05


足を引きずるようにして動かし、なんとかてる美ちゃんのいる部屋へ辿り着く。

驚いた顔をされたけどエルフさんからおおよそ話は聞いていたらしく、すぐに部屋に入れてくれてさらに服まで貸してくれた。

「ありがとう、てる美ちゃん」

簡単に礼を言うと、照れたのか彼女はそっぽを向いてしまった。頬が赤く染まっている。

「このくらい当然です。それより、或音がここに来たってことは、まさか」
「残念ながら、そのまさかだと思う。ごめんね、みんなを巻き込んじゃって」

きっぱり言い切ると、頑なだった顔が悲しそうに歪む。それもそうだ、てる美ちゃんはキョウヤさんのことを尊敬していた。側から見たら誰でもわかるくらいには。

でもこの状態でいつまでも隠しておけるわけがない。いつか分かることだった、と言ってしまえば冷たいように聞こえるかもしれないけど、まさしくそうだったのだろう。

彼は私を痛めつけるとき、部屋のドアの鍵を閉めたことはなかった。おそらく誰も部屋に入ってこないと安心しきっていたのだろうけど、真意は彼以外には分からない。
もしかしたら彼も誰かに気づいて欲しかったと考えるのは私が甘いからだろうか。

「私もキョウヤさんのことは好きだよ。だからこそ、今の彼はどこかおかしいってずっと思ってたのに」

だのに、何もできなかった。てる美ちゃんのすがるような目を見てしまうと、どうして私一人で彼を戻すことができなかったのかと思わされる。同じくらいの年頃の同性として、てる美ちゃんの気持ちは痛いほど伝わってくる。

「キョウヤ様は私にとって恩人です。だから私は、あのお方がそんなことを或音にしていただなんて信じられません。でも」

逆接のやりとりが続く。急に突きつけられるには非現実的で、思考はそれを否定する。慕っていた存在がそんなことをしていたと知らされたのならなおさらだろう。それも、されていた人は目の前にいる。
普通なら気が狂いそうになるのでは、と、てる美ちゃんのことが心配になる。

「ごめんね、こんなこと考えさせちゃって」
「そんな、或音が謝ることないだわさ!ただ私は、どうしたらいいかわからないだけで」

つい口調が敬体から変わってしまうということは、やっぱり彼女はかなり動揺しているのだろう。てる美ちゃんがディザスターフォースを発動しているとき以外にこの口調が出ることはかなり珍しい。

自分を落ち着かせるように彼女の手を握っていると、突然ドアが乱暴に開いた。

「ここにいたんだね、或音。さあ、部屋に帰ろうか」

優しい声色はキョウヤさんのそれと同じはずなのに、ひどく不気味で仕方ない。彼は狂気的な目をこちらに向け、私の隣にいるてる美ちゃんを睨んだ。その目つきに怯えたのか隣の彼女の手が強張った。
大丈夫だよ、とでも伝えるかのように、その手を強く握り返してから彼に向き直す。

「わかりました」
「或音!」

悲鳴のような声で私の名前を呼び一歩前に出ようとするてる美ちゃんを握っていない方の手で制す。彼はそれを見て気味の悪い笑顔を浮かべていた。

心の中で感謝と謝罪を繰り返しつつ繋いでいる手を解く。

「いい子だ。ほら、行こうか」
代わりに掴まれた彼の手はいやに冷たかった。

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