わたしを飼っているご主人様は忍足侑士という人間。
大学の医学部に通っている。
勉強することがたくさんあって忙しいのか、帰りは毎日遅いし、家に帰ってきたときにはいつもちょっと疲れた顔をしている。
1DKの部屋は、わたしだけだと広すぎるから。
早く帰ってきてほしいなぁ、と思いながら窓際で彼の姿を探し待つ。
あ。遠くの方にコンビニ袋を片手に持って歩く姿が見えたから、わたしは急いで玄関に向かう。
がちゃりと玄関のドアが開き、やっぱり今日もちょっと疲れた顔が見えた。
「なんや、たまこ、出迎えてくれたん?」
ただいま、と言いながらポンとわたしの頭を撫でてくれる。
大きくて優しいその手がわたしは大好きで、目を細めて喜んでしまう。
「おなか空いたやろ?今から用意するわぁ」
大学で勉強頑張ってる間に、わたしはのんびりしててごめんね。
気を遣わなくてもいいよ?ゆっくりしてね?と思ってたけど、ふわっといい匂いが漂ってくる。
「はい、どうぞ」
と言って差し出されたのは、大好きなサバ!
魚はなんでも大好き!今日も大好物を用意してくれて嬉しくなっちゃう。
一緒にご飯を食べ終わって、そのまま彼がお風呂に向かう姿を見送る。
明日も朝から授業があるみたいだから、うだうだできないのだ。
お風呂からあがると、腰にタオルを巻いただけの状態であがってきた。
水も滴るなんとやら、だ。上半身はムダ毛もなくほど良く均等に筋肉がついていてとても綺麗。わたしはもうちょっと胸毛もある方がいいなと思うけど。
ガシガシとタオルで髪の毛を拭き、牛乳をくーっと一気に煽る。
ワイルドな姿も好きだなぁ。じーっと見つめていると。
「そんなに見んとって、えっちやわぁ」
と微笑まれた。思わずきゃっと一瞬照れちゃった。
なんだか欲が出てきて見つめていると、ちゅっとわたしの口に唇が触れた。
口に移りついたミルクをぺろっと舐めとる。
もう一度ちゅーしてほしいなぁ。
爛々とした目で見つめるけど、残念ながらそれ以上はしてくれなかった。
「あかんって、また欲しくて我慢できなくなるやろ?」
前科があるから何も言えない。前もねだりすぎてうるさい!と怒られたのだ。
仕方ないから大人しく布団に潜り込む。
パンツ1枚で寝る派のご主人様と裸のわたし。
薄くて肌触りの良い布団がそのままかけられて気持ちいい。
ぺとっと厚い胸板に顔を寄せると、そのまま抱き寄せられて頭を撫でられる。
ふと上を見上げると、じーっと目線が注がれていた。
家に帰ってくるときの疲れた顔じゃなくて、ふんわり柔らかい顔。
少しは疲れがとれたのかな。
わたしも甘えるのは大好きだけど、それに負けず劣らず甘えられることも多い。
とくに寝る前に一緒にこうやって抱き合うときはとろけたような瞳で見つめてくるから、かわいいなって思っちゃう。
「ん〜〜好きやでたまこ〜〜」
顔をすりすりと寄せてくる。ほら、また甘えん坊さんだ。気を抜くといっつもこの有り様だけど、そんな貴方がわたしも大好き!
耳元でだいすきって言ったんだけど、ちゃんと聞こえてるかなぁ。
わたしより背の大きいところ、甘く低い声でたまこって呼んでくれるところ、おいしいごはんを用意してくれるところ、頭を撫でて甘やかしてくれるところ、ちゅーして甘えてきてくれるところ。
手とか足とかつるつるだし、もうちょっと毛深い方がいいなって思うけど、それでも、ご主人様の全部が大好きです。
にゃーんと鳴いたたまこの声と揺れるしっぽ。
小さなねこはご主人様にとっても愛されています。
20200513