09


富士の樹海をなんとか抜け、開いた場所に出た。すっかり体力の落ちた状態で長い距離を歩くのはとても辛くて、すでに体はヘトヘトだった。でも、早く行かなくては。そうしないと、せっかくこうして出てきた意味がない。

ぞくりとする程冷たい空気が、あの狂気を孕んだ目を思い出させる。樹海のせいもあるのかあたりはやけに涼しい。

「或音ちゃん?」

先を歩いていたエルフさんが振り向いてこちらを見てきた。ごめんなさい、と細い声で言うと、すぐに私の元へ歩いてきて私の手から荷物を取った。

「この先は町だから休憩してる暇はないのよ。さあ、急ぐわよ」

驚いている私を見ていないふりをして、そう早口で言う。

「荷物ぐらい自分で持ちますから、大丈夫です」
「いいのよこのくらい。気にしないでさっさと歩きなさい」

特有の笑顔さえも頼もしく思える。ありがとうございます、と告げると、余裕の笑みを返された。


そうこうしているうちに町の中へ入っていたようで、あたりがカラフルになっていた。久しぶりに見る色合いに、目がチカチカする。

こっちに来なさい、と言うエルフさんの言う通りにすると、布を被せられた。前が見えるように調節してからよくその布を見ると、大きめの帽子のようだった。
おそらくこれを使ってできるだけ顔を隠せ、ということなのだろう。

足が縺れて転びそうになる。疲れと慣れない頭の重みのせいだろう。幸いものを考えるだけの余裕はあるみたいだから、何も考えずエルフさんのあとを追うことにした。


しばらく歩いていると、次第に町に色がなくなってきた。心なしか道の舗装も所々削れていたり汚れている。空はさっきの明るさが嘘かのように暗い。とても同じ町のようには思えなかった。

「足元、気をつけて」

声をかけられて思わず下を見ると、雑多に置かれたカンが転がっていた。間違えて踏んでいたら転ぶところだった。

つまづかないよう恐る恐る歩いていると、ようやく眩しいといえるような明かりが見えてきた。路地裏に入ってどのくらい経ったのだろうか。濁った空気が少しずつ綺麗になってくる気がして、軽く深呼吸をした。


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