き
僅か12歳ほどの少年が、恐ろしく大人びた瞳をして、笛を奏でる。
その様子は、いつの間にか辺りの住人の間では有名になっているらしく少し距離を置いたところから、少年の笛の音を聞いている者たちがいる。
少し距離を置くのは、少年の心が酷く荒んでいることが分かるから。たった一人の、兄妹の様に仲の良かった小さな少女。
今思えば、テレシオはあの少女に恋をしていた。小さなころからずっと一緒で、少女が笑うとうれしいのは、きっと自分が少女のことを妹のように思っているからなのだろうと思っていた。
だが、しかし失った時に気づいた。
自分の中の少女の大きさに。
少女は奪われた。身勝手な政府に実験の贄とされたのだ。
少年は、笛を奏でる。ふと、いつもと違う風が吹く。
さぁと少年の頬をくすぐって吹き抜けて行った風は、何故か失ったはずの少女のことを思い出させる。
不思議に思いながらも、一旦笛を吹くのをやめ辺りを見回す。
「リベラ………」
答えてくれないかと、木の陰からいつもの様にいたずらっぽい笑みを浮かべて出てくるのではないのかと、あらぬ希望を抱く。
小さな声で呟かれたその声に、答える者はなく、穏やかな風が少年の声をさらって吹き抜けて行った。
幻想のき望にすがる―――君の記憶を追いかけて
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