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(風邪ひき)

程よいスプリングにさらっとした肌触りの良いシーツ。ふかふかの布団は思わず顔を埋めたくなる。頓着するものがあまりないジローが、数少なく口うるさく注文を出すのが寝具である。
自分の分だけでなく、家族の寝具にすらジローは寝心地を求め、己が納得するまで選択に妥協をしない。
そんな素晴らしいベッドで、ゆずゆは布団に埋もれながら、苦し気に浅い呼吸を繰り返していた。
心配気な表情を浮かべながらベッドの側で侍るジローは、ゆずゆのおでこの上の濡れタオルを取り換える。
厳しいテニスの練習をこなすジローは風邪というものには久しく縁がないが、人並みの身体の強さのゆずゆはそうではない。このところの雨で身体が冷え、体調を崩したのだろう。
心細くないようにとゆずゆの手を握っていると、ゆずゆが無意識にぎゅっと力を込めてくる。
ジローは昔もよくこんなことがあったな、と幼い日のことを思い出す。

昔は今と違ってジローも身体が強いわけではなかった。身体が弱いというまではいかないが、季節の変わり目だとか、インフルエンザの流行期だとか、園でもらってきたウイルスにやられ、人並みに体調を崩すことがあった。
幼稚舎に上がるまでは、ジローとゆずゆは同じベッドで寝ていたが、どちらかが熱を出すと必然的に引き離された。
自分が熱を出したときは、病で気が弱っているからか、寂しさに潰されそうになった。

昔からジローは安眠にこだわりを持っていて、小さい頃は就寝のときにゆずゆを抱き枕のように抱え込んで眠りについていた。
だからこそ離れて眠ると、不安で不安で仕方が無くて。
ひどい咳が出るより、鼻水が意図せずズルズルと垂れるより、高熱が出るよりも、ゆずゆと離れることを嫌がった。

そうなると同じベッドで寝るどころか、部屋にすら立ち入り禁止命令が下るのだが、そんなジローを知ってか知らずか、ゆずゆは度々ジローの元まで忍びこんでいた。

「ジロちゃん、しんどいね。おみずいる?ままがおみずたくさんのんだほうがいいっていってたよ」

喉が痛くて水分すら積極的に受け付けたくないときも、ゆずゆの一声がかかると飲もうという気が起きてくる。
小さな手からコップを受け取ると、ジローはぐっと飲む。ついでに先ほど嫌がって飲めなかった薬も飲み干す。

「くすり!のめたね。ジロちゃんえらいねぇ。」

よしよし、と金のくせ毛をしばらく撫でた後、ゆずゆはジローの火照った手を握る。熱を出した自分とは違う体温の低い手が心地よかった。
ゆずゆがいる安心感か、はたまた薬が効いてきたからか。寝付けずに唸っていたジローは意識を手放していた。
ふと目が覚めたとき、息苦しさは消えたがゆずゆの姿もいなくなっていた。おそらく母にばれて追い出されてしまったのだろう。
それでも熱がひいた身体は楽になり、明後日には幼等部に行けるだろう。早くゆずゆを抱き枕にしたい、と思いつつジローはもう1度意識を手放し、夢の中に沈んでいった。

再度ジローが目を覚ましたときにはほぼ完璧にいつも通りの体調で。ゆずゆー!と叫びながら妹の部屋の戸を開ける。
するとそこにはベッドに寝込むゆずゆの姿があり、ジローの風邪を移してしまったのだと悟る。
母さんはそんな2人をがみがみと怒って、病み上がりのジローもベッドに放り込んだ。

10年以上も前の昔話を思い出しながら、ジローはゆずゆの金の髪を撫でる。汗ばんだこめかみに張り付いた前髪を払い、タオルで汗を拭く。
昔と違って母さんは部屋から追い出すことはしなくなり、変わりに看病を任せてくれるようになった。
ゆずゆの高い体温が伝わってくる手をジローがぎゅっと握り返すと、いくらかマシになるのか、苦し気な表情が和らぐ。

「早く元気になって、ゆずゆ」

妹の早い全快を願い、ジローはずっと手を握り続けた。



20200430