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- ナノ -
(序章3/3)

結局今日は部室で、レギュラーはゆずゆとお昼を食べることにした。

お弁当持ってきただけだから、と遠慮するゆずゆに、久しぶりだしせっかくだからと皆が説き伏せたのだ。
跡部や宍戸はよく会っているらしいが、他のみんなはそうでもない。忍足も自分だけ知らない存在のゆずゆと話してみたい気持ちは大きく、一緒に昼食を取ることに快諾した。

ジローの分しか弁当を持ってきていないゆずゆの分を含め、昼食を調達するために、宍戸と鳳と樺地が購買部に向かうことになった。

器用で誰とでもすぐに打ち解けられる忍足と、元来マイペースであのジローの実の妹のゆずゆ。
待っている間に会話は弾み、忍足の自分だけ知らない存在、という些細なわだかまりはあっという間に消え失せた。

「あたしも購買部行ってみたかったなぁ」
「流石に他校の制服で購買はあかんなぁ」
「弁当ないからって購買行ってたけどよ、ゆずゆが来るなら持ってきてたのにって長太郎が悔しがってたぞ」
「岳人もさっきセーフ!って安心してたよね」

自慢げに話す岳人に滝が突っ込む。

「けど珍しいね?長太郎が購買行くって。日吉なんか知ってる?」
「今日のメニューがししゃも弁当だったんですよ、滝さん」
「なるほど」

ししゃもは鳳の好物だ。一同納得する。

「ちょたくん、昔から好きな食べ物変わってないんだねぇ。なんか懐かしい」

くすっと笑うゆずゆに忍足は聞く。


「ゆずゆちゃんは好きな食べ物なんなん?」
「うーん、カプリコかな」
「おお!ジローはポッキー好きやろ?芥川家はグリコ派か?ひっかけ橋行ったら写真撮ってくるわ!」

意気込む忍足にひっかけ橋って何?と岳人が聞く。

「大阪の、ミナミの有名なポーズの橋のこと」

と滝が冷静に補足し、岳人はテンションが上がる。

「おお!荒ぶる!俺も行きてー!もっと跳んで俺も一緒に写真撮りてーっ!」

あの有名なポーズを取りながらその場で跳び始めた岳人を、忍足は苦笑しつつ収めたのだった。

その後もどうでもいい会話をしている所に、買い出し組の3人が戻った。

「春休みで人少なくて。思ってたより早く戻れて良かったです!」
「ウス!」

本来、氷帝購買部、また、食堂も激混みである。マンモス校である故仕方ないが、混雑具合が凄まじいので、他生徒から声をかけられることを嫌う日吉や滝は普段あまり使用しない。

長期休みは部活に参加する生徒しか来ないので、利用者も少ない。そのため、普段よりも倍近く早く買うことができたのだ。ただいつもなら数種類あるメニュー数が削られているため。

「1種類しかなかったッス!はい、ゆずゆさんも、跡部部長も、ししゃも弁当です!」

鳳から差し出された弁当に、ゆずゆがわーいししゃも弁当!と喜ぶ。

昼食を用意していない場合は、跡部は樺地と共に食堂の個室を利用することが多い。
だが今日はゆずゆがいるということで、樺地に買いに行かせていた。庶民的な弁当と跡部の組み合わせに、一同は一抹のギャップを感じる。が、

「ドコサヘキサエン酸が取れていいじゃねーの、あーん?」

本人はご満悦そうである。

全員が揃ったところでお昼にし、弁当を食べ進めるゆずゆにふと忍足は尋ねる。

「あれ?さっきゆずゆちゃんさ、次3年なるって言ってなかった?衝撃的すぎて忘れとったけど。てことはジローとは双子なん?」

ことっと首を傾ける忍足に「かわいくないねー」と滝の突っ込みが入る。

ゆずゆへの質問にジローが答える。

「双子じゃないC。ゆずゆは妹!」
「ん?ほなどういうこと?」

ジローの簡潔すぎて説明になっていない答えに一瞬ため息をついてから、跡部が補足する。

「ゆずゆは正真正銘、次3年生だ。だが双子ではなく、妹だ。ジローは5月生まれ。ゆずゆは早生まれの3月生まれ。だから同い年の兄妹なんだよ」
「本当は年子の予定だったんだけどね、あたし未熟児で早産で生まれてきたから、だからジロちゃんと同学年になったの。珍しいよね」

妊娠期間は10ヶ月弱。とても珍しいが、ありえない話ではない。

母体への負担はかなりかかるが、授かりものだからと、妊娠を知った母はゆずゆを産むと即答したという。

「うわー、それは珍しいわ。てことはゆずゆちゃん誕生日過ぎたとことか?おめでとうさん」
「えへへ、忍足くんありがとう」

珍しい境遇に、根掘り葉掘り追及を受けたことも珍しくない。
さらりと自然に受け入れた忍足に、ジローもゆずゆもこっそり口元を上げる。

滝や日吉が誕生日の祝福を告げていると。

「俺はおめでとうメールしました!」
「思い出させたのは俺だけどな」
「なっ!宍戸さんひどい!」

胸を張っていた鳳に宍戸はにやりとばらす。

「ちなみにゆずゆちゃんの誕生日は3月のいつなん?」
「3月3日だ」

忍足の問いに跡部が答える。

えーー、2人揃って節句の生まれかいな。ほんま珍しいなぁ。再度忍足の驚愕の声が聞こえる。

それを皮切りに、やいやいとにわかに部室内は賑やかになる。

その様を見てゆずゆはふわりと微笑み小さく言う。

「テニス部、楽しいね」
「にししっ、だろ?」

今まで妹とは共有し得なかった空間。
青春を捧げる仲間との心地良い時間を共に過ごせたことに、大きな目を細めてジローも笑ったのだった。


ワイヤーズ・シブリング




〇設定

芥川慈郎
芥川家次男。5月5日生まれ。睡眠魔でマイペース。天然パーマの金髪
呼び難い上長いので苗字で呼ばれることは少なく、ジローと呼ばれる。
氷帝幼等部、幼稚舎出身。

芥川ゆずゆ(無変換時:ゆずゆ)
芥川家長女。3月3日生まれ。兄に似てマイペース。癖のないストレートの金髪。
趣味・特技はピアノ。
氷帝幼等部出身。

跡部景吾
ジローとゆずゆの幼馴染。宍戸も加えて4人で仲が良い。世話焼き。
氷帝幼等部、幼稚舎出身。幼稚舎6学年のときに樺地と共にイギリスに留学。

宍戸亮
ジローとゆずゆの幼馴染。跡部も加えて4人で仲が良い。世話焼き。
氷帝幼等部、幼稚舎出身。髪の手入れがお風呂上りのルーティーン。

向日岳人
芥川クリーニングの隣に実家、向日電気店があり、ジローとゆずゆのお隣さん。
氷帝幼稚舎出身。

忍足侑士
ジローとは中等部1年のときに同クラスだった。
昔なじみだらけの氷帝テニス部の中でも、持ち前の器用さですぐに馴染む。

滝萩之介
氷帝幼等部、幼稚舎出身。実家は鎌倉時代から続く名家。滝家の長男。

鳳長太郎・日吉若・樺地崇弘
氷帝幼等部、幼稚舎出身。ゆずゆとは顔見知り。


20200423