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(跡部邸で過ごす1/2)

いつもと変わらぬ休日の朝。ジローは当たり前のように未だ夢の中で、ゆずゆも目覚ましが鳴る前に起きてはいない。
朝から芥川クリーニングをオープンする父母はとうに起きだし活動しているが、長兄も含めて呑気な芥川兄妹はゆっくりとした1日の始まりを迎えるようだ。

リリリリと枕元で存在を主張する目覚ましを止めて、ようやくゆずゆは身を起こす。
朝は得意でもないが人並には準ずることができる。とくにジローと一緒の予定のときは尚更だ。ゆずゆが起きねば共倒れする。とろんとした目のまま、自室の向かいの兄の部屋へと進む。
同じ時刻にセットした目覚ましが、ジローの頭で止められることなく鳴り響いているが、身じろぎもせずに寝こけている。起きる様子はない。
ふぅ、と一息を吐いてからゆずゆは布団をひっぺ返す。

「ジロちゃーん!起きてーー!」

そのままゆさゆさと身体を揺さぶり続ける。普段の居眠りでも大概深い眠りについているが、朝の眠りはその比ではない。
だが14年も共にいると、苦労するジロー起こしも板についている。
どうにかこうにか目を覚まさせることに成功した。

「んあ〜、ゆずゆ?おはよ〜〜。もうちょい寝かせて、、」
「だめー!2度寝したらお昼まで寝ちゃうでしょ!」

油断すると布団を被り、ベッドに沈み込もうとするジローを慌てて止めて、なんとか洗面所まで引っ張ってくる。水道の蛇口をひねり、問答無用で頭から水をかける。そうしてようやくジローは人並に目覚めるのだった。

私服に着替え終えた2人はテーブルにつき、マーマレードの塗られたトースト、カットキウイ、牛乳の朝ごはんを食べる。食後にホットティーを飲んで少しゆっくりしていると、もう9時前。そろそろ用意をしなければいけない。
ジローはラケットを入れたテニスリュックを、ゆずゆは楽譜を入れたトートバッグを玄関前に準備する。そうこうしていると丁度良い時間で芥川家のチャイムが鳴らされた。
荷物を持って出た2人を出迎えてくれたのは、跡部家のリムジンとドライバー。ジローたちの姿を認めると恭しくドアを開いてくれた。

お世話になります、と2人が乗り込むと、安全運転で出発する。真っ白なグローブをつけたドライバーの運転は揺れがなく快適だった。

跡部邸まではそう遠くもないが、広大な敷地を持つために一般人の居住地からは少し離れている。
リムジンがしばらく走り、段々景色が整備され緑が多くなってきたとき、その片鱗が見え始めた。
青々とした木々と手入れされた花々に囲まれた邸は、さながらヨーロッパの王国貴族邸のようである。

リムジンはゲートを通過し、跡部家の正門を通り、エントランス前でようやく止まる。
お待ちのドアマンが車のドアを開け、ゆずゆの手を取り丁寧に降ろす。
ハウスメイドも並んでお出迎えをしてくれていて、昔から何度も来邸しているも世間離れした光景だ。

「相変わらずすっげー」

何度来ても豪奢な跡部邸に高揚していると、「ようこそいらっしゃいました」と顔見知りの執事が2人を応接間に案内してくれた。

フルーツベースのウェルカムティーを頂いているところに、ようやく跡部が現れる。

「ジロー、ゆずゆ、よく来たな」

執事が跡部に対し、お茶の準備を尋ねてきたがそれを断る。

「時間が勿体ねぇ、さっさとやろうぜ」

跡部とジローは邸内のテニスコートで打ち合い、ゆずゆは自慢のグランドピアノを弾く。昔から何度も繰り返されている休日の過ごし方だが、ここ最近芥川兄妹はめっきり訪れる頻度も減っていて。そのために3人とも楽しみにしていたのだ。

「じゃあまたあとでね」と言い残してゆずゆは執事に連れられピアノルームへと向かっていった。

「そんじゃあ俺たちもやるか」

邸近くのテニスコートへ歩いて行き、軽くアップを行う。そこにはもう眠そうなジローはおらず、煌々と楽しさを宿した目を跡部へと向けていた。

「跡部とやるの、ひっさしぶりー、まじわくわくだC!」

普段こそ跡部の持つジムでトレーニングを積んだり、トレーナーに効率的な内容を教わるような練習が多いが、純粋な打ち合いが跡部は好きだ。

己の磨き上げた技を、ただただ相手に叩き付ける。それも敵ではなく手の内を知る仲間であるからこそ、素直に曝け出すことが出来る。
氷帝テニス部の部長として、ジローの力量の底上げを狙いたい思惑もないわけではないが、中学生として屈指の実力を持つジローとの打ち合いは、年相応の楽しさを感じることができる。

ジローの得意なボレーに跡部は何度かしてやられつつ、だが厳かなプレーで跡部はジローを圧倒し、お昼時まで2人は時間を忘れてテニスを楽しんだ。


20200517