たまこって言うの。近くに飼い主はいないようだけど、迷い猫?」

迷い猫じゃないけど、ちゃんとお家に帰れるかは心配。
ねぇ、カルピン、お家までついてきてくれない?
えぇ、それは無理だよ。リョーマに止められちゃう。
青年越しに話をしていると。

「たまこ!?やっと見つけた、って、越前!?」

わたしのご主人、侑士が焦った様子で近づいてきた。
侑士なんでこんなところにいるの?
びっくりしていると。

「…氷帝の忍足さんっすね、この子、あんたのねこっすか」
「せや。今日窓閉め忘れてたみたいで。思い出して慌てて帰ってきたけど、もうたまこ出掛けてしもとって。見つかってほんまよかったわ」

わたしはカルピンのご主人から侑士に引き取られ、抱っこされる。
侑士の手、ぎゅっと力が入ってる。
心配させちゃってごめんね、と鼻をすりすりさせる。

「ふぅん。見つかって良かったっすね。可愛いねこですし」
「せやねん。めっちゃ可愛いやろ?越前ありがとうな」
「まぁうちのカルピンの方が可愛いっすけど。じゃ、失礼しまーす」

カルピンはご主人に連れられて帰って行った。
帰り際にばいばい、とお互い挨拶をしたら。

「越前のねこ、ほぁらってどんな鳴き方やねん」

侑士が突っ込んでいた。そんなに変かなぁ。

そのあとわたしはしっかり抱っこされて、侑士のお家に帰った。
前足も後ろ足もよーく拭かれてから、やっとお家の中に入るのを許された。
そして、お皿にわたしのごはんを用意しながら長々と話しかけてくる。

「たまこ、今回は窓閉め忘れた俺が悪かったわ。けど、勝手に外行ったらあかんで。車に轢かれるかもしれへんし、悪い人に誘拐されるかもしれへん。たまこは可愛いからな。あとは野良犬とかカラスに苛められるかもしれへんし、迷って帰って来られんようになるかもしれへん」

まだまだ続ける侑士に、わたしはこてん、と頭を傾けた。心配性だなぁ。

「なぁたまこ」

なぁに?

「どこにも行かんといて」

うん、侑士とずっといるよ。

人間の言葉が話せればいいのにな。
そうしたら侑士がこんなに心配しなくても大丈夫なのに。
わたしはそう思いつつ、たまらなく美味しそうな匂いをしているごはんに勢い良くかぶりついた。



20200515