20


追いかけても追いかけても、ロキは私の手をすり抜けていく。周りも見えずたった一枚のカードに走りつき、気づけば部屋からどんどんと離れていってしまった。

「っはぁ、待って……!」

体力も筋力もない体でこれだけ走るのはつらく、もはや何度も足を止めながら捕まえようと手を伸ばす。するとロキは飛ぶ速度を落としてくれた。
そのときを見計らって、残った力を振り絞り走る。油断していたらしく私が来たことへの反応が遅れ、あっさりと捕まえることができた。カードから実体化し、腕の中で暴れる。

「離せよ!」

駄々をこねる子供のように荒々しく声を上げて抵抗するのを抑え込むとすぐに大人しくなった。

「どうして外に出たの?説明して」

目を合わせ問い詰めると、ロキはばつが悪そうに目を逸らした。心なしか口角が下がり、表情も怒っているようにさえ見える。

それに呆れて周りを見渡せば、辺りには木々が鬱蒼と生い茂っている。普通に見ていたら息苦しくさえ思えそうなのに、なぜか清々しく感じた。

「これで正解だったんだよ。キョウヤだって、あそこにいると余計におかしかったし」

突如キョウヤさんの名前が出てどきりとした。もし、勝手に外に出たことが見つかったらどうなってしまうのだろうか。実はこれもこのあいだのように彼の罠で、あっさりと引っかかっているとしたら。そのあとどうなるかは、容易に想像できた。

「キョウヤさんのことを悪く言わないで。キョウヤさんは素敵な人だよ」
「表向きはな。世の中の復興に尽くす御曹司、ってところか。まったく、どこがいいんだよ」

ロキがキョウヤさんのことをあまり好んでいないのはなんとなく分かっていた。しかし、こうも恋人を否定されるのはさすがに気分のいいものではない。

「そんなことない。だって」

そこまで言いかけて止まる。私がいつもキョウヤさんの素晴らしさを語るときに使う言葉は、今さっきロキに否定されてしまった。それ以外のことで説得すれば簡単かもしれないが、それがすぐに出てこなかった。

動揺した私を見かね、ロキは腕の中から抜け出した。どうやらもう逃げる気はないらしいが、カードになったときに描いてある本来の姿に戻っているということから離す気もないらしい。

「ほらな。それに、あんなことを或音にして……オレでも暴力はダメだってことくらい教わってるのに」

さっき以上に心臓が激しく脈打つ。それはつまり、そういうことなのだろう。ロキに気付かれると考えたことは何度もあったにせよ、こんな早い段階でとは思いもよらなかった。

「もしかしたら隠してるつもりかもしれねーけど、オレ知ってるんだからな。キョウヤが、或音を殴ってるの」
「あれは……私にも非はあるから」
「どうだか」

取り繕うように言い訳を言っても、すぐに打破される。

予想していたことだとはいえ対応に困る。何を言っても墓穴を掘っているようにしか思えなくなってくるし、私の信じていたキョウヤさんが崩れていってしまう気がした。誰だって、絶対といえる存在をそんな風に言われたらそうなってしまうだろう。

行き場のない不安に駆られながら、心臓を落ちつけようと深く息を吸った。

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