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侑士がお医者さんになってから何年か経った。
しんどそうにする日ももちろんあるけど、仕事へのやりがいも感じてるみたいで、毎日が穏やかに過ぎていってる。
学生時代と違うこと言えば、たまにメスの人間が出入りするようになったこと。

侑士は昔からモテる。
岳人や謙也からの電話もたまにはあったけど、電話から漏れ聞こえてくるのはメスの声が多かった。
しかも毎回声が違う。
侑士が呼ぶ名前も毎回違っていたから、特定の相手ではないんだろうと思う。

自分のテリトリーに他の人間を入れるのが好きではない侑士は、そういった他のメスを家にあげることはほとんどなかったけど、最近はそうでもなくなった。

1年前くらいから、電話をする侑士は同じメスの名前を良く口にしていた。
ご飯に行ったりデートに行った日はとくにそのメスの話をしていて。
わたしというものがありながら!とちょっとムカッとする気持ちがないわけではないけど、侑士が穏やかそうに笑うから、わたしもそれでいいかなって思ってた。

いよいよそのメスが家にくるときは緊張した。
侑士の大切なオスには今まで何回か会わせてもらっていたけど、メスの人間は初めてだったから。
一体どんな人間なのかわたしが見極めてあげよう!なんて思ったよ。

「はじめまして、侑士から話はよく聞いてるよ。たまこちゃん、よろしくね」

上品に笑う年上の彼女さんはとっても綺麗で、ねこのわたしから見ても美人さんだなぁと素直に思った。
しかも会うたびにおやつやお土産をくれたりして。
性格も優しいから、さすが侑士が選んだ人間!とわたしのお墨付きになった。

何度目かに家にきたときに、2人は交尾をした。

「たまこちゃんに見られる」

って恥ずかしがっていたけど、そんな彼女を見て「かわいいな」って侑士は笑ってた。
別に人間の裸なんて見ても面白くもなんともないのに。

交尾の時間は2人ともかまってくれなくなるから、わたしは気にせず眠る時間としていた。
わたしが起きだす頃には2人は交尾を終えていて、ちゅーをしたりお話しをしたり、ベッドで時間を過ごしていた。

わたしがベッドに飛び乗ると、侑士も彼女も身体を撫でて可愛がってくれる。
そして2人は楽しそうに笑う。
そんな時間がわたしも楽しくなっていた。

初めて彼女が家に来だしてから、1年ほど経った。
家に来る回数は減っていたし、2人で家にいても少しイヤな空気がしているなって感じた。
わたしはそれが嫌で、侑士や彼女に甘えてみる。
すると、わたしに対しては優しくしてくれるけど、2人の仲は良くならなかった。
ぴりぴりとしたそれは、どんどん濃くなっていった。

2人の気持ちを表しているかのような雨の降る夜。
侑士の家で真剣な話をしていた。どうやら将来の話をしているみたい。
彼女は何かを必死にお願いして、縋っているようだったけど、侑士は顔を横に振ってうんとは言わない。
話がもつれこんで彼女は泣いていたけど、侑士は優しく背中をさすることはしなかった。
わたしにはあまり理解できないことばかり話していたけど、最後のは聞こえた。

「別れましょう」

と引き取るような声で彼女が言って。侑士はやっとうんと頷いた。

「さよなら」

と泣きながら出て行った彼女を見送る侑士はなんともないような顔をしていたけど。
やっぱり辛いのかベッドにぽんと座ってわたしをぎゅっと抱いた。

「まだ結婚なんてできるわけないやん」

侑士はよく言う。
俺なんて医者としてまだまだだって。そして彼女のことが好きだともわたしによく言っていた。
結婚って家族になることなんでしょ?
ずっと一緒に住んで、一緒にいるわたしは家族なんでしょ?
なんで彼女は家族になれなかったの?
優しい人だったのに、何がだめだったの?
ねこのわたしにはやっぱり理解できない。
好きな人間同士なのに、なんで別れないといけないんだろう。

侑士と一緒に家族でいられるから、わたしはねこで良かった。
泣いている侑士に寄り添いながらそう思った。


20200519