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気づいたら雨が降っていた。

私は鍋をかき混ぜる手を止めて、勝手口を出てすぐにある物干し場に向かった。
幸いなことに、まだ降り始めて間もないからか干していたものはそれほど濡れてはいなかった。それでも慌てて衣服を部屋の中に取り込み、ほっと一息つく。
少しずつ、家事にも慣れてきていた。

雨音が室内に響いている。荒い造りのせいもあって、少しうるさいと思えるほどに音がして目を閉じた。
多少の雑音がする方が集中できるとはよく言ったもので、ここ最近のことが鮮明に思い出された。それと同時に浮かび上がるのは彼らのこと。
もう彼は気付いたのだろうか、今ごろどうしているのだろうか。みんなは無事かどうかも気になる。でも、今の私にはそれを確認する手立てはない。


とりあえず、ここに来てからの数日間はエルフさんが訪ねてきてくれた。その時は彼に気づかれたなんてことは言っていなかったから、大丈夫そうだ。とは言っても、あえて私には伝えない気かもしれないけれど。

あの後から瑞分と経ったけど、一向に誰か来る気配はない。資金などの必要なものはその時にもらったから心配はいらないし、不安ながらも生活するのに必死で気にしている暇もなく、今に至るというわけだ。
掃除や洗濯はそれほど難しいとも思わなかったし、拙い料理も、失敗を挟みつつもなんとか食べられるくらいにはてきるようになった。

しかしもうそろそろエルフさんと一緒に買い物に行った時に買った食材も尽きそうで、買い足しに行こうか迷っていた。今日明日はなんとか持ちそうだけどそれ以降はさすがに無理がありそうだ。

外に出てもいいけど、キョウヤ様に見つからないようにしなさい。
そうエルフさんが言っていたのを思い出す。

決めた。夕飯を食べたら買い物に行こう。傘をさしていれば顔は見えにくいし、何よりもあたりが暗いから紛れるだろう。

さっき取り込んだ服を壁にある出っ張りにかけていく。大して多くはない量だからすぐに終わり、途中だった夕飯作りに戻る。ある程度の調理は終わったので、あとは火を止めて置いておくだけで済む。目算で30分というところだろうか。
それだったら町の商店街に行って足りないものを買うくらいの時間はある。

そこまで考えたところで、無意識に家の鍵と大ぶりの柔らかい鞄を手に取っていた。

鍵穴に鍵を差し込む感覚が懐かしい。錆のせいか抵抗があって、強く力を入れないと閉まらないのは少し不便だったけれど今はもうそれも手慣れたものだ。鍵を閉めてから傘をさし、足にかかる水滴も気にせず歩き始めた。


「……或音?どこ行ったんだべ?!」
そう、慌てて言う声も気づかずに。

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