鮮やかな緑色の木々が生い茂る森の中、一人の少年が笛を奏でる。




月と見紛うほどの見事な黄金色の髪に、深い知性を思わせる海原の瞳。

この少年、名をテレシオという。




テレシオの奏でる旋律は、どこかもの悲しげだ。


そして、その原因は今も彼の脳裏に焼き付く一つの光景。






『ティオ!!……来ちゃダメ…っ!!』






愛おしい、少女。

自分のことをティオと愛称で呼ぶその少女は自分より二つばかり幼く、それでもとても賢い子だった。


彼女を連れ去った者たちが、何なのかは検討が付いている。

だが、あの強靭な鉄の扉に阻まれた先に足を踏み入れることなどできはしない。






彼女を失った喪失感と、もしかして戻ってくるかもしれないという淡い希望がテレシオの胸中を満たす。




そして、彼女がもしあの鉄の中から出てこられた時の為に、ふき続けるのだ。





彼女に、知らせるために。



自分はここに居ると、知らせるために。



彼女が大好きだった曲。彼女が大好きだった笛の音。



愛おしい少女は誇らしげに語っていた。



『絶対に、ティオの笛の音は聞き間違えないよ!どこに居たってわかるもん!』



そう言って、笑った。



だから、今日も笛を吹く。





この音が、彼女のもとへ届きますようにと…





淡い希望を抱きながら












の子の願い


―――あの日失った君へ




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