13
鞄の持ち手が手に食い込んで痛い。一度に必要なものを揃えようとして、つい買いすぎてしまった。
お店の方の好意でいただいたビニール袋も、今にもはち切れそうなくらいまで買ったものが詰め込まれている。自分で持っていった鞄とそれを両手に持ち、首と肩で傘を支えながら歩く。
雨は家を出た時よりも強くなっていたけれど、そう気になるほどのものではないからこれで十分だ。
時々持ち方を変えて痛みを軽減しつつ、やっと家の近くまで来た。しかしほっと安心したのもつかの間、人の声がして肩が跳ねた。
この場所では聞きなれない、はっきりとした男の声。
角に隠れて恐る恐る声のする方向を見ると、黒いスーツ姿の男性が何人もあたりを探し回っていた。
体全体が震える。ただの寒さではなく、恐ろしさで。
こんな場所にあんなに整った服装で現れる人はまずそうそういない。ましてや、それが何人もいるなんて、ほとんどありえないのと等しい。
それなのになぜ。自意識過剰だとかそういう感情は一切無くとも、それが私に関係することだと結びつけるのにそう時間はかからなかった。
見つかるはずがない。きっとこれは偶然で、スーツ姿の彼らは私を探しているわけではない。
そう考えてもそれはすぐに打ち消され、代わりに最悪の状況が頭をよぎる。
もし彼らが探しているのが本当に私だとしたら、探させているのはほぼ確実にキョウヤさんだ。私の居場所を元からディザスターの面々以外に伝えていない彼がわざわざ人を使って探しに来るとは思っていなかったから安心していたけれど、このまま見つかってしまったらどうなるかは容易に想像がつく。
もう一度曲がり角の先を見る。男たちはまだあたりをうろついている。これでは当然、家に帰ることもできない。
かといってこのままここで立ち往生するのも、どこか別の場所へ逃げるのも難しい。今動けば見つかってしまう可能性もあったから、下手に動けなかった。
足元が随分と濡れてしまった。いっそう強くなった雨は今の傘のさしかたでは凌ず、足だけで済まずにいろいろな場所に水を含ませていく。
幸いにも鞄が雨を弾いて買ってきたものは無事だったが、服はもうびしょ濡れになっていた。このままでは、風邪を引いてしまう。
とりあえず来た道を引き返そう。ここでは男たちにすぐに見つかってしまうかもしれない。
動いて見つかる、なんてことも怖かったけれど、このままやすやすと見つかるのも嫌だった。
一旦荷物を地面に置いて、傘を閉じる。それを壁に立てかけておき、また荷物を手に持つ。今日買ったものは全て食材だから、少し重くても持っていた方がいい。
私は急ぎ足で路地から抜け出した。
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