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現実を受け止めようと頬を叩いても、まるで夢の中にいるかのような感覚から全くと言っていいほど抜けだせなかった。まだこの街のどこかに私の家が、両親がいる気がして、見慣れた街並みをなぞり続ける。

「私、一度下に降りて探してきます」

何を探すのか。もう、望んでいるものはここにはないというのに、どうしても諦めきれなかった。

ロウガさんは無理に止めようとはしなかった。ここにいればキョウヤさんにすぐに見つかってしまうということは分かっていたのに。そして見つかったあげく、どうなるのかも。身を以て体験した痛みが蘇ったような気がした。

それでも私は、何かに取り憑かれたかのように街を走り回った。私の帰る場所を探して、あるはずもないものを探した。
行きつけのお店も、知り合いの家も全て回ったけれど、両親の姿を見つけることはできずただ道をとぼとぼと歩くだけとなってしまった。すると、顔見知りの人が道を歩いているのを見つけた。

「お久しぶりです、おば様。お散歩ですか?」

前までのように話しかければ、目の前の貴婦人は一瞬だけ怪訝な顔をしたのちに上品に微笑んだ。

「ああ、或音ちゃんね。あの臥炎家に嫁いだ……今日はどうなさったの?」
「休暇をいただいたので、一度こちらに戻ってみようと思いまして。父や母にしっかりと挨拶もせずあちらへ行ってしまったものですから、気まずくて帰ってこれなかったんです」

「そうだったのね。でも、或音ちゃんのお家は」

「どうかされましたか?」

おば様は何かを言おうとしたところで口を詰まらせ、言葉を選ぼうとしていた。この様子から察するに、やはりロウガさんが言っていたことは本当らしい。嘘をつくような方だとは思っていなかったけれど、信じたくないという思いがそれを超えていた。

再び、絶望に襲われる。どうしてこんなことになってしまったのだろう。少なくとも、父がキョウヤさんの言葉に同意していればこんな風にはならなかったかもしれないのに。こんなことになるくらいだったらお金のやり取りが発生していた方がよかった。キョウヤさんのもとで暮らすというところは変わらないのだから。

「いえ、何も。それでは私はこれで失礼するわ、お元気でね」

そそくさと去っていく後ろ姿を見送りながら、おば様とは別の方向に歩き始める。さっきのおば様の様子が頭を埋め尽くして、まるで街全体が私を拒否しているような感覚に陥った。もう、ここには私の帰る場所はない。


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