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最近、或音に元気がない。

初めて会った時から生きているような感じがしなかったのはあったけど、ここ数週間はさらに細くなった気がする。細くなったというより、ガリガリになったと言うのが正しいほどに。

オレがどれだけ茶化しても聞こえていないかのように中途半端な返事しかしねーし、泣いているような笑顔をするだけ。見てるこっちが辛くなる。

オレはキョウヤが好きじゃない。或音の婚約者だからとか子供っぽい理由じゃなくて、あの不気味な笑顔が怖くて仕方ないからだ。オマケにあんなにでっかくて頭が3つもあるドラゴンを後ろに付けていちゃ安心できなくて当然だ。このことは、或音は知らないだろうけど。

或音のバディになる前にいたところの空気と、キョウヤの出す雰囲気は似ている。勝者だけが正義で、弱いものはとことん潰され痛めつけられるあの場所と。或音が弱いと言われているみたいであまり気分のいいものではなかったが、オレが知っている中であいつと似ているものといったらあそこしかなかった。

「或音、ご飯食わねえの?」

小さな机の上に置かれた朝ごはんを見ながら話しかける。

「いいや。そんなにお腹すいてないし」

そうは言ってもお前、昨日の夜ご飯も食べてなかっただろ。オレがあっちに食べに行って帰ってきたとき、同じ場所に或音の夜ご飯らしきものが置いたままだった。今日も同じだ。ついさっきあっちから戻ってきたら、目が覚めたらしい或音が机の横でふらふらとしていた。

「せめて一口だけでも食べとけ。何でもいいから」

一口で足りるわけなかったが、食べないよりかはマシだ。今日は特にそうだろう。

或音がパンを咀嚼し飲み込むのを目で見ると、オレはすぐにカードになった。そのままひらひらと部屋の中を動き回る。

「ロキ?どうしたの?」

珍しいね、と言いながらオレを捕まえようとする或音。そう簡単に捕まるわけにはいかないから、その手を避けながら生意気なドアの前まで来た。或音
がこっちに来ているのを確かめて、ドアの下にある隙間からするりと抜けだした。

「えっ……ロキ!?戻ってきて!やだ!」

思っていた通り、或音はオレをしきりに呼びつけた。いつも落ち着いた或音が子供のようになる様子は聞いているだけでもぞっとした。

あえて部屋に戻らずにいると、何かをひっかく音がしだした。それにギョッとしていると、或音のか細い声が聞こえた。はっきりとは聞こえなかったが、オレを呼んでいるのだけはわかった。この音はドアを開けようとしている音らしい。

「やめろ或音!」
「やだ、ロキ、一人にしないで置いていかないで……!」

オレが声をあげても或音は聞いちゃいない。仕方なくカードから戻ってドアを無理やりこじ開けると、目を真っ赤に腫らした或音がそこにいた。ドアを引っかいていたせいで爪が削れている。何かに取り憑かれたかのような或音は、キョウヤとは違った方向に不気味だった。

「ロキ!もう、勝手に外に出ていかないで……」

安心してオレに抱きつこうとする或音を見かね、またカードに戻る。そして廊下をその姿のまま飛んでいけば、或音はすがりつくような表情でオレを追いかけてきた。こうなればもうこっちのモノだ。ちょっとだけ迷いながらも、オレは外に出るための道を突っ走った。


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