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いつものように仕事へ向かうキョウヤさんを見送り、ドアが閉まるのを見届ける。廊下からの光が遮られるとすぐ、金属の擦れる音がした。これで、どう足掻いても外に出ることは不可能になった。
今までは、外に出たら殴られることはあっても鍵はかけられていなかった。そりゃあ一度逃げられている以上、当然の行為だとは思うけれど。なんとなく今日は一人でいたかったから、ロキには帰ってもらっている。

一度だけ、家のことが気になってキョウヤさんに聞いたことがある。

「或音の家?ああ、それならもうとっくに吸収したよ。親御さんも喜んで承諾してくれたからね」

確かに臥炎家と私の家では臥炎のほうが比べ物にならないほど大きいし、合併というより吸収になるのは分かる。しかし、それなら一報くらいあっても良かったのに、とそのときは思っていた。

しかし、本当はそうではなかったみたいだった。後に知ったことだけど、私がキョウヤさんの元へ行った少し後、父親がトップを務めていたグループは急激に株価が落ち倒産の危機にまで追い込まれ、両親は多額の借金を抱えることになったらしい。そんな状況でキョウヤさんが私の両親に持ちかけたのは、私のことを買うという話だった。

当然、違法なことではある。それでもキョウヤさんの力を持ってすればそのことを隠すのは造作もなく、そういった問題は全く発生しなかった。最初は両親も猛反対で婚約取りやめまで言い出したそうだけど、キョウヤさんに敵うはずもない。結局お金のやりとりは発生しなかったとのことだったが、その後私の家がどうなったのかは分からない。
ここまで深い話を教えてくれたのはダビデさんだった。これだけのことを知っているだけでもかなりのことだというのに分からないことがあるということは、どう調べ尽くしても見つからないほどのことなのだろう。それとも自分の目で確かめるしかないということだろうか。

どうしてキョウヤさんが私にああ言ったのかは分からない。本当に吸収されたというのならすぐに情報を得ることができるだろうから、ダビデさんの話していたことと繋がらない。どちらを信じるのかの判断は任せられたのだ。

知りたい。自分の家が、どうなっているのかを。幸せにしでいるのならそれでもいい。できれば、私がいないのを寂しがりながらも、夫婦仲良くしていてくれたらいい。そんな興味関心が膨れ上がって、私はついドアの前に立っていた。無理だと分かっているのに、ノブを握って下に下ろす。思っていたような感覚はなく、あっさりと一番下までそれが下がった。そのまま体全体で押すようにすれば、簡単にドアが開いた。身なりも何も気にせず廊下へ足を踏み出し、その場から去ろうとすると、足が止まった。

「どこへ行こうとしていたの?」

少し前に出て行ったはずの彼がそこにいた。まるで、私がこうして出てくるのを見破っていたかのように。獲物が巣穴から出てくるのを待ちあぐねていたハンターのように。

乱暴に髪を掴まれ、部屋へ戻される。体がベッドへ沈んだと思えば、首元に手が当てられた。首が痛い。息をするのが辛くなる。頭全体が固まってしまったようになり、何も考えられなくなった。

「どうして抵抗しないんだ。苦しいだろう、辛いだろう?」

そうは言われても、抵抗しようにも体に力が入らない。言葉を発しようとしたけれど、声が出なくてただ口がパクパクと動くだけだった。

助けて、と声にならない声が出た。ひゅうと空気が漏れるだけだったにも関わらずそれは彼に届いたらしく、首を絞める手が緩んだ。

「大丈夫かい、或音?言われたから手を離したのだけれども」
「ありがとう、ございます」

まだ呼吸が落ち着いていなくて、声が掠れる。彼のこういうところは優しいと思う。もちろん聞いてくれないときもあるけれど、時々こうして気遣ってくれる。この話をエルフさんだかに話したときには全力で否定されたけれど。

「まだぼくには物足りないからね、もっと楽しんでもらわないと」

そう、薄気味の悪い笑みを浮かべながら。


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