15


なんとか弁解の言葉でも言い繕おうとしても、口から発せられるのはただただ息だけで何一つ言い訳は出でこなかった。

「あの、キョウヤさん」
「ああ、買い物をしてきてくれたんだね。ありがとう。これだけ沢山の荷物をここまで持ってくるなんて、大変だったろう」

柔らかい口調で話しかけられたと思うと、ずっと手のひらにかかっていた負担が突然消えた。どうやら買い物袋をキョウヤさんが持ってくれたようだった。少し重さに顔を歪ませながら話しかけてくる姿は微笑ましく、まるでそこら辺にいる普通の恋人のようにも見えた。

「これはぼくが片付けておくから、或音は先に部屋に戻っていて」

やはり、キョウヤさんは優しい。



記憶を探りながら長い廊下を歩き、部屋の前へとたどり着いた。重いドアに体重をかけるようにして開け、中へ入る。人工的な明かりが煌々としていて眩しい。
まばたきを繰り返してなんとか目が慣れたところで、またドアが開く音がした。

「或音、少しこっちへ来てくれるかい?」

言われるがままにキョウヤさんの元へ向かう。その瞬間に、彼の手が動く。
殴られると思って咄嗟に首を竦め目を瞑ったけれど、いつになっても痛みは来なかったのでおそるおそる目を開いた。

キョウヤさんはどこからか小さな箱のようなものを取り出したと思ったら、こちらへ差し出してきた。
中央には楕円形の赤い石のようなものが嵌っていて、妖しく光っている。一面だけ開いている場所があるのでそこから中を見ると、カードの束が見えた。

「これは何ですか?」
「バディファイトのデッキだよ。君も、ずっとここにいるのは退屈だろうと思ってね」

デッキをケースから取り出して手に乗せれば、縁が金色のカードがあった。盾と剣が重なったデザインも描いてある。隅々まで見れば、これがレジェンドワールドのフラッグということがわかった。レジェンドワールド、というのは要するに類のようなものだろう。
詳しいことは全くわからないけれど、キョウヤさんもみんなもバディファイトをしているおかげで本当にわずかの情報なら得ている。

「しかし私にはファイトをする相手もいませんし、何よりもルールを知りません」
「なんだ、そんなことか。心配いらないよ。ぼくも時間があれば教えるつもりだし、君のバディもいる。おいで」

キョウヤさんがそう呼べば、私の手の上にあるデッキから一枚だけ浮かび上がってきて、それがモンスターに変わった。

水色の肌に長い尾、ウェーブのかかった金髪と、ところどころについている防具のようなもの。悪戯っ子のような笑みを浮かべたそのモンスターは、私を見てニヒルに笑った。

「紹介しよう、レジェンドワールドのロキ・ザ・エアガイツさ。ロキ、こちらは或音。君の新しいバディだ」
「こいつが?」

ロキと呼ばれたモンスターは、私のことを舐めるように見る。相手は小さなモンスターだと言っても、あまり気分のいいものではなかった。

「そうだよ。彼女はまだ初心者だから、君がルールを教えてあげてくれないかな」
「仕方ないなー」

だらけた返事を返すロキに、気が抜ける。この様子でキョウヤさんと話す人なんて、ダビデさん意外にいないと思っていたのに。

「すまない或音。今はこんな風だけど、こう見えても彼は主人には忠実なんだ」

およそ怪しい発言ではあったけれど、これからバディとしてやっていく以上ロキに支えてもらうこともあるだろう。真面目でない様が逆に気を張らなくて済むからありがたいとも捉えられるし。

「えっと、じゃあロキ、よろしくお願いします」

おどおどしながら手を差し出すと、小さな手が私の手のひらに収まった。目を見て挨拶しようと上を向けば、ロキは顔をわずかに赤らめていた。



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