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「残念だけど、会わせるわけにはいかないわ」

答えは分かりきっていた。ここで会えば、何をされるか。そのことだけで、ここからさえ出られなくなっているというのだから。

「或音ちゃんは、共依存って知ってるかしら」
「……知りません」

聞きなれない単語に頭の中から定義を探しても、見つからない。依存、という言葉自体は知っていた。何かに対して頼り、最終的にはそれがなくては生きていけないくらいになることだ。

それにしても、共と付くとどんな意味になるのか。共の文字には、いっしょ、ともにすると言う意味があった。共に依存する。分かりそうで分からない言葉だ。

「他者に必要とされることで自分の存在意義を見出すことよ。今の或音ちゃんは、これに相当するわ」

必要とされることが必要。言葉遊びのような内容と、自分がそれにあてはまると言われたことが絡まって、何を聞いているのか分からなくなった。

早口に伝えられる症状に、私は心当たりがあった。ただ与えられるものだけを消費し、言う事を聞き、意味なく毎日を過ごしていた私を変えたのは、キョウヤさん。
両親からの愛は抱えきれないくらいもらってきたけれど、何も取り柄のない自分に罪悪感を感じずにはいられなかった。それでも彼は、私を選んでくれた。私を必要としてくれた。

私にはキョウヤさんが必要で、きっと彼にも私が必要。無意識のうちに根付いていたそんな考え方に似ているような気がした。

「或音ちゃん、キョウヤくんに対して思っていることを、教えてくれるかしら。もちろん、あなたが辛くないところまででいいわ」
「分かりました」

キョウヤさんへの思い。どす黒く、人に見せられるものではなかったけれど、見せなくてはいけないと思った。

「私は……キョウヤさんのことを尊敬もしているし好きだと感じています」

「それは、どうして?」
「キョウヤさんは、たくさんいる中から私を選んでくれた。今まで選ばれるような存在じゃなかった私を、見つけてくれた。
それに彼は、総帥として年齢を感じさせないほどに働いています。財閥に対しての嫌な感情も、全部自分ひとりで受け止めてきた。そんな彼を、できることなら支えたかったんです」

キョウヤさんが仕事の事で愚痴を零したり、その感情を何らかの形で外に出すことはほとんどなかった。毎日疲れた顔で帰ってくるキョウヤさんを見ていていたたまれなくなっているうちに、それは始まった。

「最初は、何が起こったか分かりませんでした。ただ突然、頬に拳が飛んできて、それからはどんどん酷くなった。でも、私はそれを否定できなかった。
今まで感情を押し殺してきた彼が、初めてその思いを出してくれた。そのことに対する嬉しさが優って、これ以上彼が自分の感情を押さえ込んでしまうのが怖かったから。暴力を振るわれる以上に、彼が壊れてしまうのを恐れたんです。

今も、彼が悪いとは思っていません。彼はこうなって当然だった、あれだけの重荷を背負ってどこにも吐き出さずになっていられないはずです。
ましてやキョウヤさんはまだ子供です。たとえ総帥であっても、それは変わりません」

子供だから許される、そう言っているわけではない。でも彼はいろいろなことを背負うにはまだ幼すぎた。だから、仕方のないことだった。

「……そう。ありがとう、いろいろと辛かったでしょう」

エルフさんは私にハンカチを貸してくれた。知らぬあいだに流れていた涙を、優しく拭う。

キョウヤさんが好き、でも今のままではいけない。そう、自分のなかのなにかに言われているようだった。
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