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侑士は最近、大学に行っていたときよりももっとひどい顔をしている。
体力がないと動けないからか、朝ごはんは食べるようになったけど。夜は食べずにお風呂だけ入ってベッドに倒れこむことも珍しくない。
わたしはそのたびに侑士に身体をこすりつけて心配してしまう。

まだ平日のど真ん中。いつもよりうんと遅く帰ってきた侑士は電気もつけずに、わたしに挨拶もせずに、ただ部屋で座り込んだまま動かなくなった。
侑士?どうかした?
わたしが話しかけると、忙しくても名前を呼んで背中を撫でるくらいはしてくれるのに、全然動かない。
何度話しかけてもだめで、わたしは病気?お腹でも痛いのかな?と心配してしまう。
わたしの声だけが響く真っ暗な部屋の中で気付く。

侑士が泣いている。

声も出さずに涙が目の端から流れている。
侑士に身体をなすりつけても抱きかかえてくれないから、わたしは膝に頭をごしごしと当てる。
何で泣いてるの?誰が侑士を泣かせたの?
拾われてから、侑士が泣いているところなんて見たことない。
イラつきも悲しみも、わたしを抱っこしてしばらくすると収めていたのに。今日だけは違う。

侑士の行き場のない感情をどうにかしてあげられないことに、わたしはイライラとしてしまう。
侑士が泣いてるのに、わたしは何もしてあげられないの?
頼ってもらえないことが切なくて、鼻を鳴らしてしまう。
たっぷり1時間は過ぎたころに、ようやく侑士はわたしを抱っこして顔を埋めた。

はぁ、ととても大きなため息をつく。
だけどため息ばかりで理由は話してくれない。

侑士が話したくなったら、話してね。
しょうがないから侑士の顔に残る涙をぺろっと舐めとった。

次の侑士のお休みの日。
今日は岳人と飲むと言って夕方頃から出かけて行った。
久しぶりに楽しそうにする侑士を見て少し安心する。
またお酒の臭いをぷんぷんさせて帰ってくると思うと、少しうぇっと思ってしまうけど、侑士が楽しいのが1番だ。

もう慣れっこのお留守番。
布団で丸まって眠り、目覚めては時計を見て時間を確認する。
3回ほど繰り返して、日付の変わる頃に侑士は帰ってきた。
おかえりなさい!
顔を見て言うと、侑士はわたしの身体を抱えて高い高いをしたかと思うと、そのままベッドにダイブした。
休みの日は疲れていてもさっさとお風呂に入るのに。珍しい。

予想通りお酒の臭いをさせる侑士の頬っぺたをぺろっと舐める。
ほら、なんかあるんだったら話しなよ。聞いたげるから。
しっぽでぺしぺしと侑士の身体を軽く叩く。

前に泣いていたのは例外で、何かあったらわたしを抱きかかえてぽつぽつと話すのは、侑士に拾われてからお決まりのことなのだ。

「岳人はすごいわぁ」

思ってたよりも侑士の声が明るくて安心する。

「俺な、自分のミスで2時間怒鳴られるのも、入院してはるおじいちゃんに1日ねちねち文句をぼろくそ言われるのも、別に大丈夫やねん」
「俺より知識のあるベテラン看護師さんに、この患者さんにこうしようと思うんですけどええですか?ってわかりきってることわざわざ最終確認されるんも、情けないけど大丈夫やねん。俺が勉強したらええだけのことやし」
「先輩先生の言う通りにして、ミスを押し付けられて、理不尽に怒られるんも、大したことないしいつもみたいに流せばよかったんやけど」

侑士が1度口閉じたので、顔を覗く。

「よかったんやけど、俺も余裕なかったんやろな。慣れない1日中動きっぱなしの研修。体力も精神力も自信あったから、凹んだわ。心も閉ざせないほど弱ってるなんてな」

少し笑ってわたしの背中を撫でる。

「こんなかっこ悪いこと誰にも言うつもりなかってんけど、岳人があんまり心配するから、つい話してもたわ。なんて言ったと思う?」

くすくす笑いが大きくなって、わたしの目を見て侑士は続ける。

「くそ上司なんて脳内で破滅への輪舞曲でもお見舞いしてやれ、やって。あれめっちゃ痛いんよ。しかも岳人はもう何十人も食らわしてるんやって」

侑士はストレートでお医者さんになったけど、岳人たちほかの友達は侑士がまだ医学部にいる頃から働いてるから、同級生だけど社会人としての先輩なんだって。

元気のなかった侑士が久しぶりに笑ってる。友達ってすごい。
元気を取り戻した侑士への嬉しさがほとんどと、わたしは何もできなかったのに侑士を元気にすることができた岳人への嫉妬がちょっと。

心の中でぐるぐるしているのを感じていると、侑士がちゅっと唇を瞼に落としてきた。

「なんでも話せる友達って大事にせなあかんな。もちろんいつも一緒に過ごしてくれるたまこも」

じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。

「たまこがいてくれて良かったわ」

岳人への少しの嫉妬の気持ちはどっかに行った。
わたしは侑士が元気に過ごしてくれるのが1番だもの。


20200519