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空を飛んでいるうちに、下は森が開けて町にさしかかっていた。少し前、短い間だけど身を寄せていたところだ。

歩いてくるととても長くかかったように思えたのに、こうして来るとすぐ近くに感じる。町のはずれにスラム街のような家々が見えた。

「何をしている」

私が速度を落としていたことに気づいたのか、ロウガさんが振り向いて言った。そこでやっと我に返って、すみませんと返してから急いで追いつく。

どこへ向かっているのか、何が目的なのか、まったくわからないままだった。ただ、どんどんあの場所から離れていること以外には。

スピードを速めて飛べば慣れない感覚に酔ってしまうし、かといって遅くすれば置いて行かれてしまうかもしれない。
ついさっきの様子を見る限りではそんなことは起こらなそうに思えたけれど、もしロウガさんとはぐれたらどうしようもない。今はまだここがどこなのか分かるにせよ、帰り方は知らなかった。

できるかぎり速度を出して追うことでなんとか耐えていれば、今まで見られなかったような街が見えた。
しかし飛ぶ速度を緩めないことからして、ここが目的地というわけではないらしい。どれだけ飛び続けるのだろう。

町と街を飛び越え、2時間ほど経った頃だろうか。高層ビルが立ち込め、その隙間を大勢の人が歩いている。
見覚えのあるその景色に眉をひそめていれば、ロウガさんはいつの間にか止まっていた。それに合わせて、側まで行ったところで動くのをやめる。
真下を見下ろせば、品のいい家々が連なっていた。俗に高級住宅街と呼ばれる街だ。それも、私がかつて住んでいた街。風景はあまり変わっていないように見えたけれど、何かが大きく違った。
広々とした道、特に大きなあの邸宅、ゆったりと植えられた木々。どれも、いつも通っていた道だ。なのに何故だろう、どれだけ辿っても自分の家だけが見つからない。

ロウガさん、と聞こうとして話しかけたとき、その男らしい顔は悲しげな表情に歪んでいた。そのせいで言葉を続けるのをためらっていると、そんな私に気づいたのか目を僅かに見開いてこちらを見てきた。

「どうした」
「……私の実家が、見当たらなくて」
「当然だ」

ロウガさんの端的な話し方ではいまいち言葉の意図がわからず、思わず首を傾げた。こればかりは詳しく問い詰めないと分からないだろう。

「どうしてですか?」
「聞いていないのか。てっきり知らされているものだと」
「……どういう、ことですか?」

心臓が早鐘を打つ。何故だか悪寒がしてきて、震える指先を握りしめて抑えた。

「お前の家は、潰れた」

返ってきた答えは、予想通り悪い知らせだった。いや、予想以上に、と言ったほうが正しい。

以前にキョウヤさんに教えてもらったことを思い出す。あのときは確か、臥炎のグループに吸収されたと彼は話していた。

その後、ダビデさん伝いにそれが嘘だと知るのだけど、私があそこに行ってからのことは聞いていなかった。分からないと言われていたけれど、まさかこんなことになっているとは思わなかった。

もしかしたら、ダビデさんは全て知っていたのかもしれない。知っていた上であえて言わなかったのかもしれない、という予測が頭をよぎった。

現実を受け入れるのが難しく、何もない空の上でへたり込んだ。脚の力が抜けて、もう立っていられなかった。


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