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今日もまた、部屋の中で一段と明るく光る画面を見つめる。黒板の前で忙しなく動く先生の手を目で追い、書いてある内容を頭に書き込んでいく。

ずっと学校に行っていなかったので同じ年齢の子供より遅れていると心配されていたけれど、両親が行かせてくれていた学習塾で学年以上の勉強を教わっていたため、その心配も杞憂に終わった。

今は中学校3年生の授業を見ている。これも全て、エルフさんのおかげだった。

ここに来て数日、私は何もすることがなく途方に暮れていた。それもその筈で、前にあの場所から抜け出したときは外へ出ることも許されていたし、窓から風景を見ることもできた。
しかし今回はそういうわけにも行かない。これだけ広い超東驚とはいえ、ここはキョウヤさんがお仕事をしている土地だ。その気にならなくても、下手に動けはすぐに見つかってしまう。そもそもここから出てしまえば、ここで暮らしている意味もなくなる。
そういう訳で、私ができることと言えばロキとファイトをすることぐらいだった。

そんな私を見たエルフさんはどこからか大きなモニターを持ってきて、この場所に設置した。このモニターは学園内にあるいくつかの監視カメラと繋がっていて、これを通して授業を受けることができる。普通ならできない行為だったけれど、エルフさんの力をもってすればたやすいことだった。

こうして私は久しぶりに授業を受けることができるようになった。

スピーカーから授業の終わりを告げるチャイムが聞こえて、飛びかけていた意識が一気に戻る。イスに座っていた生徒達が立ち上がり、挨拶のあとに散り散りになっていった。

お昼ご飯の時間らしく、仲良しどうしで集まりお弁当を広げているのが見えた。どうしても、見ると何かを食べたくなる。そろそろ私もお昼ご飯にしよう、と思ったところで、部屋の上からはしごが降りてきた。

「あら、授業受けてたのね。どう、分からないところとかないかしら?」
「はい。エルフさんのおかげで、なんとか」

エルフさんは相棒学園で教師をしているらしい。授業を聞いていただけでは理解できなかったところを聞き、ちゃんと定着させるのが最近の日課だった。

「そう。それならよかったわ」

手に持っていた袋からパックを取り出し、食べなさい、と促される。日替わり弁当だ。何が入っているか分からないこのお弁当は、毎日の楽しみの一つになっていた。
割り箸を割って、さっそく食べ始める。

「そういえばね、或音ちゃん」

小ぶりのオムライスを切り分けたところで、声をかけられた。どことなく深刻そうなその声色に体が強ばり、手を止めてしまう。

「キョウヤくんのことなんだけど。キョウヤくんに、また会いたい?」

予想もしていなかった名前にドキリとする。あの赤に近いオレンジで見つめられたような気がして、途端に胸が苦しくなった。
彼は今、何をしているのだろうか。また、誰かの怒りや妬みや悲しみを、決して大きいとは言えない体で受け止めているのかもしれない。一人で淡々と仕事をこなすキョウヤさんの後ろ姿が見えたような気さえして、申し訳ない気分になった。

「……会いたい、です」

それが、私自身を傷つけることになっても。

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