×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
(GW最終日、向日家で過ごす話)

机の上に積み上げられた教科書の山。
床ではジローが寝転がって現実逃避を図り、ゆずゆはノートに顔を埋めている。

「こらっ!岳人!」

こっそり本棚に手を伸ばして漫画を取ろうとしていた岳人に、宍戸から叱咤が飛ぶ。
今日はGW最終日。宿題終わってない組の4人が集まって、協力して消化をしようという訳である。
跡部、忍足、滝の3人は早々に宿題は終えているようだ。ジローたちと同じ練習量をこなせど、要領も地頭も良い彼らは部活の片手間に宿題を終わらせるくらいわけないことだ。
岳人は相方の忍足に「宿題一緒にやらね?」と、お誘いというよりはお願いを試みたが、声をかけた時点で忍足は終えていた上に、岳人の魂胆は見抜いていたようで「自分でやらな意味ないしなぁ。まぁ頑張り。」と至極真っ当な答えを返し、一蹴されていた。
ただ隣でそれを聞いていたジローは、忍足が休みの日にわざわざ宿題を教えるということを面倒くさがり、体良く断っただけということを知っていた。
宍戸の目が岳人に向いている隙を狙い、ジローはこっそりと漫画を取る。寝転がった自分の身体が影になるように、器用に漫画を読みだす。が、それもつかの間。

「ジロちゃん、ずるい」

ぎくっと身体を震わしジローが振り返ると、じと目で睨むゆずゆと目が合った。さすが兄妹、何をやろうとしているかお見通しである。

「それおもしれーよな!次の試合どうなると思う!?けどジローだけ読むのはずるくね!?」

ジローが手にしていたスポーツ漫画を宍戸が取り上げ、漫画のタイトルを見た岳人が喚く。
誰かが集中力が切れかけるたびに、声を掛け合いペンを進めていたが、4人ともそろそろ限界だ。まだ3分の1はたっぷりと残った宿題を端にやり、小休憩を取ることにした。
岳人がキッチンから茶盆の上に乗せてきたのは、冷たい麦茶とお茶請けのカステラ。糖分を補給し、残りを片付けたい所存だ。

「さっき言ってたやつだけどさ、主人公の学校が勝つ!」

俺本誌派だから知ってんの。とカステラを頬張りながらジローが言う。

「くそくそっ!さらっとネタバレすんなよ!まぁまだ負けねーとは思ってたけどよー」

あまり怒っていない声音で岳人は悪態を吐く。
漫画で盛り上がる2人を横目に、ゆずゆは食べ終えて空になった皿を茶盆の上に重ねる。お茶のグラスを避けてそのまま立ち上がる。

「下持ってくね」

サンキューという声を背にゆずゆは階段を降りる。
ジローほどではないが昔から向日家に出入りしているゆずゆは迷いなくキッチンに進む。
スポンジを拝借してお皿を洗い終わったあと、水切り籠に立てかける。

「置いててくれてもよかったのに」

キッチンを覗きこみながら放つ声の方を向く。
そこには岳人と同じく綺麗な蘇芳の色をした髪を持っていて、背丈も小柄な。

「菖蒲ちゃん!」

姉の菖蒲をゆずゆは良く知っている。
ショルダーバッグを肩から掛けているから、出掛ける前にゆずゆの姿が見えたので、声をかけにきてくれたのだろう。
ほど近い身長で目線の高さは変わらないままゆずゆはお邪魔してますと挨拶をする。

「気にしないで。宿題どう?終わりそう?」
「あとは数学と、国語がちょっとだけ」
「そっかそっかー。あたしが帰ってきてもまだやってたら教えてあげる。それじゃあ、そろそろ出るね!」

ゆっくりしてって、とひらひら手を振りながら菖蒲は出て行った。
ゆずゆはありがたい言葉に感謝するも、菖蒲ちゃんが帰るまでに終わってないとか最悪すぎるっ!と少し焦りを募らせた。

岳人の部屋に戻ると、すでに3人は宿題を再開していた。国語の残りは古文漢文。得意としている者が誰もいないため進捗が遅かったが、終わりの兆しが見えていた。
あと少し頑張りますか。ゆずゆも集中し直して、教科書を開いた。

技術の得意なジローと、化学が得意な岳人にかかれば数学もそこまで苦にはならず、思っていたよりも早く宿題は終わった。
すぐに解散!とはならず、夕飯時になるまで中学生4人は家庭用ゲームで遊ぶ。
テニスで培われた動体視力や反射反応はゲームにも活かされ、男3人は強い部類に入るだろう。
ゆずゆにハンデをつけることで圧倒的なレベル差も気にならなくなる。
宍戸家も、芥川家もそうだが、向日家にもコントローラーは4つあるので誰かが順番待ちになることはない。
ソフトを変えながらも飽きることなくしばらくの間ゲームを行い、そろそろ日も暮れようか、という頃にも、負けた誰かが最後にもう1回!と強請るので終わるに終われなかった。
向日家の家族が帰ってきた頃にようやく3人はお暇することにした。
玄関先で靴を履く3人を岳人は見送る。

「もうお休み終わっちゃうね」
「結局宿題とゲームだけで終わっちまったな」
「明日からまたテニスばっかりだからさ、いいんじゃね?」
「確かに。じゃーまた明日な」

宍戸はそのまま商店街を進み、ジローとゆずゆは隣の家のドアを開ける。
玄関に入ったその途端、鼻に届いた空腹がくすぐられる夕飯の匂い。
明日から始まる学校への小さな憂いは、少しの間潜められた。


20200507