18


ロキがバディになって数週間が過ぎた。あれからキョウヤさんが私に対して手を上げることはなくなり、平穏な日々を過ごしていた。甘い言葉でできた世界。部屋から出ることのなかった私には、それが全てだった。

一度、ロキに聞かれたことがある。

「……どうして或音はこの部屋から出ないんだ?」

自分でも分からなかった。出る必要がない、といえばそれで済む問題かもしれなかったけれど、そういう話ではなかった。
食事はキョウヤさんが持ってきてくれるし、簡易ではあるがシャワーも浴びることができる。最低限どころかそれ以上の衣食住が確保されていたから。

「何でだろう。私も、よく分からない」

それでもまったく安全というわけではない。今は機嫌がいいのか何も痛めつけることをしてこないけれど、いつまた始まるかは予測できない。
彼に仕事か何かによる圧迫がかかればその時だろうけれど、あいにく私にはそれを知る手立てがない。

ただただ、今日はいつも通りだ、と帰ってきたばかりの顔を見てほっとするだけしかできない。

「だってさ、別に手とか足とか縛り付けられて出られないようにされてるんじゃねーし、広いとはいえこの部屋だけで過ごすのは退屈すぎるだろ?オレはもう飽きた」

ロキの何気ない一言にどきりとした。その昔、というほど昔でもないが一時期手首に拘束具が付いていたことがあったから。常時固定されていたわけではなくとも、彼がいる間はほとんど動けなかったと言ってもいい。

もしかして、ロキはこのことを知っているのだろうか。

「そういえば、ロキはいつキョウヤさんと出会ったの?」
「それは……」

話を切り替えたくて逸らすと、ロキはばつが悪そうな顔をした。聞かれたくなかったのかもしれない、と思って申し訳なくなる。

「ごめんなさい、嫌なら話さなくてもいいから」

そう掻き消すように言えば、静かだった空気がさらに沈黙に包まれた。余計なことを聞いてしまったな、と思いながら、彼のことを考えていた。

キョウヤさんは素晴らしい人。それは、世の中の誰に聞いてもそう答えるだろう。若いながらも総帥としてあらゆることに尽力していらっしゃる。
世間の評価ではこんな風だと思う。もちろん私もそう思う。素敵な笑顔を持つ御曹司、と言われファンのような女の子も大勢いる。多くの人に慕われる人望を、あの方は持っている。

だからこそ、時々私に見せるあの表情もあるのだろう。弱みのない人間はいないと言うけれど、彼も例外ではないのだ。

その弱みというのが私がいれば多少は補われるのなら、私は彼から離れるわけにはいかない。

「なー或音、今度遊びに行こうぜ!この辺山ばっかだけど、歩くだけでも楽しいんだ!」

無理に明るくしてくれているようにさえ見えるロキの言葉に生返事を返しながら、彼の冷たい手の温度を思い出していた。

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