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どれくらい遠くへ来たのだろう。早足で歩くたびに買い物袋が軋む音がして、破れないだろうかと不安になる。
やっぱり全部持ってくるのは無理があった、と思いながら、もしこのまま誰にも見つからず暮らすことになったら、これだけの食料を揃えるのは難しくなる。
エルフさんから受け取ったお金は今までの私には食料の買い出し以外に使い道がなく余らせてきたけれど、それでも長く生活していくにはさすがに底をつく日が来る。
落ち着いたら働き先を探そう、その前に今をどうにかする必要がある。

そんなことを考えていても、雨で濡れた足は止まることなく動く。
ここがどこなのかなんて、もうとっくの昔から分かっていない。ただ見えるのは鬱蒼とした木々で、町よりもずっと人気が少ない。追っ手がいている様子はなかった。

なんとなく懐かしいような気がしたのは、エルフさんに連れられてあの場所から逃げ出したあの日を思い出したからだろう。あの場所の周りの樹海が頭に浮かんでくる。
これだけ歩いたのは久しぶりだったけれど、不思議と疲れは感じていなかった。もはや何かを超えてしまって疲れさえ感じなくなってきたのかもしれない。

少しだけ、どうして私は逃げているのかという思いも生まれてくる。
少なくともあの場所にいれば、こんな風に雨に濡れて汚れてしまうことも、重い荷物を両手に持って歩くこともしなくて済んだだろう。
後先のことも深く考えずに暮らせる毎日。彼から殴られたりするのは嫌だったけれど、そんな生活はとても楽で、つい流されてしまう自分がいた。

いつから彼が私にああやって接するようになってしまったのだろうかと、何度か考えたことがある。
答えは出ず、気づいたら体の痣が酷くなっていったことくらいしか思い浮かばなかった。ただただ何もしなくていい生活に身を任せて、優しかったキョウヤさんをあんな風に変えてしまった。
彼がああなってしまった原因は私にもあると言えるだろう。

今、彼はどうしているんだろうか。私を探しているらしいということから、私がいなくなったことに気づいたと分かる。
おそらくもっと早くに私がいないことには気づいていたんだろうけれど、今まで見つけられずにいたのだろう。どうやって見つけたのか疑問ではあるけれど、彼ならそのくらい容易いことだという結論に至る。それだけの権力と財力を、キョウヤさんは持っている。

みんなが私の代わりになっていたら、謝っても謝りきれない。エルフさんだけでなく、ダビデさんやソフィアちゃんも私を逃がすために尽くしてくれたのに、彼らが被害を受けていては意味がない。それなら、私が的になった方がいい。

解決策でもなんでもない答えが出で虚しくなる。一番いいのは彼が力でなんとかしようとするのをこれで止めてくれることだけど、そう上手くはいかないだろう。キョウヤさん自身が、総帥としてそういう風に教えられてきた以上仕方ないことだ。

どうしようもないと分かっていても、彼を信じることのできない自分のことを一番軽蔑していた。私はあれほどキョウヤさんを好いていたはずなのに。

ぬかるんだ地面を踏んでしまい、足が取られる。慌てて体制を立て直し前を向くと、目の前にはたった今考えていた彼ーーーキョウヤさんがそこにはいた。

「おかえり、或音。遅かったね?心配していたんだよ」

ごめんなさい、みんな。
私の居場所は、結局ここ以外にはないみたいだった。

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