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1ヶ月後、私はとある駅で電車が来るのを待っていた。

あれから結局、私はエルフさんへ手紙を出した。書いたことは、「キョウヤさんに会いたい」という思いだった。

返事はすぐに届いた。何度かやりとりを重ねて、こうして今日超東驚の臥炎財閥本社の近くで会う事になった。念のためにと送られた緊急通報用のボタンは、家に置いてきた。キョウヤさんを、みんなを信じたかったから。

ロキは今日はカードになっている。「キョウヤになんか会いたくねーけど、本当に或音がヤバイときは出てくる」と言っていた。

電車に乗り込み、目的の場所へと向かう。不思議と、怖くはなかった。きっと私も強くなれたのだろう。髪が長かったときはそれで手慰みに弄んだりしたけれど、今はそれもできない。歩く度に首へ感じる風は、私の心の中のモヤモヤを吹き飛ばしてくれるかのようだった。

待ち合わせ場所へ歩いて行けば、彼はもう先に着いていた。少し髪と背が伸びたこと以外、何も変わらない。

「キョウヤさん」

恐ることもなく、彼の背中に話しかけた。キョウヤさんはゆっくりと振り向き、私をじっと見た。その濃いオレンジ色には、溢れそうなほどに涙が滲んでいた。

「本当に、或音なのかい……?」

まるで野良猫にでも触れる時のようにのろのろと手を伸ばされる。目だけでなく、手で。そして耳で、鼻で、温度で私を確かめる。ふわりと香る、キョウヤさんのにおい。目の前の人には、かつての彼は存在していなかった。

「キョウヤさん、私、ずっとあなたに会いたかった」
「ぼくもだよ、或音。すまなかった、寂しい思いをさせてしまって」

幼い子供のように微笑む彼を見て、まだ彼は子供なのだと思い出した。だからきっと、変わることができたのだ。良いようにも悪いようにも変わる可能性を持っていた。キョウヤさんはずっと、子供には可能性があると言っていた。今やっと、それを実感した。

抱きしめられる感触はとても優しくて、もう拳に怯えることもない。普通の恋人のようになることができたのだ。初めて、彼にキスをされた日のことを思い出した。あの日のように、まるで初めての恋愛のように慎重に。

今日がきっと、彼と私の新しい毎日の始まり。苦しいことも楽しいことも、全てこの人と分け合っていこう。時にはすれ違ってもいい。対等に、誰からも誰も縛られることも縛ることもなく。それが、本当の恋人なのだから。

「教えて。本当の、あなたを。」


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