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いくつかのカードショップを通り過ぎたあと、それまでとは雰囲気の異なる場所に出た。さっきよりも年齢層の高い、私と同じか年上の人を対象にした服屋さんが軒を連ねている。
そのなかでも一段ときらびやかな、それでいて派手すぎないお店にロウガさんは入っていく。それを焦って追いかけ入店すると、上品で清潔感あふれる店員さんに出迎えていただいた。

「荒神様ですね。花薔薇様からお話は伺っております」

こうしてお店に行くのは久しぶりだったので、異様に緊張してしまう。店員さんたちに会釈で返し、ロウガさんの背中を追いかけた。すると、お店の中でも特に若い人向けのデザインの服が並んだ場所で止まる。

「好きなのを選べ」

そうそっけなく言い放ち、こちらを向くこともせずそばにあった椅子へ座った。
陳列された衣服に視線を移し、手にとってそれを確認する。落ち着いた色合いの組み合わせが主で、私の好みと一致していた。

その中から選別して白のシャツと赤のスカートを手にロウガさんの元へ行けば、ふっと鼻で笑われた。無意識のうちに、口調が強くなる。

「何かおかしいでしょうか」
「今の格好とそう変わっていない」

言われて見れば、今私が来ている洋服もパフスリーブシャツに赤のプリーツスカートだ。自然とこういうものを選んでしまうらしい。

手で来いという仕草をされて近寄れば、小さな声で耳打ちされた。

「なるべく普段着ないような服を選べ。そうすれば、見つかりにくくなる」

誰に、というのは言わなくても分かっていた。確かにそれも一理ある。こうしてこの場所にいることができるのは、あの場所から抜け出してきたからなのだから。

それと、と付け足される。
着替え用に多めに買っておけ。冷たく、しかし優しさを感じる物言いに、はいと細い返事を返してからもう一度販売棚へ向かった。

普段着ないような、珍しい、と口で唱えながら探しても、いまいちよく分からなかったので店員さんに手伝ってもらう。
結局、小花柄をあしらったワンピースやシンプルな長袖シャツ、ロールアップのデニムなど比較的動きやすい服を購入することになった。これで1週間着回せるというところだろうか。
追加で踵の低い靴もいくつか勧められ、黒色のスニーカーを買うものの中に入れた。

「決まったか」
「お待たせしてすみません、あの、これで大丈夫ですか」

店員さんに持っていただいているものを一瞥する。活動的な方向け、と説明された衣類は、どれも私には着慣れないものばかりだった。

「これならいいだろう。会計をしておく」

椅子から立ち上がりレジへ向かう姿を見て、ひとつ大切なことを思い出す。
いわゆる高級店であれだけたくさんの物を買うということは、すなわちそれなりの代金が必要になる。例えばこれがキョウヤさんと一緒に買い物に来ているのならばその点では心配はいらないが、現実として前を歩いているのはロウガさんだ。失礼に聞こえてしまうかもしれないけれど、それだけのお金を払えるとは思えなかった。

引き留めようとしても聞こえていないのか何も反応せず、ついにロウガさんはお会計の場所に到着してしまった。割れ物でも扱うかのような手つきで買ったものの値段がディスプレイに表示されていく。合計金額を記している場所は、もうとっくに6桁を越していた。
何も取り出す気配もないロウガさんに焦り、 恐る恐る肩に触れようとする。そのとき、ロウガさんの右手が動いた。数秒遅れて機械的な音が鳴り、店員さんの声が聞こえた。元に戻る手を見れば、銀色に輝く四角い何かがそこにはあった。じっと目を凝らせば、それがクレジットカードとすぐにわかる。
どうしてロウガさんがそんなものを、と考えても、結論は出なかった。

疑問を解決しようとしているうちに会計が終わり、白と金を散りばめた紙袋へ購入品を入れそれを手に店員さんがレジから出てくる。ゆったりとした歩調に合わせながら出入り口まで向かい、その紙袋たちを受け取った。

ありがとうございました、とマニュアル通りのはずなのにどこか暖かい挨拶をされて少し照れながら、ふたたび前を歩くロウガさんを追った。

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